異界都市日記16
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「お嬢さん達、こんな所でどうしたんだ?」
声をかけて来たのは一目で高級と分かるスーツを着込んだ青年だった。その後ろには、彼の連れらしい二人組の男が、覗き込むようにこちらを見ている。レオはうつむき、結理が受け答えをする。
「お姉様が疲れちゃって、休憩してる所なんです」
「パパかママは一緒じゃないのかい?」
「今日はおじ様に連れてきてもらいました。でも、取引先の方とお話があるって言ってどっかに行っちゃって……」
「そうだったのか。こんな可愛いレディ達を置いていくなんて、ひどいおじ様だなあ……」
「やだ可愛いだなんて!」
冗談めかした様子で顔をしかめる青年に、結理は照れくさそうに笑みを返して眉尻を下げて見せた。
「でもいいんです。わたし達がわがまま言って連れてきてもらったんですもの」
「じゃあ、そのおじ様が来るまで俺達とお話でもどうかな?実は似たような状況なんだ」
「ええー?お兄さんみたいな人、わたしみたいな子供なんて相手しなくても他に沢山いるんじゃないんですかぁ?」
「あっはは!ますます気に入ったよ。他の女性達みたくおべっか使わなくて済みそうな所がいいね」
「こんな感じで生意気ですよ?わたし。」
「そこがいいよ。さ、向こうの静かな所で話そうか」
「はい!お姉様行こう?」
「……へ!?あ、うん、はい……」
すらすらと会話をする結理を若干呆然と眺めていたレオは、突然話をふられてはっと我に返って慌てて頷きながら、差し出された少女の手を取った。
仲のいい姉妹が手をつないで歩く姿を青年達は微笑ましげに見ているようだったが、その目の奥に値踏みするような色があったのを結理は見逃さなかった。
(気配は……ただの人間。戦闘慣れしてる風でもない。『業者』に引き渡してマージンもらってるって感じかな…?あのバッチは確か主催会社のマーク……それも役員クラス……何でそんだけ収入もらってんのにこんな『副業』するんだか……いや、それとも……)
さてどう出るかと、結理は考える。まずは相手の出方を窺わなければならないが、どこまで無抵抗を貫くかが問題だ。出品される前に何かしらの『手入れ』を施される可能性もあるし、それを防いで騒ぎになったら他の被害者達に辿り着けないかもしれない。それではこの潜入が無駄足に終わってしまう。
まずは流れに乗るかと胸中で決断して、結理はこっそり視線を巡らせた。三人の男の内二人は完全にこちらに背を向けていて、声をかけてきた残りの一人はレオの隣を歩いている。
「あ、お姉様、髪に埃がついてるよ?ちょっと屈んで」
「っ!う、うん…!」
(とりあえずわざと捕まるから基本無抵抗で)
(分かった)
「……ありが、とう。結理も、イヤリング取れそう、ダヨ?」
「ありがと、お姉様?」
言いながら何気なく手を伸ばした結理は、レオのつけているカチューシャに仕込まれた発信機を起動させた。その際に軽く耳打ちをして、それを合図にレオもぎこちなく手を伸ばし、結理の付けているイヤリングに仕込まれた発信機を起動させる。
「二人とも仲がいいなあ……見ててとても微笑ましいよ」
「そうですか?普通ですよ。ね?お姉様」
「……ウン……ソウダネ…!」
(レオ君緊張しすぎ……)
目に見えて固まっていくレオに若干ハラハラするが、男達が気付いた様子はない。控え目でシャイな姉と活発な妹の図式は有効らしい。なるべくこちらから話を振るのは控えようと結理が思っている間に、男達は会場の外へと二人を連れだした。
「こっちに素敵なテラスがあるんだ。静かだし、話すにはもってこいだよ?」
「へえー……」
「それにしても、君達みたいな可愛らしい子達とこうしてお近付きになれるなんて、今日は本当に運がいい。ここ最近は空振りばっかりでさあ……」
「オイオイ、そんな言い方したら変な誤解されちまうだろ?」
「えーやだー、主催会社の人なのにいつもこんなことしてるんですかー?」
「ははは!まあ……仕事でもあるからな」
穏やかに話していた風だった青年の声色が若干変わるのと、通り過ぎたばかりの非常階段の扉が開いたのとはほぼ同時だった。