異界都市日記15
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「……もしかして……これ?」
呪術師のねぐらで探索を続けていた三人は、積み上がった書類の中にあったひと束を見つけていた。図解に先程レオが『視た』鎖状のオーラのようなものが描かれているが、それ以外は読み進めても計算式や専門用語の羅列ばかりで、どういった類の術式なのかさっぱりつかめない。諜報員という立場上この手のものを見慣れているチェインですらお手上げ状態だ。
「もーーーー何だよこれーーー!?概要ぐらい書いとけよ!!」
「こうも分かり辛いんじゃ、専門家に解析させないと無理ね……」
「けど時間ないっすよ!」
「とにかく解析に回しましょう。その間は野郎共に踏ん張ってもらうってことで」
「何だい、まだ解呪が終わってないのか」
『っ!!?』
突然割って入った第三者の声に、三人は一斉に表情を強張らせて振り返った。いつの間に来たのか、そこには悪い意味で見慣れている姿が仮面で隠れていない口をへの字に曲げて佇んでいた。K.Kが咄嗟にレオとチェインを庇うように前に出て銃を突き付けると、相手はやや呆れたように息をつく。
「堕落王…!?」
「オイオイ、折角助言に来てあげたというのに随分な対応じゃないか」
「助言ですって…?」
「あの呪いの構造が分からなくて手間取ってるんだろう?暇つぶしに特別サービスで教えに来てあげたのさ」
「……どういうつもり?」
警戒の体勢を崩さない相手達にも構わず、堕落王は解説を始めた。
「あの呪いだけどね、構造自体は実に簡単なんだ。とある存在が、己を縛る『言霊』そのものを鎖のような形で呪いに変換させている。いや、呪いの鎖に変身していると言った方が正しいかな?呪いに触れた者は好意を殺意に変換され、操り人形と化して好意を抱く者を片っ端から殺しにかかる。『彼女』は他者を愛しすぎたが故に、憎んでしまった。それをこの家の持ち主が利用し協力して、呪いへと姿を変えたというのが事の顛末さ。結理を標的としたのは偶然なのか必然なのかは知らないが……呪いの効果は好意の強さに比例して強まり、死ぬまで愛する者を殺し続けるだろう」
「……クラっち達ヤバいかもしれないわね」
呪いの効果と堕落王が最初の放送で言っていた警告の意味を理解したK.Kが思わず呟くと、レオとチェインも同時に頷いた。結理がライブラのメンバーをどれだけ慕っているかは、普段の様子で明らかだ。そうなれば、変換された殺意の強さがどれ程のものになるのかは想像に難くない。
「そして対象者を操るその鎖は呪いの核であり、存在の本体でもあるんだ。何しろ彼等自身と言っていい『言霊』である『名』を、そのまま使っているんだからね」
「とある存在って……まさか…!」
放られたキーワードに一つの存在が思考をよぎった。それを察したらしい堕落王は、満足げににたりと笑って続ける。
「ここまで言えば解呪法は思いつくだろう?『牙狩り』の諸君。それで正解だ」
「行くわよ二人とも!!」
「はい!」
答えが分かり、K.Kが号令をかけてレオとチェインも同時に立ち上がって出口に向かう。その途中でレオが足を止め、慌てて堕落王に振り返った。
「あ、あの!」
「何だ少年?」
「ありがとうございます」
「…………」
少年の口から当然のように出てきたストレートなお礼の言葉に、堕落王は呆気にとられたように沈黙してから、盛大にため息をついた。
「……ふつーーーだな君は。ああ、ついでに彼女に伝えておき給え。貸し一つだと」
「はい」
公園内では轟音が轟いていた。その轟音の主な元は一人の少女で、何の感情も浮かんでいない表情で腕を振るった瞬間地面が凍りつき、その氷は対象に向かっていく。
「アヴィオンデルセロアブロルート―絶対零度の地平―」
迎撃に放った氷は少女が放った凍結の術を跳ね返し、捕えようと伸びていく。だが少女はそれを跳び上がってかわすと、赤い棘鞭を振るった。地面が砕かれて氷の道が途切れ、砕けた地面の一部を足場にした少女は手に刃爪をまとわせながら再び向かってくる。
「もう少し遠慮して欲しいもんだね…!」
少女をなるべく傷つけないように応戦しているクラウス達と対照的に、結理の攻撃には一切の遠慮がない。その姿勢の差が四対一という差を埋め、やや押され気味になってしまっている戦況に思わず愚痴の様な言葉をこぼしつつも、スティーブンは少女の攻撃をいなして反撃する。結理はそれをかわすと、一気に距離を詰めながら更に刃爪を研ぎ澄ませた。
突き出された鋭い一撃を、クラウスが受け止めた。結理は顔色一つ変えることなく刃を退くと、即座に連撃を繰り出した。戸惑いの表情を見せながらも、クラウスは少女の攻撃を受け止め、受け流す。
「……スターフェイズさんといい旦那といい、あいつに何かしたんすか?」
少女を捉える隙を窺いながらも、ザップが思わず呟いた。先程から結理は、クラウスとスティーブンを優先的に狙い、攻撃を繰り返している。勿論ザップやツェッドにも攻撃をするのだが、二人に比べると頻度はやや低く、向かってくるから迎撃するといった程度でしかない。
「……覚えがないな」
「いやー……絶対何か地雷踏んでますって!」
呆れたように息をつきながらザップは駆け出す。時折こちらの存在が見えていないように振る舞う少女は、苛烈な攻撃姿勢の割に隙が多い。今もザップが接近しているのにもかかわらず、気付いた様子もなくクラウスに斬りかかっている。
「いい加減大人しくしやがれクソガキ!」
放たれた血の縄は真っ直ぐに結理の足元に向かっていく。うまく絡みつけば転倒させて動きを止められるだろう。
だが、結理はそれを見ることなくかわしてみせ、同時に振り向きもせずにザップに向かって赤い棘鞭を振るった。ギリギリで攻撃をかわしたザップだったが、棘鞭の先端がわずかに鼻先をかすめて思わず顔を引きつらせる。
「感知能力を持ってるんですから、隙だらけな訳ないじゃないですか」
「やりづれえなオイ!!」
ツェッドに冷静に指摘され、悪態をつきながらも駆け出す。同時にスティーブンとツェッドも駆け出すと、結理がクラウスから離れるように飛び退いて、地面に手をついた。そのモーションから繰り出される技を予測した四人は少女から距離を置く。
少女を中心に四方に巨大な赤い棘が突き出したのはその直後だった。巻き込まれた木が倒れ、吹っ飛ばされたベンチが遥か後方に落ちて、辺りが数瞬静かになる。