異界都市日記13
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今回の騒動の元凶は、ゲムネモという名を持つ病原菌のテロリストだった。細菌ながら魔導科学を習得した天才的な頭脳を用いて、細胞組織の超強化加速分裂術式の開発を成功させたと語ったのは、彼を追ってHLへやって来た機装医師リ・ガドと名乗る、これまた細菌の自称ハイパードクターだ。
彼の話によると、ゲムネモのターゲットにされて術式を植えつけられたであろうリールは現在、ほぼ無限に体の強化及び巨大化を繰り返している状態になっているらしい。このまま強化が続けばどうなってしまうのかは誰にも分からないが、何かしらの非常に甚大な被害が出るのだけは確かだ。
それを阻止することが出来るのは、リ・ガドが持つウイルス型術式を無効化することのできる兵器だけで、世界の、そしてリールの命運は、術式無効化兵器をターゲットの所まで届かせることのできる存在が握っていた。
『オイレ(フクロウ)1より地上班、配置に着きました』
無線からの声を聞きながら、結理はコートのポケットを全て探って手持ちの血晶石の数を確認する。
『これより接近を開始する。作戦通り陽動を開始されたし』
「ようし、行くぞ」
号令と同時に配置についた結理は、一つ目の血晶石を噛み砕きながらビルのように大きな足を見上げた。蟻と人間よりも更に差がある比率だが、少女の顔に恐れや緊張の色はない。
(一個につき『血の乱舞』二、三発ギリって計算で……十発は軽く行けるけど時間数えながらだと……)
「まあ……流れで」
適当に結論付けて、グローブをはめた両手の掌底同士を打ちつけるように合わせて、術を紡ごうと構えた。
「『血術―ブラッド・クラフとおぉっ!!?」
その瞬間、横から飛んできた気配に巻きつかれた。丁度術を放つ直前だった為に避けられなかった結理はあっさり引っ張られる。転びはしなかったが思い切りよろけながらも、血の縄で自分を引っ張ったツェッドに驚愕の表情を向けていた。
「……ってぇ!何すんのツェッド君!!?」
「今無茶をしそうな気配を感じたので、以前言ったことを実行させてもらいました」
「何それエスパー!?つかこのタイミングで有言実行!!?」
「ああ丁度いいお嬢さん、君は血法の使用は禁止だ。陽動作戦なんだから全力投球する必要はない」
「……あれ…?わたし今日使えない子…!?」
「ペース配分を考えろという意味です」
「一応考えてたんだけど……」
そんなちょっとしたやり取りの後、結理は仕方なしに一番消費の少ない身体能力の強化のみでひたすら巨人の足の指に蹴りを放っていた。各々の攻撃が効いているのか、注意がこちらに向いているのか判断はつかないが、巨人のリールが動く気配はない。
「……『血」
「結理さん」
「だって!効いてんのか効いてないのか全然分かんないんだもん!わたしなんてただ蹴飛ばしてるだけだし!それなら抉り取るぐらいしないとこっちもいい加減不安になるよ!!」
咎めるように名前を呼んだツェッドに結理が叫び返した直後、巨人の足がゆっくりと浮いた。こちらの陽動をうっとおしく感じて蹴散らそうと足を上げたのかと思ったが、そうではない。向き直った時には、リールの巨体は既に大きく傾いていた。
風に煽られたパネルのように仰向けの状態で真っ直ぐに倒れていく巨人から発せられるだろう衝撃に誰もが身構えたが、まるでそれすらも「永遠の虚」が飲み込んでしまったかのように、リールの姿は消え去っていた。