異界都市日記16
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『皆様長らくお待たせいたしました!これより本日のメーンとなります!』
(うわあ……仲介屋かと思ったら自分らで主催してんのかあ……)
目隠し越しに進行役の顔を見た結理は呆れ返ったが、表情には出さずに胸中でだけ呟いた。マイクを握る男は先程パーティ会場で声をかけてきた青年だ。
『最初の商品はこちら。黒髪の美しい姉妹にございます!』
(…見張りはなしで、ここにいるのが全部?ちょっとザル過ぎない?いや、奥に……用心棒かな…?)
周囲を探りながら考えていると目隠しを外された。眩しさに目を細めてから改めて開けた視界で前を見ると、レオと結理はスポットライトで照らされている舞台上で柵に囲まれたソファに座らされていて、それを客らしき男達が様々な欲にまみれた目で舐め回すように見つめていた。
「うわー……誰に買われても可愛がってくれそー……」
「……」
軽口を叩くと、隣に座らされているレオが何か言いたげに少女を見た。その視線はスルーして、結理は伝えるべきことだけを伝える。
「レオ君、ここにいる連中の視界ジャックして見えなくさせることってできる?」
「……この人数だと、頑張って10秒くらいならなんとか……」
「ん、十分。合図した5秒後にお願い。合言葉は――」
『さあそれでは100ゼーロからスタートです!』
進行役の宣言と共に客席で次々と札が掲げられ、告げられる額も跳ね上がっていく。その様子をレオは何とも言えない表情で見ていた。黒髪の姉妹の姉役の性別を知らずに次々と金額をつり上げていく男達に、てめえらどこに目ぇつけてんだと怒鳴りつけてやりたい気分だが、パーティ会場でも誰一人として怪しまなかったことを思い出して、思わず項垂れる。
「何か男として自信なくなってきた……」
「大丈夫だよレオ君。K.Kさんとチェインさんのコーデテクのおかげだから。それにどーせこいつらオプションしか見てないし」
『……他にいらっしゃいませんか?では、23番のお客様が落札です!』
涙声で呟くレオに結理がフォローを入れている間に、ハンマーを叩く高い音が響いた。札を掲げたまま濁った歓声を上げる男は、興奮しきった様子で舞台に上がり、進行役にコインの様なものを渡すと係の者らしき男達に連れられて柵の中に入って来た。
『さあ!それでは恒例のテイスティングタイムと参りましょう!』
「テイスティングタイム?」
この場に似合わない単語に怪訝そうに首を傾げていると、柵の中に入って来た落札者が荒い息をつきながら歩み寄ってきて、結理を引っ張るように立たせた。
一応それらしく「きゃあ!」と悲鳴を上げながら相手を観察していると、ドレスの肩辺りを掴まれ、思い切り破かれた。引き裂かれた肩口から鎖骨が露わになり、素肌がスポットライトに照らされる。
「っ!?うわあああああっ!!?」
「ユーリ!!」
予想していなかった相手の行動に、結理は思わず演技抜きで悲鳴を上げた。それが気に入ったのか、落札者だけでなく観客までもが興奮したように歓声を投げつけてくる。
(テイスティングタイムってそうゆう意味かーーー!!!)
「ああ……綺麗な肌して……食べがいがありそう…!!」
(どっちの意味だーーー!!)
「や……やだ!やめてください!!」
胸中で突っ込みつつ、半分以上本音混じりで抵抗の素振りを見せながらどう出るかを考える。できるものなら今すぐ目の前の脅威をぶん殴ってやりたいが、今の状況ではまだ実行に移すわけにはいかない。だが彼等曰くテイスティングを受け入れるのも断固として嫌だと判断を迷っていると、不意に体を後ろに引かれた。
「!?レ……お姉様!」
結理を庇うように前に出たのはレオで、少女と落札者との間に立って睨み上げる。落札者は数瞬驚いたような顔をしたが、すぐに楽しげに歪んだ笑みを漏らした。相手が手を伸ばす前に、結理は体当たりをくらわせて声を張り上げる。