幕間:宵闇の宴
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「レオ君!」
降ってきた瓦礫をどうにか避けていたレオを回収し、結理は血界の眷属から大きく距離を置いた。息を整えながら相手の位置を探り、顔を青ざめさせているレオに声をかける。
「ナイスガッツ……諱名は?」
「もう送ってある…!」
「おっけ。もうちょい粘んなきゃだね」
「ユーリ……」
「大丈夫……だけど、」
あちこちに傷を負い、息を切らせる自分をどこか不安げに呼ぶレオに笑い返してから、結理はふいと視線を下に落とした。目線を追った先に誰かの腕が転がっているのに気付いたレオは思わずぎょっとして遠ざかるが、結理は「……しょうがない……」と呟いてからやや神妙な面持ちでその腕を拾う。
「……あー……レオ君?今からわたしがすること、ちょっとの間だけ見逃してくれる?」
「え?」
「全部終わった後なら、報告してくれて構わないから」
そう言い置いて、結理はレオから隠すように体を背けながら、拾った腕に噛みついた。痙攣するように動いている皮膚を破って、中に残っている血を吸い出す。
鉄と埃の味が口内に広がり、喉を通り過ぎた瞬間、血晶石を含んだ時とは違う言いようのない感覚が全身を駆け巡った。
「……っ……」
「……!」
少女の色違いの瞳の瞳孔が獣のように細長くなり、開いた唇からのぞく犬歯が長さと鋭さを増す。その明確な変化を感じ取ったレオが息をのんだ気配がし、結理はレオの方を見ると安心させるように目を見て笑う。
「大丈夫、これ以上あいつの好きにはさせないから。それと、あいつがいなくなるまで、絶対にここから先には近付かないで」
そう告げると、すぐ様振り向いて駆け出した。
「ぐ……くぅ……何だ、今のは……」
視界をかき回された上に切り刻まれて吹っ飛ばされた血界の眷属が、再生を済ませて忌々しげに目元を押さえながら起き上がる。
直後に目の前に自分の腕が転がった。
「!?」
「ありがとうございます。返すよ」
正常に戻った視界でその腕を放り投げた主である少女を睨みつけ、血界の眷属は先程まであった余裕の表情を捨てて牙をむいた。
「遊びは終わりだ…!」
唸るよりも早く触手刀が凄まじい勢いで結理に襲いかかった。結理はそれを、流れるような動作でかわしていく。だが全てをかわし切れているわけではなく、何回かに一回は攻撃が体をかすめていた。先程以上の鋭く重い攻撃に、言葉の通り今までは遊びだったことが嫌でも分かる。
「……そう。『あんたが最優先で狙うべき敵はわたしだ。わたしだけをしっかり狙って』」
気を抜けば次の瞬間に体をバラバラにされかねないプレッシャーの中、結理はそう言い放ちながら真っ直ぐに相手を睨みつけた。見えない力が触手刀とその本体にぶつかり、予想外の攻撃だったのか青年がよろめく。
「『血術』……『刃鞭―エッジ・ウィップ―』!」
速度の緩んだ触手刀を刃の鋭さを持つ棘鞭が切り裂いた。結理はできた隙間を縫って一気に距離を詰め、更に術を紡ぐ。
「『血術』……『爪』!!」
十の赤い刃爪が血界の眷属の体を切り刻む。
だが、五体をぶつ切りにされているにも関わらず、青年は笑みを浮かべた。その笑みに嫌な予感がした結理は距離を置こうとするが、相手の方が早い。
体から切り離された肉片が刃を形成し、一斉に結理に襲いかかった。術を放つ暇もなく、いくつかは咄嗟に発動させた念動力で逸らせたが、逸らし切れなかった鋭い斬撃が小柄な体を切り裂いた。
「っ!『風術』!」
切り裂かれながらも、結理は相手の目を睨むように見ながら突風を起こして無理矢理距離を作る。自身の術で吹っ飛ばされた少女の体が、横転した車に叩きつけられるようにぶつかって止まった。即座に立ち上がろうとするが、それよりも早く異形の棘に体を貫かれ、縫い止められる。
「…っ!……ぁ……ぐ…!!」
「なんだ、同族の気配がするからもう少しやるかと思ったが、随分呆気ないじゃないか」
歪んだ笑みを顔に張り付けて、腕を変異させた青年がゆっくりと歩み寄ってきた。切り裂かれたはずの体は既にほとんど再生が済んでいる。結理はそんな血界の眷属の目を真っ直ぐに見据えた。
「『牙狩り』だなんて名前がついてても、所詮はこの程度。僕らに届くことなんてない」
「……ははっ……」
「?」
「がっかりするのは、早いですよ……」
青年の目を見て、結理は力の入っていない笑みを浮かべた。
「『よく聞いてください』。わたしなんて、所詮……ただの前座、ですからね……メインは、これからです……」
「メイン?」
「人類なめんな……って、話ですよ……うちの上司が、言ってたんですけど……これは大いなる時間稼ぎなんです。人類の牙が……あなた達に届くまでの……ね……」
息を切らせ、血を流し続けながら、結理は相手の目を見続けることも、喋ることも止めない。
血界の眷属は気付いていない。自分の意識が目の前の、死にかけにしか見えない少女に集中してしまっていることに。話を聞き入っているのではなく、意識の全てが少女に釘付けになっているような感覚に違和感を覚えていないことに。
そして、少女に集中しきっていて周囲の気配の一切を感知していないことに。
意識誘導の術に確かな効果があることを確信しながら、その状態を維持し続ける。
「聞いたことないですか?今、この時点で、あなた達に届く『牙』があることを……」
「何…?」
問いかけながら、結理は自身を貫いている異形の棘の一つを握り、無造作に折った。自身の一部を難なく破壊された相手が驚愕した隙に、地面に手をついて術を放つ。
「『血術』……」
状況は整っていた。
「……『血の乱舞』…!」
「っ!!」
「お返しです……」
「この…っ!死にぞこないが…!!」
地面から生えた赤い棘がその場に縫い止めるように血界の眷属の体を貫く。無駄な抵抗に顔をしかめた青年は苛立たしげに棘を砕き、不敵に笑う少女に止めを刺そうと狙いを定めた、
次の瞬間だった。
「オーグガウト・ブロムウェルグ・オルル・メンディト」
「っ!!?」
背後に突然現れた圧倒的な気配と呼ばれた『名』に、血界の眷属は驚愕の表情で振り向いていた。何故ここまで接近されて気付かなかった?何故『名』を知っている?と疑問が駆け巡った時には、その『牙』は届いていた。
「貴公を、密封する」
「!!」
