異界都市日記17
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「…!?」
準備を終え、ある程度見物人が集まってから初めて少ししてから、気配を感じ取った。驚いて足を踏み外しかけたのをどうにか立て直しながら、結理は気配の位置を探る。
相手は人だかりから少し離れた所にいて、何かをするでもなく少女の大道芸を眺めていた。一体何故と思いながらも、結理は『彼女』の挙動に注意しつついつも通りに最後までやり通した。
そんな相手、偏執王アリギュラが近寄って来たのは、何事もなく演目を終えて人だかりがなくなってからだった。何の用かと尋ねれば多分いつも通りの返答が来るだろうと予想して、別の問いを投げてみる。
「……どうでしたか?」
「え~?普通のことしかやってなかったじゃ~ん」
「まあ……アリギュラさんからしてみたらそうかもしれませんけど……」
けらけら笑うアリギュラに苦笑しつつ、結理は大道芸に使っていた道具を片付ける。カバンに入れ終えて背負った所で、澄んだ金属音と一緒に一枚のコインが飛んできた。咄嗟にキャッチした結理が目をぱちくりと瞬かせて、怪訝そうにコインを投げた相手を見ると、視線を受け取ったアリギュラはいつものようににんまりと笑ってみせた。
「一応最初から最後まで見たからね~」
「……ありがとうございます」
「ね~この後どうすんの~?」
「一応今日はオフですけど……また恋バナですか…?」
「う~ん……ど~しよ~かな~?」
心底嫌そうな顔を隠さずに尋ねると、アリギュラはわざとらしく考える素振りを見せた。その間結理は逃げるか自分の行きたい店を指定するか悩んでいたが、結論が出る前にアリギュラが続ける。
「じゃあ~今日はユーリの行きたいとこついてっちゃお~!」
「……え?」
「それともこのまま帰んの~?パジャマパーティで恋バナする~?」
「……何かあったんですか?」
「な~によ~たまにはアンタの用事に付き合ったげるって言ってんの~」
「……多分面白くないですよ?普通に買い物して帰るだけですし……」
「面白いかはアタシが決めるからい~の~!」
「はあ……じゃあ……」
いつもとは違う形の気まぐれに戸惑いながらも、結理はひとまずいつも通りに帰るかと結論付けて歩き出した。
普通にとは言うものの、流石に『13王』の一人を連れ回すのも色々な意味でマズイことになりそうなので、仕方なしに結理は予定を変えることにした。
馴染みのダイナーで食べようと思っていた少し遅い昼食はキャンセルし、偏執王と歩いている所を知り合いに見られることを避ける為に、意識的に探知感度を広げて歩く道に気を使うことにしたが、それもどこまで効果があるかは分からない。
(まあ……スティーブンさんには明日会ったら話すか…後でこじれてもあれだし)
「!」
探知が慣れ親しんだ気配を捉えたのは息をついた直後だった。慌ててアリギュラの手を掴んで引いて、目的地の店である大型衣料量販店に静かに駆け込む。棚の影から外を窺うと、相手は結理に気付いた様子もなくごく普通に店の前を通り過ぎていった。
「な~に~?誰かに見られんの嫌なの~?」
「デートの邪魔されたくないですしね」
「見られたら面倒だからでしょ~?」
「全く以ってその通りですよ…!」
楽しげに言ってくるアリギュラに唸り返して、結理は念の為他に知り合いがいないかを探ってから、改めて店内を見た。正直な所偏執王と歩くこの状況は色々な意味で生きた心地がしないのだが、かといって追い返すこともできないのでさっさと目的を済ませて帰る方向へ向かおうと決めて、手早く目的のものをカゴに入れていく。
「じゃあ~こんなんどう~?」
「え?」
問いかけのような言葉に振り向いた時には、そこにいたのは顔の半分を仮面で隠した見慣れた姿ではなかった。結理と同年代ほどの、ごく普通と言っていい人類の少女がにんまりと笑って立っている。背丈は変わっていないがいつもの特徴的な仮面は無く、顔立ちや髪色や服装に至るまで、同一人物と見破るのが難しい程変わっていて、結理は驚いて目を瞠った。
「……幻術ですか?」
「違う~ちゃ~んと種も仕掛けもある変装~」
「へえーほんとだ……術じゃないのか……」
本人曰く変装した姿をまじまじと見つめた結理は、感嘆のため息をついた。確かに術の類の気配はなく、どういった仕掛けなのかは全く分からない。あらゆる魔導を極めたと云われている堕落王とはまた違う超技術に、少女は素直に驚きと好奇心の表情を見せる。
「……やっぱすごいなあ……」
「結理のそういうとこ好きだよ~?」
「?」
「にしても~もうちょっとオシャレしなさいよ~!」
「えー?いいですよ。どうせ戦闘とかですぐ汚しちゃうし。ユニ●ロ最高じゃないですか」
「もっとやりようあるでしょ~?そのコートもい~っつも着てるし~!」
「……これは脱ぐ訳にはいかないんです。まあ…ドレスコードとかだとしょうがないですけど……」
不満げなアリギュラに即答して、結理は無意識に握るようにサマーコートの襟元に触れた。
「これは……命よりも大事なものですから。」
「……その割によく破いてない~?」
「うぐ…!それは、その……わたしが至らないせいなんですけど……でも、こうして着続けないと意味がないんです」
鋭い指摘には思わずばつが悪そうに声を引きつらせたが、言葉を続けた時にはその表情は真剣さを帯びていた。
「これはわたしの……わたし達の誇の証ですから」
「……興味な~い」
「でしょうね…!!」
「で~も~」
予想通りの言葉に結理が遠慮なく顔をしかめるのにも構わず、アリギュラはとんと少女の胸の上辺りを指で軽く突いた。怪訝に目を丸くしつつも見ると、見慣れない顔で見慣れた笑みを返される。
「コートの下繕うのはオッケーでしょ~?」
「……たまに思うんですけど、『13王』って何だかんだでしっかりしてますよね。二人しか会ったことないけど」
「じゃ場所変えよ~」
「え?ちょ、どこ行くんですか!?会計ぐらいさせてくださいよ!!」