異界都市日記17
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「じゃあ~ライブラの連中の中にいないの~?恋したくなる人~」
「またそれですか…?」
「パンピーは嫌なんでしょ~?」
「いや、普通の人じゃついてこらんないだろうってだけですし、だいいち何回も言ってますけどライブラのみんなはそうゆう対象じゃないです」
苦笑を深めた結理は、仮面で隠れた目を見るように真正面からアリギュラを見据えた。
「けど、恋よりも強い想いは……持ってるかもしれないですね」
「へ~…!!」
はっきりと言い放たれた言葉を聞いて、アリギュラは新しい玩具を見つけた子供の様な笑みを浮かべた。思っていたよりも興味深そうな反応を見た結理は、意外そうに目を瞠る。
「……興味あるんですか?恋バナじゃないのに」
「あるよ~!だって~ユーリのことだし~」
「さっきコートのくだりはバッサリいきましたよね…?つか、前々から思ってたんですけど、堕落王といい何でそんなにわたしのこと気になるんですか?」
「だって~ユーリって面白いじゃん?」
「どの辺が?」
「アタシと普通に話してる所とか~」
「……慣れって恐ろしいですよねぇ……」
何の前触れもなく目の前に出没する偏執王を、初めは全力で警戒していたのが遠い昔のように感じられて、結理は思わずため息をついた。当時の自分に、今では多少の危険を冒してお願い事を聞いてあげたり、自宅に招いて(正確には押しかけられて)向かい合って食事をしながら世間話をしていると言っても、絶対に信じないだろう。
「ね~ユーリ~」
「何でしょう?」
「ブローディ&ハマー取り戻すの~手伝っ」
「嫌ですお断りしますあり得ねえ」
唐突に投げつけられた言葉を最後まで言わせることなく切り捨てると、アリギュラは何故か満足げににんまりと笑った。意図の読めない反応に、結理は遠慮なく眉を寄せる。
「そ~ゆ~とこ~」
「?」
「絶対自分曲げないとこがいいんだよね~!」
「……そうですか」
「だから~何に絡まれても~簡単に死なないでね~?」
「……はあ」
「アンタ~すっごい目立ってるから~気をつけなよ~?」
「??どうゆう意味ですか?」
言葉の意味が分からずに問い返すが、アリギュラはそれ以上は語ろうとせずに、今までの会話が無かったかのようにいつもの恋バナを始めた。
「――それから明け方まで恋バナで、追い出すに追い出せなくて完徹ですよ……」
「それはご苦労だったね」
出勤して来るなりソファに倒れ込んで昨日の出来事を話した結理に、スティーブンは苦笑交じりに言葉をかけた。執務室にいるのは結理とスティーブンだけで、他のメンバーはまだ出勤していない。
「けど、それならもう少し遅く来てもよかったんだぞ?今日は何があるって訳でもないし」
「どうせ寝落ちするんなら事務所の方が楽ですから……」
即答してから、結理はふと思い立ったように顔を上げた。
「……スティーブンさん、」
「ん?」
「わたしって目立ちますか?」
「どういう意味で?」
「そのまんまの意味です。街歩いてたら嫌でも目につくとか、妙に存在感があるとか……」
「まあ……その見た目はここが昔の紐育だったとしても、それなりに目につくかな?前にクラウスにも言われただろう?日本人の十代のお嬢さんっていう姿は、その手の連中からしてみれば標的にしやすい外見だ。注意するに越したことはないよ」
「そうですか……」
「何かあったのか?」
「いや、そうゆうんじゃないんですけど……そこそこ絡まれるのってそうゆうことかなあって思いまして」
「今更だな…!」
(でも、アリギュラさんがそんな普通の警告するのかなあ…?)
考えるが、答えは出ない。気まぐれでマイペースで己の意思や信念を最優先する稀代の怪人の考えなど想像もできないし、その気まぐれを発揮してごく普通の忠告をしたのかもしれない。どちらにしろ、正解は本人のみぞ知ることだ。
(少なくとも、わたしに対しては案外普通な所あるしなあ……)
分からないが、一応言葉の通りに受け止めようと結論を出して、結理は再びソファに寝転んだ。
異界都市日記17 了
2024年8月17日 再掲