異界都市日記20
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ユグドラシアド中央駅を降り、通い慣れてしまった階段を降りていつもと同じ場所に出る。
風の音と強い気配が支配する空間で、結理は柵から少し離れた所に立った。下ではなく前を向き、霧に覆われた空中をしっかり見据える。
「やはり僕の警告は無視か。君は相当な捻くれ者だね」
「あんたの言うこと聞いていいことがあるとは思えないだけです」
背後から聞こえてきた呆れを滲ませた声に、特に驚きもせずに結理は振り向いた。視線の先には見慣れた稀代の怪人が、声同様に呆れた様子で口をへの字に曲げている。
そんな堕落王に、結理は静かに告げた。
「でも……もうここには任務でもない限り来ませんよ」
「ほう?」
「ここに通う理由はもうないですから」
「……成程」
少女の言葉に、堕落王はいつものにたりとした笑みを浮かべた。それを見やる##NAME2##の口元にも、わずかだが笑みが浮かんでいる。
「探しものの一端ぐらいは見つかったようだね、『理に背く者』」
「さあ?どうでしょう。あんたに話す意味も理由も……って、何してんですか?」
鼻歌交じりにカメラと三脚を用意し始めた堕落王に、結理は訝しげに尋ねていた。問われた本人は答えずに嬉々とした表情で準備を終えてから、ポケットから何かのスイッチのようなものを取り出して押す。
「……何してんですか」
「君の快気祝いさ!こういったことは派手にやらなきゃ意味がない!」
再度尋ねる少女の声がワントーン下がったことも気にせず、心の底から楽しげに答えた堕落王は軽く咳払いをしてからカメラのスイッチを入れて、すっと息を吸った。
「……御機嫌よう!ヘルサレムズ・ロットの諸君!堕落王フェムトだよ!!いやー今日の僕は実に機嫌が良い!このワクワクをお裾分けしようと日々無駄な退屈を享受してる君達にプレゼントを用意してみたんだ!今召喚された合成獣達は僕の新作でねぇ……」
こちらを蚊帳の外に置いてカメラに向かって演説を始めた堕落王を無表情で見つめながら、結理はポケットから指抜きのグローブを取り出してはめた。具合を確かめるように拳を二、三度開閉していると、着信音が響いたので電話に出る。
「……結理です。ええ分かってます。何せその原因がたった今目の前で演説してるんで。いえいえ、拉致られてるわけじゃないです。体調も絶好調です。今日こそあの仮面叩き割ってみせるんでそっちお願いします。」
「という訳だ!せいぜい頑張り給えよ諸君!!」
返答を聞かずに通話を終わらせた頃には相手も演説が終わっていた。携帯をしまった結理は音がしそうな程強く拳を握り締めると、とんと軽い音を立てて地を蹴る。
「さあて結理!君の快気祝いのゲームはどれくらいでクリア」
「こんのクソ堕落王しねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」
楽しくて仕方がないといったオーラを振りまく稀代の厄介者に向かって、少女は全力で拳を振りかぶっていた。
異界都市日記20 了
2024年8月17日 再掲