幕間:宵闇の宴
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道路の真ん中に佇んでいるのは、背恰好だけならばどこにでもいそうな青年だった。だが彼は間違っても人類ではない。全身を針で刺されているような冷たいプレッシャーを、結理は感じ取っていた。
青年が人ならざる者である証拠に、彼の姿は近くにあった車のガラス窓には映っていない。少女の遥か後方で青年を見ているレオの『眼』には、緋く輝く羽のようなオーラが見えているだろう。
周囲には数人のポリスーツが血を流しながら倒れていて、青年が軽く手を挙げて息を吸うと、地面に落ちていた血が吸い込まれるように彼に向かっていった。
「こんばんは、いい夜ですね」
それらの光景を見ながら打ちつけるように掌底を合わせ、結理は青年に声をかけた。
「お食事もいいけど、少しわたしと遊びませんか?血界の眷属のお兄さん」
「……同族……いや、違う…?」
「ええ違います」
「まあいい。邪魔をしないでくれ」
青年が息をついた瞬間、彼の足元に倒れていたポリスーツが一斉に起き上った。砕けた装甲の隙間から見える肌は既に人の色をしていない。青年が軽く視線を向けると、屍喰らい(グール)と化した元人間達は一斉に少女に突撃する。その集団に向かって、結理は涼しい顔のまま地を蹴った。両手を広げると溢れた血が形を作り、研ぎ澄まされる。
「『血術―ブラッド・クラフト―』……『爪―クロウ―』」
振るわれた十本の赤い刃が屍喰らいを残らず細切れにした。一体ですら人間の手に余る集団を瞬時に殲滅させた姿を見た血界の眷属は、特徴の薄い顔に歪んだ笑みを張り付ける。
「その技……『牙狩り』か…!」
言葉には答えず結理は赤い刃爪を振るう。青年はそれを難なくかわすと跳び上がり、背中から生やした触手刀を雨のように少女に降らせた。結理はそれをギリギリでかわし、時には刃で切り裂く。
「『炎術』!」
攻撃の雨から抜け出すと同時に放った炎が青年を包む。結理は飛び退きながらすぐ様次の術を発動させた。
「『血術』……『拳―ナックル―』!」
両腕が赤い装甲を纏い切る前に、炎の中から触手刀が伸びてきた。攻撃をかわしながら結理は周囲の気配を軽く探った。いきなり始まった激しい戦闘がこのHL内ですら異常事態だと察してくれたのか、生き残ったポリスーツが封鎖してくれたのか、野次馬の気配は少なくともすぐ近くには感じ取れない。戦場にいるのは血界の眷属と、結理と、少し離れた所で諱名を読みとっているレオだけだ。
いかにレオに意識を向かせないかを考えながら、結理は緊張を紛らわせるように細く息を吐く。
「ははっ!やるじゃないか!」
「どうも」
「いいだろう。もう少し遊んでやる!」
楽しげな様子で笑いながら、青年は軽く腕を振ってまとわりついていた炎を消して、結理に触手刀を殺到させた。結理は攻撃を腕の装甲でいなしながら、術を練り上げる。真後ろから伸びてきた触手刀を難なくかわすと、青年が驚きに目を見開いた。そうしてできたほんの一瞬の隙を見逃さず、攻撃を繰り出す。
「『血術』……『爪』!」
腕の装甲から伸びた刃が青年を両断した。だが血界の眷属は何事もなかったかのように攻撃を続けながら、すぐ様再生していく。
(うわマジ…?)
胸中でだけぼやきながら結理も手は止めない。再生をしながらで少しだけ速度の緩んだ攻撃を切り抜けて距離を置く。ポケットを探り、血晶石を取り出して噛み砕きながら地面に手を置いて術を放った。
「『血術』……『血の乱舞―レッド・エクセキュート―』!!」
八方から放たれた巨大な棘は血界の眷属を串刺しにした。下級ならばこれで拘束ぐらいは出来るが、今対峙している相手は違う。結理はすぐ様もう一つ血晶石を口に放り込んで更に畳みかけようとし、
「……おや?」
「っ!!」
青年の視線が自分に向いていないことに気付いて息を呑んだ。血界の眷属の視線の先にはレオがいる。戦場に残る少年に何を思ったかは分からないが、獲物として定めたことだけは分かった。
赤い針山から抜け出した血界の眷属は、真っ直ぐにレオに向かいながら触手刀を閃かせる。レオは盛大に表情を引きつらせたが、すぐに血界の眷属を睨みつけると幾何学的な紋様の浮かぶ青い瞳を見開いた。
「っ!!?ぐあぁっ!!!」
『神々の義眼』の力によって血界の眷属の目がジャックされ、かき回される。突然のことに混乱した血界の眷属は足を止め、視界が確保できないまま滅茶苦茶に触手刀を振り回した。
出来た隙をついて結理はレオと血界の眷属の間に割って入り、全力で術を放つ。
「『爪』!と……『風術』!」
刃爪で四肢をぶつ切りにし、間を置かずに威力を一点に凝縮させた突風で吹っ飛ばす。だが攻撃の余波をかわしきることは出来ずにいくつかかすり、周辺の建物や停めてあった車も巻き込んだ。
