異界都市日記19
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その時の記憶は、どれだけ手繰り寄せようとしても靄がかかったように不鮮明なままで、覚えている光景はほんの僅かだった。
崩壊していく地面。
暗く割れた空。
次々と消えていく建物、草木、
そして……
自分が伸ばした手は何も掴めず、ただ崩れ消え去るのを見ていることしかできなかった。
「――っ!!!」
弾かれたように開いた視界で最初に目に入ったのは、見慣れた自室だった。結理はため息をついてからゆっくり起き上がり、両手で顔を覆う。
動揺も、動悸もない。あるのは腹の中に石が居座っているような、重い感覚だけだ。
「……ぁー……久しぶりに見た……」
声に出して呟いて、もう一度ため息をつく。
見ていたのは夢と呼べるものではない。実際に起こった出来事の断片だ。詳細は何一つ思い出せない癖に、崩壊していく瞬間だけが鮮明に記憶にこびりついている。
顔を上げた結理は、何ともなしにハンガーにかけているサマーコートを見た。自分が『一之瀬結理』である証明とも言えるその闇色が、今日はやけに暗く見えた。
胸中によぎった感情を振り払うように首を振ってから、結理はベッドから降りた。
「ねーねー、昼飯行きましょーよヒルメシ」
「お?もうそんな時間か」
「行きましょう」
「ああ?何で魚類までついてくんだよ。メシが生臭くなんだろうが!」
「……このやり取りいつまで繰り返すつもりですか?いい加減学習能力を身につけてくださいよ」
「てめえこそ毎度毎度いちいち煽んなきゃいらんねえのかよ?」
「その言葉そっくりそのまま返します」
いつものようにレオが号令をかけて、ザップとツェッドがいつものように顔を突き合わせて睨み合う。それをやや呆れたように眺めて息をついてから、レオは兄弟弟子の小競り合いはひとまず放置してもう一人に視線を向けた。
「ユーリも飯行こうよ」
「……え?」
どこかぼんやりとした様子で本棚の前で何かを読んでいた結理は、呼ばれて初めて気付いたように顔を上げた。その様子に、レオだけでなくザップとツェッドも喧嘩を中断して怪訝そうに少女を見やる。
「……あ、ごめん、聞いてなかった。何?」
「いや、昼飯行こうって話」
「……あー……えっと……わたしちょっと行きたいとこあるから、今日はいいや。ごめん」
そう言って苦笑を漏らし、結理は読んでいた本をしまうと小走りで出入り口に向かい、そのまま出ていってしまった。少女が立ち去るのを見送った三人は、誰ともなしに眉を寄せる。
「……何か……最近元気ないですよね、ユーリ……」
「この間長老級の血界の眷属にボロクソに負けたことまーだ引きずってやがんのか…?」
「それにしては随分長い気もしますが……」
(本当に……どうしたんだろう?)
「オラ飯行くぞ飯ー!」
「あいた!」
少女が出ていった扉を怪訝と心配の混じった表情で眺めながらの思考は、小突かれたことで中断された。