異界都市日記15
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ジューラ・エイヴィンは、一部では『13王』にも匹敵する力を持つ血界の眷属なのではと噂されている呪術師だった。真偽のほどはとにかく呪術の腕は確かで、同様に呪術を生業としていたギッドロと軽く肩を並べられるとも言われていた程だ。
そんな彼がライブラの助力によって拘束されたのは一週間程前のことだった。病原菌の様な呪いをHL全土に渡ってばら撒こうとしていた所を寸前の所で阻止し、HLPDに引き渡された。
だがそれから数日後、ジューラは拘留中に突然死亡した。隠し持っていた呪術で自殺したらしいのだが、真相は現在も不明のままだ。それは情報が隠されているからではなく、調べた警察でも直接の死因が判明しなかった為でもある。
ジューラ自身は死亡したが、彼が残した呪術やその構築式は今も残っている。
その残った呪術の種類や数を調査し、可能ならば破棄するというのが、結理に課せられた任務だった。
「ったくよー……何でこうも簡単にバタバタ倒れんだよあのミジンコ大福は!最近仕事サボり過ぎじゃねえのー?」
「感知が出来るって言っても、それだけじゃ対応できないことだってあるんじゃないすか?ユーリだって完全無欠の能力じゃないって言ってましたし」
「それにしたって気ぃ抜き過ぎだろ。俺らの仕事はいついかなる時でも即座に対応できるように」
「女性関係のトラブルが原因で一昨日まで入院していた人が言っていい台詞じゃありませんね」
「んだと魚類テメエコラ!!三枚おろしにしてやろうかアアン!?」
「だーもー!止めてくださいよ!ほら着きましたよ!」
睨み合って(というよりはザップが一方的にからんで)喧嘩を始めかねない兄弟弟子の間に入って、レオは目的の建物を指さした。中心街からやや離れた場所にあるジューラの棲み家は、外見はただの掘っ立て小屋にしか見えない。
「ぃ…!」
「どうした?」
だが意識的に『神々の義眼』で棲み家を見たレオの視界には、明らかに普通でない光景があちこちに映った。
「気持ち悪いぐらい呪いだらけですよあの小屋…!うわー……エイブラムスさんがいるみてえ……っ!一番奥にユーリがいます!」
「……罠の類は見えっか?」
「何とも言えないっすけど……少なくとも廊下とかにはそういうのは見えないです。多分ですけど、呪いとかもいつでも発動できるようにしてるのを、普通にしまってあるみたいすね……」
「……とにかく入ってみるか」
その場を締めくくるように息をついて、ザップがずかずかと小屋に向かって歩き出した。レオとツェッドもその後に続き、三人で呪術師の棲み家に入る。
中は当たり前のはずなのに不気味に感じる程静かで、歩く度に軋む床の音がやけに響いた。
そう広くない小屋の最奥にはすぐに着いた。先頭を歩いていたザップが何の躊躇いもなく扉を開くと、先程堕落王が映像で見せた通り部屋の奥に置いてある、乱雑に紙束が積まれた机のすぐ側で見慣れた少女が倒れていた。
「ユーリ…!」
「お前はそっから部屋ん中見てろ。何かあったらすぐ言え」
レオに言い置いてから、ザップはツェッドに目配せをして二人で慎重に結理に近づいた。軽く周囲を見回してからそっと少女に触れるが、何かが起こる気配はない。
「……結理さん、結理さん」
ツェッドが抱き起こして軽く揺すると、結理は小さく呻いたが目を覚ます様子はなかった。
「……ただ気を失っているだけみたいですね……」
(っ?あれ…?)
軽く安堵の息をついたツェッドに抱えられている結理を見たレオは、そこに小さな違和感を覚えた。硬く目を閉じている少女はいつもと変わらないように見える。だが何かが違う。違和感を捕まえようと、レオは『神々の義眼』を見開いて更に少女を注視した。
「……ザップさんツェッドさん、ユーリが何かおかしいです。」
「はあ?何かって何だよ?」
「それはまだ分かんないんすけど……」
「……ぅ……」
「結理さん?」
訝しげに聞き返すザップに顔をしかめながらもレオが答えていると、ツェッドの腕の中にいた結理が小さく身じろぎながらゆっくりと瞼を持ち上げた。定まり切っていない視線を軽く周囲に巡らせてから、顔を上げてザップとツェッドを見ると、驚いたように目を丸くする。
「気が付きましたか?」
「なーにぶっ倒れてやがんだよ貧弱女」
「そんな言い方はないでしょう。まだ何があったかも聞いてないんですから」
「貧弱だから貧弱っつってるだけだろうが」
(……何だあれ…?)
慎重に結理を観察していたレオは気付いた。最初は彼女自身のオーラと混同していて見えにくかったが、よくよく目を凝らすと少女の身体に見慣れない鎖の様なオーラがまとわりついている。
その鎖のオーラが、突然強く大きく光り出した。