異界都市日記4
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飲み会は賑やかに和やかに盛り上がっていた。イタリアンマフィアの大物が極秘にHL入りした。HFBI署長が独断で暗殺部隊を編成した等々、そんな物騒な話題が普通の談笑として飛び交っている。ついこの間まで、今も半分くらいは普通の生活をしていたレオは、そんな話を戸惑うような気持ちで聞いているしかない。
「レオ君飲んでるー?……って、どうしたの?」
「あ、いや…」
「そんなキョトンとした顔するなら何か面白いこと言え!そうだお前が言え!爆笑の奴を言えうはははは!」
「うわー!パトリックさん何してるんですか!!」
複雑な表情でいるレオに結理が声をかけると、同じようにレオの表情に気付いたらしいパトリックがひょいと持ち上げた。持ち上げられたレオは盛大に戸惑うが、それも盛り上がりの一つになってしまう。
「どうだね最近は。この街にも大分慣れて来たのではないかね」
「はい…そうですね…」
どうにか解放されてソファに戻ると、クラウスに尋ねられた。レオは少しだけ居住まいを正し、けれどさほど緊張した様子もなく頷いた。
「……何か面接してるみたいですね」
その様子をやや遠目で見ていた結理がぽつりと呟き、同じことを思っていたチェインとスティーブンがうんうんと頷く。
「どうなのかな…その…只でさえ異様なものばかりのこの街で、更に余計な物が見えてしまって負担はないかね…?」
「そうすねー、やっぱり挙動不審になってるかもです。さっき来る時も物凄い真っ赤なオーラを羽根みたいに広げた人見かけて…」
ここへ来る前に見た光景を思い出しながら、レオはどこか心配そうに尋ねてくるクラウスに答えた。
こんなオーラを持つ人がいるのかと驚いたと同時に、気付いたこともあって尚のことその色は覚えている。
「…あ、そういえば」
言いかけたレオだったが、場の空気が一気に凍りついたことに気付いて息を詰まらせるようにその先の言葉を呑みこんだ。
つい今まで和やかだった空気は消え去り、テーブルの上の酒瓶や皿があっという間に片付けられ、代わりに分厚いファイルと書類が乗せられた。
突然の空気の変化について行けていないレオを、クラウスが先程とは違う真剣な目で見据える。
「レオナルドくん、今…何と?緋く輝く羽根のような光と言ったかね?」
「え、あ、はい…」
「それ…正確にはこんな色?」
「あ、そうです。間違いないそんな感じ…」
スティーブンがファイルの中から取り出した帯の色は、正にレオが見たオーラの色そのものだった。場の空気が更に張りつめ、その分だけレオの戸惑いも大きくなっていく。
「…何すか?何が起こってるんすか?」
「教えてやろうしょうもなき民よ」
「何そのザックリとした王様キャラ。三文ロープレか」
「お前が見たのは吸血鬼だ」
「…………」
何故か無駄に偉そうな態度で告げられたザップの言葉に、レオはしばらく言葉を返せなかった。それから改めてスティーブンの方に向き直り、もう一度問う。
「一体何が起こってるんすか!?」
「あ、テメー」
「緋き羽根纏いし高貴なる存在。有名な古文書の言葉でね」
レオ同様ザップはスルーし、スティーブンが問いに答えた。
「研究の結果実在することはまず間違いないのに、ありとあらゆる光学機器やセンサーの類で「観測」されないままの「現象」だったんだ。どうやら君の「眼」はそれを映しだした。人間と見分けのつかぬ高位の不死者の姿を」
万物を見透かす『神々の義眼』。それが捉えた存在。
「君が見たものは、吸血鬼だ」
「何と…吸血鬼とはまた面妖な…」
「お前後でギッシギシに泣かすかんな!」
レオがHLへ来てから半年近くが経つが、『外』では伝承の住人だったものが実在しているという事実に、そして室内に漂う緊張感に気後れする。今自分が所属している秘密結社は、こういった者とも渡り合ってきているのだろう。
「……あれ?」
そんな事を考えていたレオは、引っかかりを感じて声を上げた。
先程電車から見えたオーラの色は、大きさこそ違うが身近で見たことのある色だった。今までは特に気にしたこともなかったのだが、吸血鬼の話を聞いた後では意味合いががらりと変わる。
もしも吸血鬼のオーラの色が共通だとすれば……
「ふうん、やっぱり長老級の棲み家かあ…外のゴミクズどもとは訳が違うわよね」
「彼のおかげでこれから得られる情報は質も量も跳ね上がるだろう」
レオの様子には気づかず、酔いも吹っ飛んだ様子で息をつくK.Kにクラウスが返し、続ける。
「スペシャリストの出番だ」
「ええええ~そうか…彼……呼ぶの?」
「当然じゃないか。つうか正直…呼ばなくてもいらっしゃると思うし、この事態にあの人抜きの方が考えられん」
その言葉で場の空気が先程とは違う意味で沈んだ。クラウスを除いてどこかどんよりとした空気に、胸中で浮かんだ疑問はひとまず投げたレオは怪訝そうに隣のザップを見やった。
「…ザップさん、あの人って…?わあ!!」
レオが見たザップは何とも形容しがたい表情で冷や汗を流していた。そんなザップの隣では、結理が顔を真っ青にしてガタガタと震えている。
「何なんすかその表情!ユーリも!一体どんな人が来るっていうんすか!」
レオが見た吸血鬼の話題を最後に、その日の飲み会は解散となった。