異界都市日記18
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「……ひどいなあ……」
振り向いた結理が即座に構えると、相手は悠然と歩きながら公園に入って来た。炎の攻撃をまともにくらったはずなのに、焼け焦げているのは服だけだ。ほとんど原形をとどめていない上着を脱ぎ捨てて、女の姿の血界の眷属は少年の様な声で息をつく。
「いきなり火を放つことないでしょう?このジャケット気に入ってたのに……」
「殺る気満々で人のこと追いかけてくる相手に、遠慮する必要があると思いますか?」
「いきなり殺したりはしないよ。少しお話がしたかっただけ。同族でない同族さん?」
「……わたしを……いや、異次元の吸血鬼の存在を知ってるんですか…?」
苦笑する血界の眷属に問いかけながら、結理は腕に赤い装甲を纏わせた。明らかな戦闘態勢を見せる少女をどうとでもないように眺めて、女は笑みを浮かべる。唇の隙間からこぼれて見えた犬歯は、鋭く尖っていた。
「君みたいに可愛らしい子を見るのは初めてだ。それも純粋でない半端者。とても珍しいね」
「……わたしに何の用ですか?」
「言ったでしょ?少しお話がしたいって」
「今日のランチのメニューでも話しますか?」
「面白いねえ君…!」
くすくすと笑いながら女は少女を真っ直ぐに見つめる。穏やかな表情の奥から発せられている冷たく刺すようなプレッシャーに、結理は自然と拳を握り直した。一瞬でも気を抜けば次の瞬間に命を落とすという確信のような予感を抱きつつ、相手の挙動に注視しながら慎重に言葉を投げる。
「……改めて聞きます。貴女は、異次元の吸血鬼と会ったことがあるんですか?」
「まあね。けど誰も友達にはなれなかった。奴等とは考え方が合わなくてね。そんな何度目かの正直で、君とお話をしたいと思ったんだ」
「……彼等を、どうしたんですか?」
「どうしたと思う?」
「……殺したんですね?」
「面白い話だよね。不死の存在とされている吸血鬼が、次元一つ違うだけでああも簡単に死ぬ存在になる」
「わたしからしてみたら、あんた達が理不尽過ぎるだけなんですけどね。心臓(命の核)ぶち抜いても死なないってどんだけ非常識なんですか……」
「これが本来あるべき姿だと思うけどなあ……ねえお嬢ちゃん」
「何でしょう?」
「君、私と一緒に来る気はない?」
「……何の為に?」
「君は本来『そっち側』にいるべきじゃない。半端者でも、次元が違っても吸血鬼だ。本質は同じはずだろう?それなら『こっち』の方が仲良くできると思うけど?」
「……いいですね。」
プレッシャーを撥ね退けるように、結理は血界の眷属に笑いかけた。
「貴女が永遠に血を吸わず、誰も襲わず、夜の闇に隠れて二度と表に出てこないなら、仲良くできるかもしれませんね」
「……私達(吸血鬼)に血を吸うなって言うのは、人間に何も食べるなって言ってるようなものだとは思わないかい?」
「あんた達は度を超えてるんですよ。食事の度にテーブルを引っ繰り返してシェフをくびるような連中が歓迎されると思いますか?強者なら分を弁えろって話をしてるんです」
「……流石は半端者。外見は吸血鬼でも中身は人間か……まったく、異次元の吸血鬼っていうのはどいつもこいつも不完全だ」
「自分が完全と思い上がってるあんただって、元は人間でしょ?それに、言葉が通じる癖に理不尽に襲って無駄に騒ぐことしかできない脳筋に言われる筋合いはないよ」
殴りつけるように即答して、結理は笑みを消した。女もわずかに顔をしかめたが、すぐに気を取り直したように笑みをこぼして、とんと音を立てて軽く地面を踏んだ。
結理が飛び退いた直後、今まで少女が立っていた地面から鋭い刃爪が飛び出した。刃爪は飛び退く少女を追うように伸び続ける。次々と襲い来る攻撃を避けながら、結理は腕を振るって術を紡いだ。
「『血術―ブラッド・クラフト―』……『爪―クロウ―』!」
繰り出される攻撃を赤い刃爪で切り刻むと、血界の眷属は楽しげに眼を瞠りながら距離を詰めてきた。近距離で振るわれる触手刀を赤い装甲で受け流し、殴り飛ばす。
「おー!やれやれー!!」
「っ!?」
歓声を飛ばしてきたのは、公園内にいたHLの住人だった。いきなり始まった戦闘をただの喧嘩か何かと思っているらしく、いつの間にか何人かが観戦しているようだった。
「見世物じゃない!逃げて!!」
「かてえこと言うなよ嬢ちゃん!!」
「やっちまえ姉ちゃん!」
「観客がああ言ってるんだ。楽しませてあげようじゃないか」
怒声を飛ばす結理に言い返した住人に同意するように、血界の眷属が笑いながらそう言った。楽しげな態度に神経が逆なでされたが、思考は冷静を保ったまま行動に移す。
「『風術』!!」
結理は突風を起こして血界の眷属と距離を作ると、その流れに乗って飛び退きながら血晶石を取り出して噛み砕き、着地と同時に地面に手をついて術を放つ。