異界都市日記18
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「うーん……確かにまた来てね的なことは言ったけど、こうゆう形って意味じゃなかったんだけどなあ……」
「面目ないです……」
何とも言えない表情で頭を掻くルシアナに、ベッドで横になっている結理は力の入っていない苦笑を浮かべながら息をついた。全身の半分近くは包帯に覆われていて、両腕からはいくつかの点滴と輸血の管が伸びている。一日に二回も同じ病院に搬送されたのは流石に初めての経験で、しかも二回目は半日以上意識が戻らなかったという重傷具合に、自分でもため息をつくしかない。
「体の具合はどう?異常に痛む所とか、逆に感覚のない所とかある?」
「それはないですけど……滅茶苦茶だるいです……」
「失血死寸前だったからねえ……やっぱ血は直接飲んだ方がいい?」
「いえ、結果は大差ないです……その方が早いは早いですけど……今そんな元気ないです……」
「ん、そんじゃあしっかり療養してて。傷塞がるのかなり早いから、貧血が治ればそんなに入院長引かないよ?ミスタークラウスには連絡しといたから」
「ありがとうございます」
「お大事にー」
明るく言いながら去り際に結理の頭を撫でて、ルシアナは病室を出ていった。
それを見送ってから、結理は深くため息をついた。意識を取り戻したと言っても、重傷が治った訳ではない。回復に努めようとする体は同時に疲労も溜めていて、瞼が重くなっていく。
することもできることもないからまた寝ようとうとうとしかけた所で、病室の扉が開く音がした。ぼんやりと扉の方を見た結理は、入ってきた相手を認めて顔をしかめる。
「げ、ザップさん……」
「おーおー、一日で立場が逆転しちまったなあつるぺた。なっさけねえ姿してんじゃねえの」
「予想通りの台詞ほざいてくれてありがとうございますSS先輩。つか、わたしが治してなかったらあんたもまだベットの上でしたからね。そこ忘れないでくださいよ?」
「……長老級(エルダー)の血界の眷属とサシで殴り合ったらしいな」
「今までで一番死ぬかと思いました……」
疲労の色を隠さずにため息をついた結理は、手近な椅子を引いてベッドの側に腰掛けたザップに問いかけた。
「……血界の眷属はクラウスさんが密封したんでしょ?」
「んなの当たり前だろ」
「ならいいです……」
「……いいってツラしてねえぞ」
「あー……まあ……またボロクソにやられちゃったし、倒し切れなかったから悔しいってのも、多少以上は……」
「長老級と一人で正面切って戦って命がありゃ上等な方だろ。それ以上何望むんだよ……」
「そんなもん、タイマンでの勝利に決まってんじゃないですか」
「………………」
「何つー顔してんですか……」
「バーサーカーもここまで極まるとホラーだな……ジャパニーズホラーサダコかよ!」
「サダコは物理攻撃しませんよ…!!ぁぃたた……」
遠慮なくドン引きした表情を向けてくるザップに思わず唸った結理だったが、苛立ちで身じろいだ際に傷に響いて顔をしかめた。痛みを霧散させるように一度大きく息をついてから、顔はしかめたままで続ける。
「だいたい前から思ってたけど、クラウスさんに挑んで無様に返り討ちにあいまくってた人に、バーサーカー呼ばわりされる筋合いないですよ」
「それこそお前と一緒にすんじゃねえよ…!!」
「やるからには勝ちたいですよ。そこは一緒じゃないですか?」
「……いやいやいや!やっぱ別モンだろ!」
一瞬納得しかけたザップは、慌てて我に返ったように否定を返すとため息をついた。
「……なあ、」
「はい?」
「お前何でそこまでして戦うんだよ?」
「…いや、血界の眷属に関しては遭遇しちゃうし、逃げるわけにもいかないから戦うだけで、別に好きでこんなになってる訳じゃないですよ?」
「もっとやりようがあんだろうよ」
「……どー……ですかね…?全力の結果がこれですし……」
「全力で突っ込んでくからこうなってんだろうが」
「そんなこと言われても……」
「心配されてんの分かってんだろ?」
「……っ……それは……まあ……だから申し訳ないとは思ってます。いつも無様に負けて」
「そこじゃねえよ…!!」
「ちょ……痛い痛い痛いいだだだだだっ!響く!他のとこに響く!!」
頬をつねられた結理は抗議の悲鳴を上げるが、ザップは構わずに頭が持ち上がりそうな程頬を引っ張ってから落とした。その衝撃が傷に響き、結理は泣きそうに表情を歪めて呻く。
「~~~~!!」
「相変わらずよく伸びんなあ大福」
「重傷人に何つーことするんですか…!!」
「色々分かってねえよお前」
「は?」
全力で顔中に不機嫌を浮かべて聞き返した結理は、ザップの顔を見た瞬間に思わず不機嫌を引っ込めた。
さっきまで楽しげに人をからかうような様子でいたザップの表情が、いつの間にか変わっていた。少女を横目に見るその顔はどこか真剣で、何故か不本意そうにしかめられている。
「……ザップさん?」
「ああもう寝ろ!とっとと寝て治しちまえ貧弱ちんちくりん!」
「いや休もうとしたとこにあんたが乗り込んできたんじゃないですか!つか痛い!そこ傷あるって!!」
焦れたようにベッドに押し付けてくる手を払いのけてから、結理は大きくため息をついた。
「ほんと…マジで休ませて下さいよ……」
返答は聞かないといった風に告げて目を閉じる。いつもならばもう二、三言返してくるザップは何も言わず、数秒程感じていた視線もため息と共に外された。それからくしゃりと頭を撫でられて、案外心配していたのか?という疑問がよぎったが、言葉に出すのも億劫でされるがままに任せながら、少しだけ考える。
(……やっぱり……異界では異次元の存在が普通に知られてた…?だとしたら……)
続けようとした思考は疲労と眠気がそれを阻害した。それ以上考えることは諦めて、結理はもう一度深くため息をついた。
意識が沈む直前の脳内に浮かんだのは、霧に覆われた大木の様な無人駅の光景だった。
異界都市日記18 了
2024年8月17日 再掲