異界都市日記14
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さすが高級店としか言いようがなくて、中はお城みたいに広々としてた。クラウスさん達大人組は何でもないように廊下を歩いてるけど、わたし達ど庶民組はもう……この押し潰されそうな空気の漂う廊下だけで緊張感MAXだ。レオ君とザップさんとツェッド君なんて、気圧されたみたいに落ち着かない様子できょろきょろしてる。
いつもならレオ君に何か話しかけて少しでも空気を軽くするけど、もうしゃべった瞬間に何か色んなもんが爆発しそうで(ついでにスティーブンさんから絶対零度のお叱りを受けそうで)声も出せない。同じことを思ったみたいで、レオ君と目が合ったけど無言で首を振ることしかできなかった。
だ、大丈夫かな…?緊張し過ぎて味分かんないとかなんないかな……?いや、それよりもお皿引っ繰り返したりしないようにしないと……平常心平常心……
落ち着かない気持ちを持ったまま案内された部屋では、フリージャ王子が待っていた。
「ようやく会えましたね、皆さん」
そう言って笑う王子は、上流の人らしく落ち着きのある穏やかそうな人だった。これだけ格式高い場所にいても全然緊張しない佇まいで、ああこの手のに慣れてる人なんだなあっていうのが分かる。
ひとまず、王子のおかげで緊張は大分解けた気がする。むしろ今一番緊張するのは、スティーブンさんの粗相すんなオーラ全開の視線だ。
それぞれ席に着いて、王子が今回のことにお礼の言葉を言って、乾杯する。ちなみにわたしは見た目未成年なのとアルコールアレルギーというていだから、お酒じゃなくて炭酸水だ。今回は特に、わたしの周囲からは徹底してアルコールは排除されてる。どれだけ弱いのか事前にがっつり実験したくらいだ。ていうかほんと…酔ったわたしはどんだけしでかすの…!
王子との談笑にクラウスさんとスティーブンさんが受け答えしてる間に、料理が運ばれてきた。
異界料理と人界料理の組み合わせが生み出す奇跡の味は、いかなる者の味覚にも抉りこんでくる……とか何とかガイドブックには書いてあった気がする。その奇跡の料理が、今目の前にある。やばい、また緊張してきた。テーブルマナーも吹っ飛びそうだ…落ち着いて落ち着いて……始祖とおじいちゃんの教えを思い出せ……
「前菜――インスマスイクシオのカルパッチョです」
もう香りが既にすごい……これカルパッチョだよね…!?
声に出さないでいただきますをしてから、鮮やかな色のソースのかかった魚を一切れ、慎重に一口食べた。
いざ……参る!
「―――――!!?」
な ん だ こ れ !!!?
まだ口に入れただけだ。噛んでもいない。それなのに言葉にできない味が口の中で一気に広がった。おいしいとかうまいとか美味とかそんな表現じゃ追いつかない。雷に打たれたようなとか言うけど正にそれだ。もう何だこれとしか言えない。何をどうしたらこんな味が出せるのか理解できない。せっかくの魚にソースをかけるなんてって、カルパッチョに対して偏見を持ってたことを今ここで全力で土下座して謝りたい。
これが……モルツォグァッツァ……!!
「やべええええええ何すかーこれ何すかー!!」
「……確かに…桁が違うぜこりゃ…」
レオ君とザップさんがギリギリ叫ばないで騒いでるけど、わたしも同意見だ。普段食べてるものとまるでレベルが違う。比べるのすら失礼というか意味がない。同じ舞台どころか次元が違う。わたしの世界の吸血鬼と血界の眷属ぐらい違う。ダメだ、この例えわたししか分かんない。
でも声に出して同意したら際限なく騒ぎそうになる気がしたから、わたしは自分をごまかす気持ちで向かい側を見た。わたし達が何かしでかしやしないかとちらちらこっちを見てるスティーブンさんも、涼しい顔で料理を食べてるK.Kさんも、王子と味の感想を中心に談笑してるクラウスさんも、全然動じた様子がない。特にクラウスさんなんてこの手のにめちゃめちゃ慣れてるっぽいし……そうだよな……よく考えたら公爵家の人だもんなぁクラウスさん……これが平民と貴族の差、いや、それ以前に大人との差か……すごいなあ……
「うふおお…何たる余裕」
「流石すぎる……」
「やっぱ大人は違うわ…見てくださいよあのK.Kさんの落ち着きっぷり」
K.Kさんの落ち着きぶりなんて本当に流石としか言えない。あんな大人の女性になりたい…!見てくれは血統の関係上絶望的だけどせめて内面くらい…!!
そう思ってたら、K.Kさんが堪え切れなくなったみたいに笑った。でもそれもちょっとだけで、わたし達みたくぎゃいぎゃい騒ぎそうな雰囲気は全くない。
……わたしもしっかりしなきゃ……まだ前菜だぞ…!