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そのほか詰め

 飲み終わった空き缶をその辺に放り投げて歩く。すぐに冷えてしまいそうな手をポケットに入れ、浮かれた街を見た。
 イマダも、クリスマスというのは嫌いじゃない。滅茶苦茶するのにいい口実だ。もっと若い時分には、酒も薬もありな乱痴気騒ぎを女とやったもんだった。
 ただイマダは自分が浮かれる分にはいいが他人が浮かれているところを見るのは嫌いなため、『反吐が出るな』と思いながら歩いていた。

 ふと腕を掴まれる。振り向けば、「落としたぞ」と空き缶を持って立っているタイラがいた。
 げっ……。

 なんだこいつは。うぜえ……。毎日しっかりうぜえなこいつ。

「ああ……どーも。探してたんですこれ。アリガトウ」
「いいぞ。気にするな」

 じゃあ、と言って立ち去ろうとするとタイラも後ろからついて来た。「んだよ」と顔を顰めれば、「俺もこっちに用があるんだ」と涼しい顔で告げられる。それからタイラは喉を鳴らして笑い、「お前に絡みたい気分だった」と言った。
 はぁ?
 はぁ? という感情しかない。なんだ、俺に絡みたい気分って。頭のネジ何本飛んでんだ。
 俺はこいつが嫌いだ。嫌いだということを隠そうとも思わない。こいつも俺のことを多少は警戒しているはずである。そうあってしかるべきだ。
 それでどうして『絡みたい気分』なんぞになるかわからん。マジで頭沸いてんなこいつ。

「お前さぁ、こんなとこふらついてていいの? クリスマスだろ、お前んちでなんかやんねえのかよ」
「夜はな。それまで適当に時間を潰すんだ」
「適当な暇潰しに俺を使おうとしてる?」
「それもアリだな」

 生憎暇潰しの約束をしているんだ、とタイラは言った。つまりイマダは暇潰しにもならない存在だということである。クソったれ、死んじまえ。
「今日は雪がふるらしいぞ。ホワイトクリスマスとかいうやつだな」
「そうだね、素晴らしいね。こんな素晴らしい日にはお前に死んでほしい」
「そればっかりだな」
「サンタさんにお願いしたよ」
 タイラはくすくす笑い、「叶うといいな」と言う。「叶うといいな、じゃねえんだよ」とそろそろ苛立ちのピークを迎えつつあるイマダは怒鳴った。
「そう怒るなよ。俺は案外本気でそう思っているんだぜ。お前の願いが叶うといいな、って」
「じゃあこの場で死ねっつうの」
「それは断るが」
「何なんだおめーは」
 不意にタイラが手を伸ばし、イマダの首元の隙間に手を入れる。その突拍子もない行動と手の冷たさで驚き、「アッア゛ァ!?」と叫んでしまった。
「おま……お前、な……死ね……」
 タイラはと言えば大笑いで喜んでいる。このクソを視界から消す方法を大急ぎで考えているうち、タイラは口を開いた。
「お前のために死んでやろうとは1ミリも思わないが、俺がどれほど無様に死んでも『まあ来人が喜ぶからいいか』と思える。だから……お前はずっと俺を嫌っていればいいんじゃないか?」
 何を言っているのかわからなかった。ぽかんとしているイマダに、タイラは重ねて言う。
「お前、俺のためにずっと俺を嫌いでいろよ」
 そう言ってタイラは歩いていく。イマダはしばらく呆けてその姿を見送り、いきなり気分が悪くなって少し吐いた。



☮☮☮



「ちょっと、遅いですわよ」
「どこで油売ってたわけ?」
 暇潰しの約束、こと美雨と麗美が文句を言う。タイラは肩を竦め、「来人と遊んでた」と話した。
「……その顔から察するに、どちらかと言えば『来人で遊んでた』の方が正しいように見受けられますが」
「ちょっとやめてよね。あいつがヤケクソになってとんでもないことしたらどうすんのよ」
 なんだ人聞きが悪いな、とタイラは目を細める。「ちょっとからかっただけだ。友達なら普通だろ」と言えば、美雨と麗美は呆れたように顔を見合せた。
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