異界都市日記14
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「――っ!!?うわああっ!?!!!?」
「結理!?」
何気なく、いつもの調子で探知感度を広げた瞬間、耳元でいきなり大音量を流されて目の前で何かが破裂したみたいな感覚に襲われた。大波に飲み込まれたみたいに魔術や人間や異界人やそれ以外の全部の気配がいっぺんに流れ込んできて、前後左右も上下も分からなくなって椅子から引っ繰り返った。
今のわたしは、爆発しそうだった力を全力で抑え込んでた状態だった。そんな状態からいきなりその抑えをポンと外したら、処理しきれなくなるのは当たり前だ。
そして、わたしが転げ落ちたことがトリガーになってしまった。
まだ前後不覚から回復してないけど、室内の空気が変わったことだけは分かった。殺気や闘気とは違う…でも決していい気配じゃない……
……これは……狂気だ……
「っ!?K.K!」
「王子!落ち着いてください!!」
ガタガタバタバタ音がして、誰かの慌てた声や叫び声みたいなのが聞こえる。目は見えてるし耳も聞こえてるんだけど、頭が状況を認識してくれない。何が起こってるのか分からないけど、とにかく騒ぎからは離れた方がいい。その判断だけはできたから、わたしは手探り足探りでずりずり下がって、背中がつくとこまで逃げた。
「致し方ない、全員拘束する。スティーブンは結理を頼む」
「ああ分かった」
ああやばい……何だこれ……頭が重くてくらくらする……探知してこんな状態になるなんて初めてだ……あれ?初めてじゃなかったかな…?流れ込んでくる色んなものが止められなくておかしくなりそうだ……世界ってこんなにうるさくてチカチカキラキラしてたっけ…?音と光の消し方が分からない……今までわたしは、どうやって世界を感じ取ってた…?
「結理、結理!大丈夫か?」
「……っ…?」
何か呼ばれた気がしたから顔を上げるけど、目の前の人が認識できない。この人は誰だ……?知ってるはずなのに分からない……その前にここってどこだっけ…?わたし今何して…どうなってるの…?
顔どころか周囲も認識できない。
それなのにある一点だけ、その場所に向かってズームしたみたいに認識ができた。
「一旦廊下に出るぞ。立てるかい?」
「……っ……」
その時わたしの中で生まれた感覚は、一番近い表現をするなら使命感だった。何の為にとか疑問を挟むこともなく、ただそうしなければって気持ちだけが体全体を支配した。
……後々考えるとそれは本能の類だったんだろうけど、とにかくその時のわたしは、やらなきゃいけないって気持ちのままに動いていた。
「結理?っ!!?あ゛~~いだだだだだっ!!!!」
「……っ!!!?」
耳に突き刺さった悲鳴でわたしは我に返った。世界とチャンネルが合ったみたいに余計な音も光も消えて、突然周囲が認識できるようになった。
そして気付いた。
わたしが、スティーブンさんの首に噛みついていたことに。
「っぎゃああああああああ!!!」
悲鳴を上げながら慌てて離れたけどもう遅い。首を抑えてる手の下から少しだけ血の匂いがしてる。あと少し遅かったら完全に食い破って…その後どうしてたかなんて言葉にもできない。
「……あ……わ、わた……し……あ……あぁ……!!」
色んな思考やら風景やら思い出やらが一瞬で頭の中を駆け巡った後、わたしは最後に出てきた言葉と行動を迷わず実行した。
「死んで詫びます!!!」
「!!?」
わたしが今すべきただ一つのこと。それは自害。首を掻っ切るもしくは落とす!吸血鬼の本能に負けて誰かを襲うなんて!!これだけは!これだけは絶対に破るなってみんなから叩き込まれたのに!!本能に負けて最後の一線を超える輩に生きる資格なんてない!!お母さんお父さんじいちゃん達!今からそっちに行きます……!
「【し゛な゛せ゛て゛く゛た゛さ゛い゛~~~!!わたしは生きてちゃいけないんです~~~~!!】」
「噛みついたくらいで死のうとするんじゃない!ああコラ!手を首に持っていくな!!」
「【自制もできないわたしなんて死ねばいいんですぅぅぅぅぅ!!いっそ殺してくださいぃぃぃぃぃ…!!わたしみたいなクソ虫以下のゴミクズなんて消えてなくなればいいんですぅぅぅぅぅ!!!】」
「日本語になってても死なせろと言ってるのは伝わってるからな…!とにかく君が死ぬ必要なんてどこにもないんだから落ち着け!」
「氷漬けでも滅殺でも密封でもいいんで始末してくださいぃぃぃぃぃ!!」
「だからその必要はないって言ってるだろう!」
「レオ!!よかった、心配していたぞ」
「どッ…どうしたんですか!?何の騒ぎですかコレ!」
「うむ…度を超えた美味がトランス状態を引き起こした様だ。一応拘束には成功したが、室内には入らぬ方が良いだろう。落ち着くまでここで待って居たまえ」
「はあ……で、あっちの二人は何があったんですか?」
「トランス状態の結理がスティーブンに噛みついてしまったらしいのだが、それで責任を取って自害すると言って聞かないんだ」
「うわあああああああん!!【わたしなんて……わ゛た゛し゛な゛ん゛て゛え゛ぇぇぇ……!!!】」
「ああもう…その……泣くな!!」
こうして、最高峰最高級のレストランは、わたしにとって大きなトラウマとなった。
異界都市日記14 終われ
2024年8月17日 再掲