異界都市日記21
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「……よし」
意識が浮上すると同時に結理は飛び起きた。
移動した分だけ意識を失う空間転移は非常に不便ではあるが、代わりに前後の意識の混濁がほとんどないので起きればすぐに動けるのが唯一の利点だ。辺りを見回すと薄暗い執務室内に人の姿はなく、建物内に人の気配もほとんどない。寝かされていたソファから降りてかけられていた毛布を畳んでいると、扉が開く音がした。
姿を見せたのはギルベルトで、結理の姿を認めるといつものように穏やかに微笑みかける。
「おはようございます結理さん」
「おはようございますギルベルトさん。現状はどうなってますか?」
「ミスターオブライエンは無事に水槽まで送り届けられました。現在レオナルド様がエアギルスを持ち去った人物の探索に向かい、残りの方々は別件で発生したガベッジゴーレムの駆除に向かわれています」
「うわタイミング悪……」
「結理さんへの指示は特に受けておりません」
「……成程」
別件で発生した騒動に思い切り顔をしかめた結理だったが、ギルベルトが続けた言葉に数瞬真顔になってからにやりと笑みを浮かべた。ギルベルトは持っていた丁寧に畳んであるサマーコートを少女に差し出す。結理は受け取ったコートを羽織りながら、出入り口に向かって踵を返した。
「少し出てきます」
「いってらっしゃいませ」
メールが届いたのは、レオとチェインの気配を捕捉した結理が移動を始めてしばらく経ってからだった。
添付されている地図の場所に行くと、ヴァルハラ・ダイナミクスの本社ビルの前で見慣れた三人組が揉めている真っ最中で、駆け寄るとビルの方に向かおうとしているザップとそれを止めようとしているレオとチェインの三人は結理に気付いた。
「あ!ユーリ丁度いいとこに!」
「おっせえぞチビッ子」
「結理もこいつどうにかして…!」
「えっと……この状況は?」
「この糞馬鹿猿が真正面から殴りこみかけようとしてんのよ!」
「……え、別にいいじゃないですか」
「マジかよオイ!!」
「どうしてこういう時だけ思考回路似かよるのよ…!!」
「さっさと片付けてエアギルス取り返しましょう」
「だから待てって!」
一緒に止めてくれるだろうと思っていた少女がザップの案にさらりと乗っかり、レオは愕然と顔を引きつらせ、チェインは頭痛を覚えたように頭を抱えたが、すぐ様二人に増えた無鉄砲な突撃兵を止めに入る。レオとチェインでザップを羽交い締めにしつつ、結理の服の襟首を掴むが、二人は止まろうとしない。
「メール見てここ来たんでしょ!?相手は戦争のプロ集団なのよ!」
「プロだか何だか知らないけどツェッド君のエアギルス(仲間の大事なもん)強奪してただで済むと思ってんじゃねえよって話じゃないですか。もうライブラに喧嘩売ってるって言ったって過言じゃないですよ。この手のは真っ正面から殲滅させてナンボでしょ」
「分かってんじゃねえか結理!」
「ああもおおおお!何でこのタイミングでめんどくせえのが増えんだよおおおおお!!!」
「ちょ…しーっ!黙って!!」
「おい!そこで何をしている!!」
そうこうしている内に、とうとう騒ぎを聞きつけられてしまい警備員が駆け寄ってきた。レオとチェインは表情を歪めるが、ザップと結理は逆に表情を輝かせて警備員の方へ近寄る。
「あ!警備員さんちょうどいいとこに!ちょっと聞きたいことあるんですけどいいですか?」
「オレっちの仲間がさっき強盗にあってさ、命に関わる機械を無理やり剥がされちまってな。今そのふざけた糞野郎を探してんだ。アンタ何か知ら」
「知らんな」
ザップが尋ね終わる前に、警備員は話を遮って打ち切るように即答した。
「そんな話は警察でしてこい。ここは関係者以外立ち入り禁止だ、今すぐ立ち去れ」
一刻も早く排除したいという考えしか伝わってこない物言いに、ザップは今あった表情の全てを消した。ザップの隣に立つ結理は警備員を見据えたまま、ポケットから指抜きのグローブを取り出してはめる。
「おい、それは何の」
「トレンチコートの二人組。チョビ髭と黒目」
そんな少女の行動を苛立たしげに咎めようとした警備員に、今度はザップが遮るように言い放つ。男は表情こそほとんど変えないが、ザップを見据える眼光はあからさまに警戒と威嚇に変わった。敵意の視線を真正面から睨み返して、ザップは続ける。
「こっちも闇雲に嗅ぎまわってる訳じゃねえ。警察に行かれて面倒なのはどっちだ?」
「大手企業だから大丈夫だとか思ってます?このHL(何でもアリな街)で」
「いいか、しらばっくれると大変な事になるぜ。俺ァ今ギリギリでトークしてんだ」
「そうか」
ザップが言い切った直後には相手は行動に移していた。たった今特徴を上げた、黒い眼球を持つトレンチコートを着込んだ男が一瞬で距離を詰め、己の武器を振るう。
標的の視線は目の前の警備員に向いたままで、次の瞬間には周囲を嗅ぎ回る不穏な輩を難なく斬り飛ばせる。
相手のそんな確信は、予想外の手応えと金属がぶつかったような音に阻まれた。
「!?」
「斗流血法 刃身の四」
目にも留まらぬ速さで振るわれた斬撃を受け止めたザップは、僅かに驚いた様子を見せた相手の方を向いた。
「紅蓮骨喰」
そして弟弟子から生命維持装置を強奪した敵に言い放つ。
「言ったぜ?大変な事になるって」
