異界都市日記15
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
(ユーリがあんな状態になったのは、まず間違いなく呪いのせいだ。思い出せ……思い出せ…!あのオーラの色と、形と、それ以外の何かを…!)
呪術師のねぐらに残ったレオは、『義眼』に写した光景を洗い直しながら室内をあさっていた。ザップが言っていた通り今回の件に堕落王が絡んでいる可能性は極めて低いと判断して、結理が倒れていたこの部屋に何かがあるはずだとあたりをつけてひとまずは散らばっていた紙の束を拾い集める。
呪いや魔術の知識はほぼないに等しいレオだが、彼だけが『視る』ことのできた手がかりはある。それを頼りに書類の中から同じ形をしているものを探し続けていた。
「レオ!」
「レオっち!」
「っ!チェインさん!K.Kさん!」
かけられた声に振り向くと、チェインとK.Kが慌ただしく駆け寄って来た所だった。チェインはともかく何故K.Kがと疑問に思ったレオだったが、それを聞く時間も今は惜しい。
「多分ユーリはこの小屋にあった呪いにかけられたんだと思います!特徴は鎖みたいなオーラです!」
「……分かった。ここにある資料から調べてみよう」
言いながらチェインは本棚に向かい、頷いたK.Kは机に積み上がっている書類に手を伸ばした。
大通りに面した公園では、今日も賑やかに物騒な騒動が起こっていた。
「……ん?」
公園の一部を破壊した異界人同士の大喧嘩を制圧し、また一つ増えた事後処理に顔をしかめながらも戻ろうとしていたダニエル・ロウは、視界の端に見知った姿を見つけてその方向を向く。
並木に隠れるように覚束ない足取りで歩く少女は、明らかに様子がおかしかった。訝しげに眉を寄せながらも、ダニエルは少女に歩み寄る。
「おいお嬢ちゃんどうした?具合でも悪いのか?」
「…… …!」
声をかけられたことも気付いていない様子で、うわ言のように少女の口からこぼれ出た言葉に、あまりいい事態ではなさそうなことを感じ取ったダニエルは表情を強張らせた。色々な意味で微妙な関係であり交流が深いとは言えないが、少女のこんな姿は今まで見たことがなく、放っておくわけにもいかなかった。
「……何があった?とりあえずどっか……っ!」
言いながら少女の肩に手を置こうとしたダニエルは、寸前でその手を引っ込めて距離を取った。それはこのHLで暮らしてきた中で培われた勘の様な予感で、直後にそれは的中する。
その勘に助けられた形で、たった今ロウがいた場所を赤い影が通り過ぎた。手に赤い鉤爪をまとわせた少女は、明らかに正気でない顔を向けて更に攻撃を繰り出してくる。
初撃は運良く避けられたが、流石に正面から来られたらそうはいかない。次の瞬間に自分に起こるだろう光景を想像してしまったダニエルは盛大に表情を引きつらせたが、その未来は真横から遮られた。
割って入った氷の壁が少女の攻撃を寸前で止めた。数瞬呆然としていたダニエルは、すぐ様シニカルな笑みを張りつけて相手に言い放つ。
「……腹立つ程いいタイミングだなスカーフェイス。助けるタイミング窺ってやがったのか?趣味悪い事するじゃねえか」
「あれ…?似たような感じ前もあったな……」
棘だらけの言葉に思わず苦笑してから、スティーブンは氷の壁の向こうに視線を向けたままダニエルに尋ねた。
「彼女に何かしたんです?」
「むしろ今されかけた方だっての。あーでも……」
即答してから、ダニエルは渋い表情で一息ついてから続ける。
「何のトラブルか知らねえが……『助けて』って言ってたぞ」
「……付近の封鎖をお願いしてもいいかな?警部補殿」
「貸し一つな」
「今助けたのでチャラだ」
「くそったれ。さっさとカタつけろよ?」
吐き捨てながらもダニエルはすぐ様まだ事後処理を行っていたポリスーツの方へ駆けていった。それと入れ替わるように、到着したクラウス、ザップ、ツェッドが駆け寄って来た。
「スティーブン!」
「お嬢さんはあそこだ。まだ被害者は出てないと思いたいが……」
苦い表情のスティーブンが呻いた直後、氷の壁の向こうで炎が巻き上がり、熱で脆くなった箇所が砕かれる。そこから出てきた結理は、相変わらずの無表情で一同を見回すと、手に刃爪をまとわせて地を蹴った。
「殺る気満々かよ…!!」
嫌そうにザップが唸ったのを合図にしたように、それぞれが少女に向かっていった。