異界都市日記16
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ハローミシェーラ、元気ですか?
突然なんですが、兄ちゃんは姉ちゃんになってしまいました。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
そんな、現実逃避じみた報告を思わず遠い空の下にいる妹に送ってしまいながら、レオはその場に突っ立ったままさめざめと泣いていた。その原因は全て、現在の格好にある。
裾がふんわりと広がる白のワンピースドレスに、可愛らしい飾りのついたケープと踵の低いエナメル素材のパンプス。どこかのSSな先輩には陰毛頭と揶揄される癖毛はその癖に合わせて整えられて、服の色に合わせたレースとリボンのあしらってあるカチューシャが乗せられている。
レオナルド・ウォッチ、紛うことなき女装中である。
何があってこんな罰ゲームのような恥ずかしい格好をさせられているかはまだ説明がされていない。と言うより今はそれを聞く心の余裕すらない。呼び出されて出勤するなり小部屋に連れ込まれたと思ったら、抵抗する間もなくあれよあれよと着替えさせられて軽い化粧まで施され、挙句、
「ぶっはははははははは!!ひー…!!やべえ……やべえツボッた…!何だそれくっそ似合ってんじゃねえか陰毛頭の癖に!!ぎゃはははははははは!!腹痛えぇぇぇぇ……!!!」
「や~~~ん!!レオっちもユーリっちも可愛い~~~!!!」
ザップには遠慮なく指さされて笑い転げられるわ、歓声を上げながら携帯のカメラで撮りまくるK.Kと、真顔でひたすらシャッターを切り続けるチェインの撮影会が始まってしまうわで、ただただ心にダメージを蓄積させていくだけの状況に放り込まれてしまっている。少し離れた所にいるクラウスは何故か満足げに頷いているし、ギルベルトも賑やかな光景を微笑ましげに眺めている。唯一ツェッドだけがこの空気に戸惑っているような表情でいるが、他の面々を止めたり諌めたりする様子はない。
碌な答えが返ってこないもしくは答えそのものが返ってこないことは分かっているが、レオは誰かに問いかけたかった。
(俺が一体何したって言うんだ……!!!)
「あのー、レオ君のメンタルが死にそうなんで代わりに聞くんですけど、女装の必要性ってあるんですか?」
挙手をしながらそう尋ねたのは、レオと同じデザインで彼が着せられたものよりやや丈の短いワンピースドレスを着て、長い黒髪もアップにまとめている結理だ。こんな謎の女装をさせられているという状況でなければ、レオだって手放しで可愛いと称賛して撮影会に加わっていただろう。むしろ当たり前だが結理の方が何百倍も似合っている。普段は動きやすさ重視汚れが目立たない重視で暗色のシンプルな服しか着ない少女が、とんでもない変身を遂げている。けれどやっぱり色々な意味でそれどころではない。
「勿論あるさ」
答えたのはレオと結理に『おめかし』を指示した張本人であり、いつもと違う三つ揃いのスーツを着て顔の傷も化粧で隠し、そして何故か撮影会に加わっているスティーブンだった。
ヘルサレムズ・ロット内の富裕層の間で、未成年の少女達が誘拐されている事件が起きているという情報を掴んだのは、三日前のことだった。
それだけならば警察の仕事でライブラの出番はないはずなのだが、とある筋から依頼を受けたらしく、こちらの領分という話になった。詳細は伏せられたが、ギリギリまで表立った事件として取り扱いたくないらしいというのと、その誘拐にライブラでも密かにマークしていた組織が関わっている可能性があるとのことだ。
少女達が連れ去られるのは決まってとある企業が主催するパーティの時だった。その企業自体がクロなのか、繋がりのある誰かがパーティを利用しているのかは明らかになっていないが、それらも含めて調査と可能ならば誘拐された被害者の救助、あわよくば犯人の確保の為にパーティに潜入するのが今回の任務だ。
「連れ去られたのは共通して未成年の姉妹だ。つまり、少年を少年のまま潜入させても、黒幕は食いつかない」
「だから女装して姉妹として見てもらおうってことですね」
「そういうこと」
「だったらせめて着替えさす前に言ってくださいよおぉ……僕にも心の準備ってもんがあるんすよおお……!」
「レオ君あんまり泣くとお化粧落ちちゃうよ」
それ以前に少女に変装するなど年頃の男子としてはごめんこうむりたいのだが、どうせ拒否権など存在するわけがないのでその辺は諦めている。
そんな少年に、ようやく撮影会を終えたスティーブンが苦笑を向けた。
「そうしてやりたかったのは山々だったんだが、何しろ時間が無くてね」
「「え…?」」
(じゃあ何で撮影会してんの…?)
「今夜その企業主催のパーティがある。君達はとある実業家の姪っ子としてパーティに参加してもらうんだが、急遽行けるようになったからそろそろ出ないと間に合わないんだ」
「……とあるってゆうか、思い切りスティーブンさんですよね?」
「会場内ではステファンおじ様と呼ぶように。さて、時間もないから行くぞ」
「はーい」
「はい……」
「あ、おじ様!いつものコート着ちゃダメですか?」
「ドレスコードだから駄目」
「ちぇ…分かりましたー」