異界都市日記14
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「……っ…!!」
新しい料理が運ばれてくる度に、少しずつおかしな空気になってきてるのが分かった。
何か……あれだ、パニック映画か何かで日記だか観察記録だかつけてる人の気持ちが少しだけ分かる気がする。あれはきっとこの光景を記録しなければという使命感じゃない。自分自身を少しでも保たねばっていう防衛本能からの行動だ。
それぐらい、このモルツォグァッツァの料理は次元が違いすぎた。真逆の意味で舌がおかしくなりそうだ。わたしに出される料理にはアルコールは入ってないはずなのに、頭がふわふわしてきた……
自分を落ち着かせる気持ちで周りを見ると、レオ君とザップさんなんて場所も忘れて奇声をあげてるし、チェインさんとツェッド君は目の焦点が合わなくなってきてる。K.Kさんは相変わらず落ち着いてるみたいだけど……スティーブンさんからはとっくの昔に粗相すんなオーラは消え去ってる上にちょっと変顔みたいになってるし、クラウスさんと王子はアカムツのムニエル的なの(料理名は長くて覚えられなかった)を食べた途端すごい驚いた顔をした。ちょっと待って二人はこの手のそこそこ食べ慣れてるんじゃないの?その二人が驚くってどういうことなの?
何か……この先の料理を色んな意味で処理しきれるのか不安になってきたな……
「へ…ふ…うう……」
「どうしたァ」
「ううーん…ちょっとトイレ」
何とか落ち着かないとって思って自制心の漢字を思い出してると、レオ君がちょっと辛そうにため息をついた。普段食べないような料理と味で、胃がびっくりしたみたいだ。高級料理に内臓が付いていかなくて食べ付けない人がいるって聞いたことがあるから、それに近い状態なんだろう。
「あの…いいですか?」
席を立ったレオ君が、思い出したみたいにわたし達、特にザップさんの方を見た。
「僕の中座中に次のが来て、それに万が一手を付けたら絶交ですからね?」
「…友情ストップ安やのー」
「食欲の前じゃ人は鬼にも悪魔にもなれますからね」
もしもわたしだったら絶交どころかなます切りにするわ多分。
「あ、少々お待ちを」
扉に向かおうとしたレオ君を、ウェイターさん……いや、ギャルソンさん?が止めた。何だろうと思ってると、上の方で魔術の気配と何かが組み替わるみたいな音がした。
もしかして……空間を組み替えた?成程、他のお客さんと鉢合わない仕組みはこれか……すごい徹底してるな……
モルツォグァッツァの徹底したサービスの内容を知れて、少しだけ気分が落ち着けた。コースも折り返しってところだし、これなら最後まで何ともなくいけそうだ。
そんな軽い気持ちでいられたのは、それから10分ぐらいの間だけだった。
「ポルグ・ネッスのララバハペーニョチェトクゥア風です。」
「~~~~~~~~!!!」
やばい、わたし、死ぬ。うまさで死ぬ。幸せ通り越して拷問だ。どうしてこの回わたしの一人称にしたの?長編でしょこれ何で地の文三人称だか神視点だかにしなかったのこれがやりたい為なの?出てこい管理人。お前親愛で進めたいとか言いながら時々そうでもなくなりかけてんじゃねえかその辺どうするつもりなんだコラ。短編はこっちとは世界軸繋がってませんてか?嘘つけお前繋がってもいいようにしてんの知ってんだぞ!おまけに最初にこれ書いた時から随分惚れた腫れたも増えましたねえ?それでいて未だにシムシティ女子気取ろうとすんのもいいけどいい加減夢……
「……はっ!」
今頭が変なことになってた。何だったんだ今の幻覚……いや幻聴?何か考えちゃいけないことを考えてしまったような……どうしよう……これ以上食べて大丈夫なのかな…?でも残したくないし……そもそも残すなんて選択できないし…!
「動かないでユーリゲン!!」
「うぉ…!?」
とにかく、もう何回目になるか分かんないけど落ち着こうと思って軽く深呼吸をしようとしたら、いきなり叫び声がした。思わずそっちを見たら、K.Kさんが椅子に座ったままがくがくけいれんしながらのけ反ってる。何だ…!?何があった…!!?
「銃をゆっくり床に置いて…その起爆スイッチをこちらに渡しなさい!私に貴方を撃たせないではぅ…!!」
一体何の記憶なんですかK.Kさん…!!てゆうかK.Kさん落ち着いてなかった!表に出てなかっただけだった!!
何だかちょっと以上不安になって、他のみんなはどうなってるんだろうって思って見てみると、チェインさんは料理を食べながらえぐえぐ泣き出していた。感動っていうよりはもう混乱って感じだ。逆にツェッド君は生魚を出されたわけじゃないのに石になったみたいに固まってる……ていうか……気絶してる?
なんてのんきに観察してる風なわたし自身、実は全く余裕なんてない。さっきちょっと危なかったけど、おじいちゃんにこれでもかってぐらい叩き込まれた自制でどうにか最後の一線を保ってるにすぎない。
だからほっとした顔で見ないでくださいスティーブンさん!!お嬢さんは大丈夫そうだなとか思わないでください!!!
「……スティーブンさん、【安心してるとこ悪いんですけど】……わたしも正直ギリギリですからね…!!【色々ぶっ飛びそうなの】耐えてるんですからね【ぎりっぎりで】…!!」
「(言葉が所々日本語になってる…!?)そのギリギリが重要なんだ。何とか耐えてくれ…!!」
「【がんばります…!】」
ていうか……さっきから血を飲んだ時みたいな高揚感が沸いてきてて本当にやばい。今なら長老級の血界の眷族とサシで殴り合って勝てそうとかおかしなこと考えそうになる。ここの料理ほんとマジ何なんだ…!?
落ち着け……落 ち 着 け…!じいちゃん達の教えを思い出せ。戦闘において最も重要なのは自分を見失わないことだ。いかなる術にかけられようと、どれだけ傷を負って血を流そうと、自分だけは最後まで見失うな結理…!!
「スティーブン」
「!?」
「…っ?」
必死に自分を制御してると、クラウスさんがスティーブンさんを呼んだ。ていうかクラウスさんすごい通常運転なんだけど…!王子なんてさっきまでの穏やかで落ち着いた感じ全部ぶっ飛ばしてザップさんと一夫多妻話で馬鹿みたいに盛り上がってるのに…!この料理で平常心保ってられるなんてどれだけ鋼メンタルなのリーダー流石すぎるわ!
「レオが戻らないな」
……そういえば、さっき……魚のムニエルを食べてる途中ぐらいでトイレに出てから、レオ君が戻ってこない。よっぽど胃にダメージがいったにしても、ちょっと遅すぎる…?道に迷った……ってことはないだろう。ギャルソンさんが一緒についていったし。
だとしたら……何かあった?探しに行った方がいいかもしれないけど、空間が組み替えられてるんじゃ扉のすぐ外ぐらいしか出らんないだろう。でもひとまず無事かどうかぐらいならここからでも確認できる。
そう思ったわたしは、その時自分の状態を思い切り失念してた。