幕間:秘密の任務とお茶会の後で
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「最近はどうだい?」
スティーブンがそう尋ねてきたのは、車を発進させてからすぐのことだった。唐突と言えば唐突な質問に、結理は怪訝そうにぱちぱちと瞬きをする。
「……え、面接ですか?クラウスさん的な?」
「ただの世間話さ。お嬢さんもHL(この街)に来てから大分経つだろう?顔見知りや友人もそれなりに出来たろう」
「……あー……」
最後の言葉で察してしまった。スティーブンが自分を呼び止めた理由と、同乗を促した理由を。恐らく先程の現場を見られていたのだろう。下手に誤魔化してこじれても面倒なので、結理は先手を打つ為に口を開いた。
「変に勘繰られる前に言いますけど、さっきまで偏執王アリギュラと会って話してました」
「……そうか」
「……もしかして知ってました?」
「先週辺りも同じ喫茶店にいたのを見たよ」
「あぅ……」
即答されて、結理は頭を抱えて天井を仰ぎ見た。先手を打ったつもりが思い切り後手に回っている。偏執王とは本当にごくごく普通の場所で話をするので、目撃される可能性は確かに考えていたが、だからといってどうこうしようとまでは考えていなかった自分を若干呪った。
「……すいません……報告すべきなのは分かってたんですけど……不定期に会ってます。てゆうかいつも向こうがいきなり現れます。多分堕落王に拉致られるよりも彼女と会って話してる回数の方が多いです。これからはちゃんと報告しますんで……」
「……偏執王とはどんな話を?」
「ほぼ彼女の恋バナ聞かされるぐらいですけど、割と普通な世間話です。いや、普通…?うん、普通ですね。どこそこに新しい店が出来たとか、この間行った店が潰れて残念とか……何か知らないけどわたしと話すのが楽しいみたいで……」
「君の変人寄せは『13王』にまで及ぶのか……」
「まあ……最初に顔合わせたのが堕落王ですしね。何だかんだ縁があるみたいです。全っ然嬉しくないですけど…!!」
最後の言葉だけは本心を全力で声に乗せて、結理はため息をついた。超常と日常がごった煮になっているこの異界都市で様々な交流があるのは楽しいが、相手が稀代の怪人達となれば話は別だ。偏執王に関してのみはごく普通の世間話をするだけの時もそれなりにあるものの、はっきり言って迷惑や気苦労の方が圧倒的に多く、たまに感じる楽しさ程度では全く釣り合わない。
「今回の美術館も、偏執王関連でクラウスにお願いしたのかい?」
「まさか!いや、まあ……どこで嗅ぎつけたのか探りは入れられましたし愚痴られましたけど、そこは適当に誤魔化しました」
(うわ怖い!!質問がストレート過ぎて超怖い!!)
抉りこむような問いかけに心臓が縮まったような感覚を覚えつつ、それを表に出さないように全力で自制しながら、結理は何でもないように即答する。内心この誤魔化しも通じていないのではないかと思うし、誤魔化す必要もないのではないかとも思うのだが、何となく偏執王と必要以上に通じていることは知られたくなかった。
「……心配しなくても、わたしが彼女と通じてブローディ&ハマーをどうにかするなんてことは絶対あり得ませんよ」
「そこは僕も心配してないよ」
一応と思って言い切った言葉に即答が返ってくると同時に、前方の信号が赤になっていたので車が止まる。
「どちらかって言うと、別方向の心配かな?」
「別方向……ですか?」
「君の怖いもの知らずな姿勢が悪い方向へ向くんじゃないかってね」
「?どうゆう意味ですか?」
「どうしてたまに妙に鈍いかなあ……」
意味が分からずに尋ねると、何故か呆れた様子でため息をつかれ、結理は益々不可解に顔をしかめた。スティーブンは少女を一瞥して、考えるように沈黙を置いてから問いを投げてきた。