幕間:取調室の攻防戦
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「……いつもぶっ倒れるまで突撃してんのか?」
「ノーコメントで」
「人使いの荒い会社に勤めてんなあお嬢ちゃん」
「わたしが勝手にガス欠になってるだけですよ。むしろ突撃し過ぎだって叱られてるぐらいですし。正直……帰るのが超怖いです…!」
顔色の悪さは疲労のせいだけではなさそうで、少女は若干震えながら呟いた。
底の見えない、見せない表情をしたかと思えば、素直な感情を表に出す。子供と表現しても間違いでない容姿であることも相まって、どうにもやりにくい。
そんな感情に顔をしかめていると、結理の方から切り出してきた。
「あ、そういえばダニエル警部補って弟さんいます?いつだったか現場でそっくりな人見かけたんですけど」
「ノーコメント」
「やだなあ……家族構成知った所で手札にもなりませんよ。それとも、HLPDの警部補殿は、身内を人質に取られたら動けなくなる人情派ですか?」
「ああそうだな。身内を盾にしようとする奴は粉砕してやりたくなる程度には人情派なお巡りさんだ」
「……冗談ですよ。チンピラヤクザじゃあるまいし、お巡りさん脅したってメリットなんか一つもないですよ」
威嚇するような笑みを見せるダニエルに、結理はつまらなそうに息をついてそう返した。視線は合わせずに小さく、だが確実に聞こえる声で言葉をこぼす。
「……平和に貢献したいって想いは一緒なんだから」
「得体の知れねえ連中の手を借りてでもか?」
「使えるものは何でも使うのはお互い様じゃありませんか?」
「口の減らねえお嬢ちゃんだなほんと…!」
「皆さんには負けます」
そこからまた少し長い沈黙が流れた。
「……で、」
その沈黙を先に破ったのは結理だった。
「わたしはいつまでここに拘束されてればいいんですか?現場で倒れてたただの一般人なんでしょ?」
「名目上はって言ったろ。お嬢ちゃんが隕石粉砕した姿はうちの部下達にも見られてんだ。色んな裏取れるまでは簡単には帰せねえよ」
「うっそー……助けてあげたのにー?」
「そのおかげでこうやって楽しくお話できてんだ。クソ多忙なお巡りさんと話せる機会なんてそうはねえぞ?」
「この間一緒にご飯行ったばっかじゃないですかあ……だいいちさっきも言ったけどわたし調べたって何にも出てきませんってー……」
疲れ切った様子でぼやきながら少女はデスクに突っ伏した。無防備に頭上をさらす姿に何か忠告の類でも投げてやろうかと思ったダニエルだったが、それは止めておいた。この距離で銃を突き付けられたとしても、少女は難なく応戦してみせるような気がしてしまったからだ。
さてこれ以上どう引き延ばすかと考えていた所で、そう広くない取調室内に着信音が響いた。ディスプレイに表示された名前を見たダニエルは、心底嫌そうに顔をしかめながらも電話に出る。
会話はさほど長くはなかった。最後に悪態をついて通話を切り、ため息をついてからまだ突っ伏している少女に言葉を投げる。
「おい、結理一之瀬。釈放だ……っと、間違えた。帰っていいぞ」
「……え、いいんですか?」
「身元引受人が迎えに来てる。うちのお嬢さんが大層世話になったって、ご丁寧にお礼の電話まで寄越してくれやがった」
「……うわあ……今日は帰りたくないの」
「どこのいきずり女の台詞だ。ほらとっとと帰れ。居座ってもカツ丼は出ねえぞ」
「よく知ってますねそれ…!」
思わずといった風に噴き出しながら、結理は立ち上がって軽く伸びをした。顔色は相変わらずよくはないが、しっかりと地に足をついていて歩きだしてもふらつく様子はない。
「それじゃお世話になりました、ダニエル警部補」
そう言って笑ってみせる顔には少女の無邪気さとは別の、女の表情があった。
そのアンバランスな表情は、何度見ても慣れるものではない。それ以上に、見透かされているような感覚がして少しだけ苛立ちが湧く。
そんな胸中に気付いているのかいないのか、少女は何でもないように続けた。
「また機会があったらご飯行きましょ?」
「……そうだな。手錠かけられる状況なら尚のこと飯が旨そうだ」
「えー?嫌ですよー」
くすくすと笑いながら、少女はカフェから出るかのような足取りで取り調べ室を後にした。
「……っとにくえねえガキだな……」
こぼれ出た悪態は、誰にも聞かれることなく室内に霧散した。
了
2025/07/27 再掲
