異界都市日記16
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彼等の手際は非常に鮮やかだった。抵抗どころか悲鳴を上げる暇もなく口と目を塞がれて拘束され、袋らしきものに詰め込まれてすぐ様どこかへ運ばれた。例え抵抗するつもりで身構えていても、上手く避け切れたかはかなり怪しい程の手腕に結理は思わず舌を巻く。
(すごいな……プロの犯行だ……)
エンジン音と走行の振動を感じながら、結理はうっかり少しだけ吸いこんでしまった薬のせいでぼんやりしている意識に渇を入れて、探知能力を視覚と連動させて外の様子を透視する。積まれた偽装トラック内には自分やレオと同じように袋詰めされた少女達が数組転がっていて、見張りらしき異界存在が銃を持って前後に一人ずつ座っていた。
(そこそこ丁寧に拘束したってことは……オークションか、臓器売買?いやでも、わざわざ姉妹限定でさらってるから前者かな?道楽者に愛玩系で売られる感じか……事後処理楽な相手だといいなあ……)
考えながら探知を続け、場所とルートを確認する。術の類による偽装の気配はないが、特に止められることもなくトラックは夜のヘルサレムズ・ロットを何事もなく走り続けていた。
発信機を起動させ、パーティ会場から連れ出された時点で事態は動いているはずだ。トラックが目的地に着いた時点で、匿名の通報が警察に入る手筈になっている。ここからの結理の仕事は、ガサ入れまで他の少女達に手出しをさせずに時間を稼ぐことだ。
やがてネオンが輝く街中を抜け、やや霧が濃くなってきた倉庫街に入って少ししてからトラックは止まる。荷台の扉が開き、暗色の服を着た男達が袋に詰められた少女を丁寧に抱えて運び出した。
「なんだよ、今日はこれだけか?」
「そう言うなよ。今夜は量より質だ」
「はーん……そいつは楽しみだ。俺らにもボーナスが増えて欲しいもんだな!」
下卑た失笑を漏らしながら、男達は少女の詰められた袋をどこかの部屋に運び込むと、やはり丁寧に下して袋から出した。レオも含めて他の少女達はまだ意識を失っているらしく、抵抗する様子はない。雑談をしながら男達が出て行き、室内にいるのが自分達だけなのを確認してから、結理は起き上がって傍らのレオに声をかけた。
「レオ君、レオ君起きて」
「……ぅ……あれ?」
「静かに。目隠しされたまんまでも外は見えるよね?」
「……うん」
頷いたレオが首を持ち上げて軽く辺りを見回して、ぶれることなく結理の方を見た。
「……どうなったの?確か後ろから何かかがされて……」
「『会場』に連れてこられたみたい。ここの倉庫街『掃除』されたばっかのはずなのに……」
「……え?目隠しされてるのに見えんの?」
「レオ君程じゃないけど、ちょっとだけ透視できるから」
レオが訝しげに尋ねてきたので、結理は少し得意げに笑って答えてから話を戻す。
「それより、やっぱ人身売買っぽいね。それとわたしらに声かけてきた三人、主催会社の役員のバッチつけてた」
「うん。それとあの三人組の中にいた一人、確か社長の息子だ。雑誌で見たことある。」
「ほんと?てことはやっぱ企業自体がクロか……スティーブンさんと話してた時の社長の視線気付いた?もうあれ絶対アッチ系だよ…!」
「……ぅ……っ!?え、何?」
「やだ……どこ…?」
「お姉ちゃん…!」
話していると近くで身じろぐ気配と小さな声が聞こえた。どうやら誘拐された他の少女達も目を覚ましたらしい。結理は目隠しと拘束をされて戸惑いと恐怖で涙声になっている少女達に近付く。
「大丈夫」
「!!?」
「少しの間怖いかもしれないけど、絶対に家に帰れるよ。あなた達のことは絶対に守るから、大丈夫」
視界が塞がれている中で聞こえてきたのが自分達と同年代の少女の声であったことに安心したのか、戸惑いの気配は残したままだったがパニックになりかけていた空気は治まった。声のした方向を向いて、少女の一人が恐る恐る尋ねる。
「……あなたは…?」
「うーん……均衡の貢献者、かな?」
「???」
苦笑交じりに答えると、少女達が怪訝そうにしている雰囲気が伝わって来た。直後に扉が開き、複数の足音がどかどかと入って来た。少女達は身を竦ませ、結理も怯えた表情を作って音の方を向く。
「な……何なんですか?ここはどこなんですか!?」
「そう怖がることはないよ。大人しくしてれば今は何もしない」
「お姉様……怖い…!」
(レオ君、ちょっとだけ前出て。わたし達が一番乗りになるように)
(うん…!)
「じゃあまずは……こいつらからにするか!」
「きゃあっ!」
(よし!狙い通り!)
腕を引かれて立たされた結理は、悲鳴を上げながら内心ではガッツポーズをとった。丁寧にとは言い難いが必要以上に乱暴にも扱われず、どこかへ引っ張られていく。レオや他の少女達も同じように移動させられているのを確認しながら、相手を激昂させない程度に小さな抵抗をしつつも腕を引かれる方向へ歩く。
向かう先には人界異界問わず多人数の気配がした。扉が開く音がして更に歩かされ、野太いどよめきの様な歓声が上がる中、レオと結理は柔らかい感触の上に座らされる。