異界都市日記14
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味覚の特異点、ヌーベルキュイジーヌアウデラーデ―新異界料理の店―
モルツォグァッツァ
というレストランがある。
ヘルサレムズ・ロットの中のトップクラスの店の中でも更に飛び抜けた高級店で、味はもちろんのこと格式やサービスも一級品……いや特級品って言ってもいいぐらいのレストランだ。各国の重鎮や超VIPも御用達のお店で、客同士が鉢合わないように細心の注意を払ってる。それは鉢合わせた相手によっては、即座に戦争や世界恐慌が起きる可能性だってあるからだ。それぐらい、世界中のVIPが集まる、もう何回言っても足りないぐらいの超高級店で、来年発行予定のミシュランガイドHL版で鉄板の三つ星がつくって噂もある。いや、多分噂は現実になるだろう。
そんな、多分一生縁がないだろうと思ってたレストランの前にわたし、一之瀬結理はライブラの仲間達と一緒にいた。服装だっていつもと違う。今日のわたしは黒地に赤の縫い飾りのしてあるワンピースドレスに、ドレスに合わせた色合いのパンプスという格好だ。間違ってもいつものサマーコートは羽織ってないというか羽織れない。髪だっていつもの適当に下ろした黒のストレートじゃなくてちゃんと結い上げてるし、薄いけどメイクもしてる。
「よーし、全員注目ー。何度も言うが今日は特別な日だ。本来日陰仕事である筈の我々がこの様な場所に招待された」
正直言って、こういったドレスコードな場は苦手だ。家自体は人外要素満載でちょっと戦闘狂気質な人が多くても普通の家庭だったし。けどおじいちゃん達の始祖がどえらい財閥の資産家だったから、ワンランクもツーランクも上の世界に全く触れたことがないわけじゃない。いや、ちょこっとでも触れたことがあるからこそ、自分の粗相一つで何が起きるかを考えてしまって緊張する。
「宴席の主はフリージャ次期国王。アラビア半島から極秘で来HLされている。彼の国では我々の様な下々の者がお目通り叶う事などまず無い」
そしてここへ来ることになった理由が、今スティーブンさんが説明してる超超VIPがとあることから縁のできたライブラと会食の席を設けてくれたからだ。これで緊張が二倍。
フリージャ王子はニュースでもたまに見かける。眉目秀麗、頭脳明晰、知勇兼備、文武両道……とにかくすごい人格者だ。こんな為政者がもっとたくさんいたら、世界はもうちょっと平和になると思う。
「そして――同時にスポンサーとしての大きな可能性も秘めている」
(本音が出た)
(本音だ)
(本音…)
「さらっと本音出ましたね……」
「今回の件で信頼を得た我々に打診されている活動援助額は年間300万ドル。その成否は今夜の我々の双肩にかかっている」
さっきから丁寧に穏やかに、後半から本音だだ漏れで説明してくれてるスティーブンさんだけど、ずっと目が笑ってない。
「なに、別段特別な事をしろってんじゃない。フツーにしてればいいんだ、フツーに」
すいません、顔がそう言ってません。むしろフツーにしてたらどえらいことになると思うんですけど……特にわたしの隣にいるシルバーシットな先輩は。
「いいかくれぐれも、くれぐれも粗相の無い様にな」
これで緊張が……五倍。
そう、今日はVIPにお呼ばれして会食じゃありません。最早任務です。いかにそつなくこれからの時間を切り抜けるかという、サバイバルです。失敗の先に待っているのは永遠のコールドスリープです。下手すると滅殺です。
でも……正直食事はもんのすごい楽しみだ…!だって絶対手が届かないと思ってたモルツォグァッツァでなんて……こんな時じゃなきゃ絶対行けないもん…!!!
……命と天秤に掛けられても食に傾くのは悲しい性だ……