異界都市日記16
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ヘルサレムズ・ロットでも比較的富裕層の多い地区にあるホテルの一角では、中規模のパーティが開催されていた。
主催しているのは紐育が異界都市へと変貌する以前からそれなり以上の地位を築いてきたとある企業で、参加者は異界人界を問わず老舗の企業や新進企業等の上役で占められている。
「やあ初めまして!君がミスタ・ターナーか!」
「お初にお目にかかります。ミスタ・フラン。お話は予てから伺っていますよ」
「それはこちらもさ。君とは是非一度顔を合わせたかった」
そんな中、主催者である某企業の社長は、最近頭角を現し始めた腕利きの実業家と噂されている者と談笑を交わしていた。挨拶を済ませた所で、彼の側にいる二人の少女に目を向ける。
「おや?可愛らしい連れじゃないか。」
「姪っ子のレオナとユーリです。どうしても参加したいとせがまれましてね。ほら二人とも、ご挨拶をしなさい」
「初めまして!ユーリと申します!」
「……レオナです」
「はっはっは!君達のような可愛らしい子に会えて嬉しいよ」
「えへへ…!わたしも会えて光栄です。ね?お姉様」
「……ぅ……」
「失礼。レオナは少々人見知りでしてね。二人とも、僕はもう少し話があるから、会場内を見て回っていていいよ。くれぐれも、粗相のないようにね?」
「はーい!」
「……はい」
元気に、けれど騒がしさを感じさせない動きで駆けていく少女達に視線を向けながら、主催者は何ともなしにバッチに触れた。
「……レオくーん、いい加減機嫌直しなよぉ……」
「いや、別に拗ねてるわけじゃないよ。スティーブンさんからもあんまり喋んないように言われてるし……」
若干呆れたようにため息をつく結理に、レオは俯き気味に歩きながら小声で返した。いくら見た目を装えても、声まで繕うことは難しい。下手に喋るとボロが出る恐れがあるということで、活発な妹に振り回されるおしゃべりが苦手で人見知りな姉という設定を与えられている。これならば結理が主導権を握って話せば誤魔化せるし、レオも二、三言口を開くだけで済む。
ただ、レオが大人しくしている理由はそれだけではない。
「そうじゃなくて……すっげえ足痛い…!」
「あー……」
泣きそうな声で呟くレオに、結理は納得気に頷いた。踵が低いとはいえ、こんな潜入捜査でもなければ履く機会はまずあり得ないパンプスはかなり負担になっているらしい。スティーブン……もといステファンおじ様に挨拶回りを装った調査で会場内を連れ回されて、それなりに長時間歩いたので足は限界間近だろう。
「慣れない子がパンプス履くのはしんどいよねぇ……わたしも普段履かないからちょっとしんどいし。どっか……あ、あっちに椅子あるから座ろう?」
「ごめん……」
「いーっていーって!もうお姉様ったら!だから慣れてる方の靴にしようって言ったのにー……」
(ていうか……何でこんなノリノリなんだユーリ……)
会場の隅にあった椅子に腰かけて、レオと結理は一息ついた。だが本当の意味での休憩ではない。レオは『神々の義眼』を駆使して会場内を見渡し、結理は探知能力で自分達を注視している気配がないかを探る。
「……お姉様、大丈夫?」
何か不審なものはないかという意味合いの問いかけに、レオは無言で首を横に振った。パーティ会場の外まで見通した所、非常階段の出入り口近くに不審人物がいる。一見すると清掃業者のようだが、パーティも始まったこんな時間にいるのは不自然だし、非常階段の外には何かを待ち構えるように数人の異界存在がいた。
「わたしも大丈夫じゃないや。さっきの三つくらいもらってくればよかった」
そう言って結理は息をつく。それは、こちらに狙いを定めているような誰かがいるという意味で、数はこちらを見定めている人数だ。
「……おじ様来るかなあ…?」
その不審者が近づいてくるという合図の言葉を呟いて、結理は座り直して椅子に浅く腰かける。レオが若干緊張した様子で軽く座り直して顔を上げたと同時に、二人の少女の前に影が落ちた。