異界都市日記19
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「君を潰そうと躍起になるデカブツを遠慮なく打ち倒して行く様は、見てて本当に気持ちがよかった。女の子なのが惜しいぐらいなセンスだよ」
「……随分持ち上げてくれますね」
「素直に受け取ってくれると嬉しいな。『漆黒の戦乙女』」
「今だから言いますけどそのネーミングめちゃくちゃ恥ずかしいです」
「そうか?君を端的に表すいい通り名だと思うけどな」
からから笑いながら青年は結理から離れた。警戒は解かずにいるが、結理は動くことができなかった。格の違い過ぎる相手は間合いの中にいる。自分が今こうしてここにいられるのは、相手に襲う意思がないからにすぎない。
挑めば、勝ち目はない。
「……聞いていいですか?」
「ん?」
「あなたは、わたしが何なのか知ってるんですか?」
「……知ってるよ」
答えながら青年は手近にあったベンチに座り、少女を促した。数瞬迷ったが、結理は青年の隣に座った。
「ここでない異世界の吸血鬼と人外と、人間が交わった子。だろう?」
「知ってて、わたしを前座に雇った」
「それはただの偶然。気付いたのは君がリングに上がって秒殺を決めた後だ」
「あなたは同族でない同族が嫌ってタイプじゃなさそうですね」
「そういうのは正直どうでもいいかな?好きなだけ楽しく殴り合えるかどうか。興味があるのはそこだけだ。でなきゃわざわざ自分が殺してない死体を探して被ったりなんてしないよ」
「……物好きですね」
「君にも分かる部分はあるんじゃないか?」
「……否定はしません。わたしも……多分、あなたぐらい力があったら似たようなことはすると思います。流石に死体を被ったりはしませんけど」
からかうような問いかけに一瞬黙ってから素直に答えると、青年は息をつくように笑みをこぼした。
「……わたし以外にも異次元の吸血鬼に会ったことはあるんですか?」
「一回だけね。気の合う面白い奴だった。だから血界の眷属(僕等)が異次元の同族(君達)を受け入れられないのかって問われたら、イエスでありノーと答えるよ」
「……あなた達は一枚岩ではないから」
「そういうこと。大して興味もない奴もいれば、異次元の存在ってだけで目の敵にする奴もいる。君の存在を見抜けない奴もいるだろうね。ただ、あんまり異界(こっち)には近付かない方がいい」
「今の異界には、わたしのような異次元の存在はいるんですか?」
「その答えがイエスだとしても、近付くことはオススメしない。君達(人間)が思っている程異界は超常でも万能でもないよ。何か目的があるんなら、尚更止めた方がいい。無暗に蜂の巣をつつくような行為はお互いの為にもよくない」
「でも……っ!」
結理が顔を上げた時には、隣に座っていたはずの青年の姿はなかった。立ち上がって周囲を見回すが、どこにも姿は見られない。
「エデンではありがとう、『漆黒の戦乙女』」
「!!」
「次にどこかで会った時は、見ないふりをしてくれるとありがたいね」
声のした方を振り向くがやはり姿はなく、気配も感じ取ることができない。残された少女は、その場に立ち尽くしていることしかできなかった。
「…………人間が思ってるより万能ではない、か……」