異界都市日記18
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本日のヘルサレムズ・ロットの天気は霧時々銅像だった。
「うそぉっ!!?」
そんな笑えない冗談が頭をよぎる中、結理は思わず悲鳴を上げた。
昼食をとって目的地に向かう道すがらで銀行強盗事件に巻き込まれてしまい、中々過激な連中だった犯人達が無意味な威嚇行為で機関銃を乱射し爆弾を振り翳していた為、仕方なしに念動力でこっそり犯人達を転ばせてポリスーツに確保させたまではよかったのだが、抵抗した犯人の手から放り投げられた爆弾が予想外の威力で雑居ビルを一つ吹っ飛ばし、その衝撃と振動が隣のビルにまで影響を及ぼしてしまった。
その結果、老朽化していたのか工事が手抜きだったのかは知らないが、ビルの屋上に設置されていた馬らしき姿を模した銅像が盛大に傾いて落下してきて、現在に至っている。
周囲には銀行強盗犯が乱射した機関銃のせいで負傷した住人達で溢れかえっていて、数百メートルは離れているだろう距離から見てもかなりの全長があることが分かる銅像がこのまま地面に着けば、間違いなく一人二人では済まない人数の被害が出るだろう。
(念動力……無理、重い。『風術』で底上げ……無理、足りない、そもそも大きさヤバい。あとは……)
銅像への対策を一秒以下で考えてから、結理はグローブをはめていた両手の掌底同士を打ちつけた。
このまま銅像が落ちれば尋常でない被害が出る。
ならば、銅像が落ちても被害の出ない形にすればいい。
(イメージは……赫綰縛より細く、鋭く……できる限り早く……)
血液操作の扱いに関しては他者の追随を許さない先輩の技を記憶から引っ張り出し、そこから更に自分なりのイメージを描く。
「『血術―ブラッド・クラフト―』……えっと……『鋼線刃―ストリングス―』…?」
即興で技名をつけながら、全身全霊で集中する。十数メートルまで迫ってきた巨大な銅像を見据えたまま、合わせていた両手を静かに離し、そのままゆっくりと振るうように広げながら術を紡いだ。
次の瞬間、少女の手から放たれた無数の赤く細い糸が銅像に殺到し、巻きついた。そのまま広げるように手を引くと、糸の巻きついた銅像は文字通りに細切れになり、その破片が雨のように落下を続けた。
「『風術』!」
破片を突風で散らした結理は周囲を見回した。小石サイズの破片がぱらぱらと降り注ぎ、車やポリスーツに当たってぱちぱちと音を立てているが、少なくとも動けない程の重傷者には当たっていない。やや大きめな破片が拘束された強盗犯達に当たって悶絶しているのは、致命傷ではなさそうだったので黙殺した。むしろ「ざまあみろ!」と歓声を上げた何人かに同意したい気分だ。
「……天気は霧時々小石に変わりました……と」
それらを見て安堵のため息を漏らしながら呟いた直後、
ごっ!!
「っだ!!?」
刻み切れなかった大きな破片が少女の頭にクリティカルヒットした。