異界都市日記20
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「……本当は、知るのが怖かったんです」
深い霧から逃れるように走る車内で、意識を無くしていたと思っていた結理が、K.Kにぐったりと寄りかかったままぽつりと呟いた。
「本当はわたし一人が世界から弾き飛ばされただけで、崩壊の記憶はただの勘違いで、わたしの故郷は滅んでいない。ただわたしが帰れなくなっただけだって、思おうとしてた所もありました」
今にも途切れてしまいそうな弱々しい声音で語り続ける少女を、誰も止めようとはしなかった。
「でもやっぱり、故郷は消えてなくなってました」
力のない声に涙は混じっていない。
「わたしは、何もできなかった……何も出来ずにわたしだけが、『理』に背いて生き残ってしまった……」
だがその姿に、声に、深い感情があったのは確かだった。
「……でも、ちょっとスッキリしました」
そう言って息をついた結理は身を起こした。隠しようのない濃い疲労の色が浮かんでいたが、表情に曇りはない。
「十年近く彷徨った甲斐があったのかは分かりませんけど……ずっと知りたかった事、いつかは知らなきゃいけないことを知れてよかったです。まさか自分の記憶の中にあったなんてのは、ちょっと拍子抜けしましたけど」
言いながら苦笑をこぼした結理は、表情を隠すように両手で顔を覆ってうつむき、深いため息をついた。
「ユーリ……」
「大丈夫です。いや、大丈夫とは言い切れないけど、ちょっと疲れただけです。ここ最近いっぺんに色々あったんで……今日の対局がダメ押しですね」
「ならちゃんと休みなさい」
「わ…!」
返答を聞かずにK.Kが少女を抱き寄せた。結理は驚きに声を漏らすが、抵抗しようとはしなかった。
「疲れてると無駄に気が滅入るし、考えなくていい余計な事考えちゃうんだから、休める時はしっかり休んだ方がいいわ」
「……この間レオ君にそっくりなこと言われました」
息をつくように苦笑をこぼして呟いてから、少女は首だけをクラウスの方へ向けた。
「ごめんなさいクラウスさん。また無茶しちゃって……」
「……本当に、君は何度言っても無茶を止めてくれない」
「ぅ……だからごめんなさいってば……」
「だが今回の無茶は、君にとって避けては通れない道を歩む為に必要な事だった」
苦い表情を浮かべる結理の頭を、クラウスは優しく撫でる。
「よく戦い抜いた。独断で突き進んだ事を咎めるのは後回しにして、今はゆっくりと休み給え」
(後で叱られんのは確定してんのか…!)
「……はい……」
内心戦々恐々していることは表には出さず、結理は息をつきながら力を抜いた。寄りかかる肩と頭に触れる優しい温もりが眠気を誘い、意識の輪郭もふわふわと覚束なくなっていく。
「……知れたのが……この世界でよかったです……」
ほとんど夢現の中で、少女は小さく言葉をこぼした。
「……クラウスさんに……みんなに出会ってなかったら……みんながいなかったら…きっと勝てなかったし、受け止めきれなかったと思います……」
自分が今何を喋っているのか、少女自身もほとんど把握していない。だがそれでも、言葉だけはこぼれ続けていた。
「……みんなは……家族と同じぐらい……わたしにとって光なんです………」
安心しきった心からの言葉を最後に、結理の意識は深く沈んでいた。