異界都市日記4
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「レオ君、ちょっと待って」
人が大分減った事務所内で、帰り支度をしていたレオを結理が呼び止めた。呼ばれたレオは振り返り、そして先程感じた引っかかりを思い出して息を呑む。
目の前にいるのは見知った少女だ。先輩であり同僚であり、少女の容姿をしているということもあって友人のような妹のような存在でもある。人間と人外の混血だと言っていた姿にいつもと変わった様子はないのに、今日は違うものに見えた。
「そんな怖い顔しないで?何もしないから」
レオの表情の変化を見た結理は困ったように苦笑し、今いる場所から距離を詰めようとはしない。
「……わたしのオーラ、何色に見える?正直に言っていいよ」
「…………緑の上に赤がかぶさってる」
『視えた』ままをレオは答えた。いつもより少し離れた場所にいる少女のオーラは、彼女のオッドアイと同じ翡翠のような緑の上に、ロングコートをまとっているような緋だ。
その緋は先程電車内で見たそれと、ファイルから取り出して見せられた帯と全く同じ色をしている。
つまり、目の前の少女もまた……
「緑と赤、か……オーラもそれなんだ……」
「……ユーリも、吸血鬼ってこと…?」
「そうだよ」
問いかけに、結理は言い淀むことなく即答した。そのことをクラウス達は知っているのかと尋ねる前に、少女が続ける。
「でも違う」
「違う?」
「うん。そういえば長くなるって言って、そのまま話してなかったね。今回のことが落ち着いたら、今度こそ話す。それまではわたしのこと怪しいって思うかもしれないけど、これだけは信じてほしいの」
そう言って笑いながらレオを見据える少女の目は、真剣そのものだった。
「わたしは絶対にライブラの……クラウスさんの敵にはならない」
「…………」
左右で色の違う瞳に射竦められたように、レオはそれ以上何かを言うことはできなかった。結理はにこりと笑うと、何でもないようにレオの横を抜ける。
「おやすみ。また明日ね?」
扉の閉まる音が、やけに室内に響いた。
「……うー…?」
鳴り響く着信音で結理は目を覚ました。起き上がってサイドテーブルに置いてある携帯を手に取り、相手も見ずに出ながら再びベッドに沈む。
「もしもし……」
『おはようお嬢さん』
「……スティーブンさん?」
『念の為と思ってモーニングコールをさせてもらったよ。今日が何の日かは分かってるね?』
予想外の相手に、結理は思わず起き上がって居住まいを正した。一体何故こんな朝からと疑問がよぎったが、電話の向こうからの言葉で理由を察して嫌な事を思い出し、盛大に顔をしかめる。
「……お腹が痛いんで休みます」
『却下だ。休むんなら事務所まで来て休め』
「うわあああああん!いやだーーー!!だってエイブラムスさん来るんでしょおぉぉぉぉぉぉ…!!?」
電話口で遠慮なく泣き叫ぶ結理だが、それで折れるような相手ではない。分かってはいるのだが、それでも抵抗せずにはいられない。
『だからこそ君がいないと始まらないだろ』
「わたしが終わります!今日こそ終わりますぅぅぅっ!だってあの人未だにわたしのこと解剖したいって思ってますよ絶対!!」
『今回は別件なんだから前のようにはならないさ。とにかく遅刻しないで来ること。いいね?』
「……………………」
『い い ね?自分で来ないなら直接迎えに行くぞ』
「うぅぅ~…!遅刻しないで行きます~……」
念を押され脅迫めいたことを言われ、結理は敗北者の気分で頷くしかできなかった。