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タイユメつめ

 せっかくの休みに構ってくれる人もいなかったので退屈だったユメノは、シャワーを浴びて昼からごろごろすることにした。カジュアルな部屋着で3階に上がり、ほとんど迷わずにタイラの部屋のドアを開ける。あの男は外に出ているはずだ。部屋の主がいない隙に小さめの冷蔵庫から勝手に飲み物を拝借し、ベッドにダイブする。仰向けになってスマートフォンをいじった。

 柔らかな陽ざしにあてられてすっかり気持ちよくなったユメノは、どうやらそのままうとうとしてしまったようだった。ハッとして目を開ける。うとうとどころではなかった。すでに陽が翳っている。
 というか、そんなことは問題ではない。

 ユメノは完全にタイラに抱き枕にされていた。頭のすぐ上から寝息が聴こえてくる。
 この部屋で寝ている時に部屋の主とエンカウントしたことは何度かあったが、このパターンは初である。タイラは相当酔っていたのか、あるいは疲れていたのか知らないが、さすがに勘弁してほしい。

「た、たいら……?」

 控えめに声をかけてみたが反応がない。抜け出そうとしてみたがあまりにも見事に体が覆いかぶさっていて腕一本足一本逃れられそうにない。
 詰んでしまった。
 疲れているなら起こすのは悪いな、と思いつつも暇である。せめて手が動かせればスマートフォンで映画でも見よっかなぁということになるが。

 まるでユメノの心を読んだかのようにタイラが身じろぎした。チャンスである。ユメノは動かせるようになった左腕で何とかスマートフォンを掴み、電源を入れる。その場で映画を購入してダウンロードした。
 短い恋愛映画を観る。コメディ色が強すぎて心打たれはしなかったが、不意に笑ってしまうような作品だった。

「次、これ見ようぜ」

 ぎょっとして隣を見る。いつから起きていたのか、目をパッチリ開けたタイラが画面を指さしている。
「……起きたら起きたって言ってもろて」
「お前はここで何をしているんだ?」
「あたしの方が先にいたんだからね」
「そもそも俺の部屋だが」
 起き上がったタイラが「いてて」と言いながら自分のこめかみ辺りを押さえる。ユメノも上体を起こし、布団をぎゅっと抱えた。
「てか、あたしいるって気づかなかったん?」
「気づいていたが、お前ならいいか……と思ってスルーしてしまった。いつものことだしな」
「疲れてんじゃない??」
 頭を掻いたタイラが「寝るつもりじゃなかったんだよなァ」と嘆く。ユメノはちょっと黙って、それから「今日は何してきたの?」と訊いてみる。案の定というかタイラは詳しい話をせずに、「楽しくないこと」と答えた。

「じゃあしょうがないから、ユメノ様と楽しいことするかー」
「ユメノ様とか?」

 ユメノはのそのそと動いて、タイラの膝の間に座る。タイラを背もたれにしながら、「何が観たいって?」とスマートフォンの画面を見せる。
「これ」
「ホラーじゃん。ダメだよ」
「ホラーじゃないかもしれん」
「ホラーって書いてあるじゃん。なんで騙そうとするの?」
 お互い譲歩して、アクション要素のあるサスペンス映画を観ることにした。手に汗握りすぎてタイラの服を皴になるまで握りしめていた。

 エンドロールが流れ始めて、ユメノは涙を拭う。「名作だわ……」と呟けば、タイラがくすくす笑った。
「なにわろとん」
「いや……何でもない。いい映画だったな」
「映画館で観たかったねー! こういうジャンルだと一緒に観に行く人いないんだよ」
「そうか? 俺は映画は一人で観るが」
「なんでよ。あたしのこと誘ってよ」
 うーん、とタイラは目を細める。
「観てる間、お前の反応が気になるからダメかな」
「はぁ!? 連れてく流れだろ、ここは!!」
 ふくれっ面をしながら、ユメノはベッドから降りる。タイラも続いて立ち上がり、「そろそろ飯か?」と呟いた。
 ふと気になって、ユメノはタイラを振り向く。
「寝るつもりじゃなかったって言ってたけど、なんかやりたいことあった?」
 と尋ねてみた。タイラは肩をすくめて、首を横に振る。
「どうでもいいことだよ」
 もう一度「どうでもいいことだ」と繰り返した。それからユメノの髪に触れて、「お前のおかげで悪くない一日と言えるまでになったしな」と瞬きをした。
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