異界都市日記18
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「わたしは……あんたみたいな……化物(フリークス)に、成り下がるつもりは……ない…!!」
「……成り下がる、ね。ならその化物にして、私の言葉しか聞こえないようにしてあげるよ」
回答を聞いた血界の眷属は先程までとは違う種類の笑みを浮かべると、空いている手を掲げて見せて何かを指揮するように人差し指を軽く動かした。
それを合図にしたように、結理の体に刻まれた傷口から血が溢れ出し、女に向かって行った。抵抗も許さず、血は止まることなく体から出ていく。
「っ!?……う……っ……あぁ……あっ……ぁぁ…!!」
愕然とした表情で細い悲鳴を漏らす少女を嗜虐的な笑みを浮かべて眺めながら、女は奪った血を飲み込んだ。ごくりと喉を鳴らし、満足げに真っ赤な舌で唇を舐めて笑みを深める。
「ふふ……やっぱり半端な味…………ぐっ!!?」
脱力した結理を眺めていたその顔が、驚愕の色に染まったのはそれから数秒もしない内だった。今まであった余裕を持った表情を全て消し、血界の眷属は訳が分からないといった様子で少女を放り捨てるように手を離すと、胸を抑えて後退する。
「あ…?がっ……は……!?」
体の内側から焼かれているような痛みの侵食が広がり、息をするのもままならない状態に困惑と苦悶の呻きを漏らしながら地面に落とした少女を見やると、いつの間にか強い意志の光の灯った目で女を見据えていた。
「……お、まえ……!」
「……流石に、原液直飲みは……効くでしょ…?」
「何、を、した…!?」
「血界の眷属なら……『牙狩り』の、戦士の特性は、知ってるよね…?」
「……な……に…?」
細胞レベルで侵食し、吸血鬼に対してダメージを与える血液。例え驚異的な回復力と再生力を持つ長老級であろうと効果はあり、技として形作られたものではなく、その元となる血を直接取り込めばどうなるかは、たった今証明されている。
「もしも、異次元の吸血鬼に……同じ血を持つのが、いたとしたら…?」
「!…そん、な……まさ、か……!!」
苦しげに唸りながら愕然とした表情を浮かべる女に向かって、結理は手を掲げた。何かを握り潰すように拳を握り締め、鋭く囁くように言い放つ。
「……爆ぜろ……」
「―――――――――!!!!!」
次の瞬間、血界の眷属の内側から爆発するようにいくつもの赤い棘が生えた。防ぎようのない体内からの攻撃に甲高い悲鳴を上げて抵抗しようともがく敵を見据えたまま、結理は更に術を重ねる。
「『氷術』…!」
放たれた凍結の術は、赤い棘ごと血界の眷属を氷像へと変えた。悲鳴は途切れ、辺りに静寂が訪れる。
「……っ……」
それを見届けて、結理はぱたりと腕を下ろした。激しいダメージを受けた上に大量に血を抜かれた体は、これ以上動ける気がしない。
(やばい……結構持ってかれた……いや……そのおかげで何とかなってるけど……)
最後の攻撃は、相手が『同族殺し』の血を大量に飲んだからこそできた芸当で、そのまま止めを刺されていたら成す術もなく死んでいた。この状況は大分運に助けられている。
(これでも殺せないとか……ほんとどんだけタフなの長老級血界の眷属…!その再生力ちょっと分けて欲しいわ……!)
消えてしまいそうな意識を繋ぎ止めるように思考を続ける結理は、まだ拳を握って術を維持したままでいる。
今気を失えば、血界の眷属は数分……下手をすれば数秒もしない内に回復するだろう。静寂が流れているが、まだ戦いは終わっていない。回復しようとする長老級と、それを阻む『同族殺し』がせめぎ合っている真っ最中だ。
(あと何分持つ……?)
押し合いでは確実に結理の方が分が悪く、今はどうにかくらいつけている状態でしかない。だがそれでも、押し負けるわけにはいかないという気力だけで、敵を制し続ける。
そんな、永遠にも近い時間を感じていた中、複数の足音と慣れ親しんだ気配を捉えた。それで気が抜けてしまいそうになったが堪えて、気配がすぐ側まで来るのを待った。正確に言うと起き上がることすらできないので待つしかなかったのだが、自分を呼ぶ声を聞いてようやく少しだけ気を緩めることが出来た。
(あーくそ……また勝てなかった…!!)
緩んだ隙間に入るように胸中で浮かんだ言葉は、流石に口に出す余裕はなかった。