異界都市日記16
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「『お姉様、お願い!』」
合図の言葉と同時に結理は爪で掌を切った。予想外の攻撃だったのか相手がよろめき、溢れ出た血が小さな刃を作った直後に、会場内にいた男達が一斉にどよめきだす。
「!?な、何だ…!?」
「停電…!?」
『み、皆様落ち着いてください!すぐに復旧いたします!』
その間に拘束を切った結理はレオに駆け寄って拘束を切り、すぐ様手を振るった。
「『血術―ブラッド・クラフト―』……『鞭―バインド―』」
振るわれた赤い鞭で柵(とついでに手探りでこちらを探しているらしい落札者)を薙ぎ払い、響き渡った音に会場内が更にどよめく中、レオの手を引きながら髪飾りの一つを抜くと少女達の所へ駆けていく。
「……あ、コラ!」
「レオ君はこの子達の拘束外しといて。わたし時間稼ぐから」
「分かった!」
視界が元に戻ったらしい男の一人が、柵が倒されているのを見つけて駆け寄ろうとしてくるのを見ながら、結理はレオにナイフの仕込んである髪飾りを手渡して即座に振り返った。パンプスを脱いで駆け出すと同時に背後に腕を振るってから、捕まえようと腕を広げる男に突進の勢いを乗せた拳を放つ。男は息を漏らしながら体をくの字に曲げてその場に崩れ落ちる。
体格差をものともしない拳打の威力に数瞬怯んだ空気が流れ、それを感じ取った結理はにやりと獣の笑みを浮かべて見せた。
「……!こいつ、ただのガキじゃないぞ…!」
「捕ま……いや殺せ!『商品』はまだいる!」
「予想通りありがとう。」
こっそり言葉を漏らしつつ、結理は背後から近寄って来た男に振り向き様に蹴りを放ちながら術を紡ぐ。
「『風術』!」
放たれた突風は少女を捕えようと駆け出してきた見張りをまとめて吹っ飛ばし、その光景を見た観客達が驚き交じりの歓声を上げた。
「何でもいいんかい…!!」
現金な観客に悪態をつきつつ、振るった赤い棘鞭で銃を持った者達を優先的に薙ぎ払っていく。そんな結理の隙をついた男達が他の少女を運ぼうと近寄るが、伸ばした手は見えない壁にぶつかったように止められた。
「な……何だこれ……ぐあっ!?」
近づけずに戸惑っている隙をついて男を蹴り飛ばした結理は、二重に張った結界の向こうにいる少女達に笑いかける。
「そこにいて。もうすぐ助けが来るから」
言い置いて、結理は表情を引き締めると拳を握り直した。反対の舞台袖から、少女の二倍はあるだろう体積の、一見すると人類なのか異界存在なのか分からない誰かが姿を現した。
「先生!やっちまってください!」
「先生って……ベタな表現だなあ……」
思わず苦笑を漏らしつつ構えると、用心棒も幅の広い剣を抜いた。結理は即座に床を蹴って距離を詰め、振るわれた剣をかわしながら相手の懐に飛び込み、拳を放つ。
だが、ごわん!という鈍い金属音と予想以上の硬い手応えと衝撃に顔を引きつらせる。
「いっ……たあああ…!!」
痛みを発散させるように手を振りながら次々と繰り出される斬撃を避けていくと、観客の歓声もそれに合わせるようにボルテージが上がっていく。もしかしたら、オークションの合間のショーか何かと勘違いしてるのでは?と結理が思い始めた頃、会場の外で複数の気配を捉えた。
(よし来た!)
胸中でだけ歓声を上げ、結理は振るわれた斬撃をかわした勢いで用心棒に蹴りを叩き込んだ。巨体が重い音を立てて床に落ちた直後、会場の出入り口が乱暴に開け放たれた。
「警察だ!全員動くな!!」
荒い足音を立てて踏み込んでくる警官達を尻目に、結理は術を全て解除するとレオに駆け寄った。ついでに脱いだパンプスもきっちり回収して、少女達の拘束を切り終えたレオの腕を引いて立たせる。
「逃げるよ」
「あ、うん!ってユーリ待った!」
「え?あーありがとう」
「あ、あの!」
「?」
即座に駆け出そうとした結理に、レオが慌てて自分が羽織っていたケープを脱いで着せた。ドレスの状態を失念していた結理がお礼を言い、舞台袖の出入り口に向かおうとした所で呼び止められて振り向く。捕えられた中で一番年かさらしい少女が、戸惑いながらも結理を見て、言葉を紡いだ。
「ありがとう……」
「……仕事だから」
悪戯っぽく笑いながらそう言って、結理はレオと一緒に会場から脱出する。