異界都市日記16
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誰もいない廊下を抜けて裏口から外へ出ると、そこにも既にポリスーツが待機していた。彼等はレオと結理を即座に見つけて、特にケープをかけていてもドレスを破かれていることが分かる結理の姿に若干慌てた様子を見せた。
「君達!大丈夫か?」
「あーおい!そいつらはいい!」
「あ!ダニエル警部補!」
駆け寄ろうとする警官にそう言い放ったのは見知った姿だった。結理がぱっと表情を輝かせて呼ぶと、ダニエルは若干嫌そうに顔をしかめる。
「潜入してるっつーからまさかと思ったら、やっぱお嬢ちゃんか………ん?」
少女に向けていた視線を隣に移したダニエルは、怪訝そうに目を丸くした。視線が刺さっているレオは必死に顔を背けるが、ダニエルは遠慮なく見定めるようにレオを凝視する。
そんな二人の間に結理が入ってにこやかに、だがどこか剣呑な気配を纏った目で睨んだ。
「すいません警部補、お姉様人見知りなんであんまりジロジロ見ないでください」
「お姉様?」
「詮索はなしですよ。というわけで、わたし達そろそろおいとまします」
「……ああ。そこの道から2ブロック抜けた先で『おじ様』が待ってる」
「……今回の件って警部補の持ち込みだったんですね?」
「詮索はなし、だろ?ほらとっとと行け」
「それじゃ失礼します。また貸しいっこですねー」
「うるせえしょっぴくぞ!」
「あははー!毎度ありー!」
苦虫を噛み潰したような顔をするダニエルを見てけらけら笑いながら、結理はレオの手を引いて指定された道に向かった。道は路地のように狭かったが、倉庫に勤めている者達の通勤路なのか一定毎に街灯がついていてかなり明るい。
そんな道をやや急ぎ気味に歩きながら、レオは盛大に顔をしかめていた。
「やべえ……絶対俺のことバレてる…!絶対女装が趣味とか思われた…!!」
「案外実は女の子だったとか思ってたりして」
「それはそれで嫌だよ!」
「ねー?レオ君こんなにかっこいいのに……」
「この格好で言われても説得力ねえんだけど…!!」
「かっこよかったよ」
言い切った結理の声は真剣そのものだった。からかいの表情が一切ない少女の顔を見たレオは、しかめていた顔を僅かに驚きに変える。
「わたしのこと守ってくれたじゃん」
「……あ、いや……でもよく考えたら、ユーリなら自分で切り抜けられたよな……」
「それでも、守らなきゃって思ったんでしょ?」
そう言って、結理はレオの方を見ずに何気なく手をつないだ。珍しい行動にレオが驚いている間に言葉を滑り込ませる。
「おかげで助かったよ」
繋いだ少女の手は妙に冷たく、レオはその冷たさが緊張によるものだということに気付いた。
普段は単独か、相手のことを気にしなくていい任務の多い結理にとって今回の、何も知らない少女達を守りながら時間を稼ぐという任務は、レオが想像している以上に神経を使うものだったのだろう。
「……そんなの、当たり前だよ」
人懐っこい割に頼ることが妙に下手な少女の精一杯の寄りかかりに応えるように、レオは言いながら繋いだ手に少しだけ力を込めた。
「『お姉様』は妹を守るもんだろ?」
「……ぶふっ!」
はっきり言い切ると、結理は数秒呆けた表情を見せていたが、すぐに噴き出してからかいの言葉を返す。
「何?女装気に入ったの?」
「いやちげえし!!」
「大丈夫似合ってるから。超可愛いよーレオ君!」
「全っ然嬉しくねえ…っ!!」
「あはは!あ、スティーブンさんだ」
泣きそうな顔をするレオを見て笑っていた結理は、路地の先に見慣れた車を見つけて、繋いだ手を離して駆け出した。
それからすぐに、対応を間違えたかもしれないと若干後悔していたレオに振り向く。
「ありがとうレオ君。守ってくれて、すごい嬉しかった」
そう言った少女の笑顔は照れくさそうで、けれどとても華やいで見えた。
異界都市日記16 了
2024年7月17日 再掲