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幻想水滸伝

結婚記念日にフリードは遠征から無事に帰ってきた。彼はヨシノとの待ち合わせ前に、晴天のデュナン湖畔を眺めながら、若草色の小箱を見て思い悩んでいた。
(ヨシノ殿、気に入ってくれると良いのですが・・)
直方体の小箱には、遠征先の町で買ったネックレスが入っていた。それは細い銀のチェーンと、トップに美しいルビーが桜の形に施されていた。フリードが水面を見ていると、側にルックが映っていたので驚いた。
「ルック殿!?いつからここに来ていたのですか?」
フリードは慌てながら魔導師の少年に言うと、彼はため息をつきながら答えた。
「・・少し前から居たよ。ずっと見ているその箱は何なの?」
「これはその・・今日はヨシノ殿との結婚記念日で、何か贈りたいと遠征先の宝石店で綺麗なネックレスを買ったのですが・・・」
フリードはルックに説明した。ネックレスはヨシノのイメージに合う桜の形だが、もっと大きめな宝石が良かったかな?と思いつめていた。するとルックは呆れながら淡々と言った
「自分が一生懸命選んだ贈り物なんだから、それで良いんじゃない」
「それでも、ヨシノ殿の好みに合うかどうか・・・」
「・・全く。もう夫婦生活長いんでしょ。何で今更プレゼントの好みで悩むのさ?奥さんの事を信じてみたら」
ルックの適切なアドバイスにフリードはそうですねと理解し、彼に感謝した。
「ルック殿・・戦だけでなく、私用にも気にかけてもらい、ありがとうございます!!」
「まぁ、その元気さで頑張りなよ。宝石の大きさも上品で丁度良いと思うよ」


ルックと別れて直ぐに、ヨシノがフリードの元にやって来た。
「貴方様!!お帰りなさいませ。遠征ご苦労様です。無事でなによりです」
「ヨシノ殿、ありがとうございます。その・・私も、結婚記念日に帰れて良かったと思います」
これも、盟主を始め、軍の皆が武を奮ったおかげだとフリードは話した。するとヨシノは彼の頬を優しく触りながら言った。
「貴方様も、サウスウィンドウの皆を率いて奮闘したのでしょう。貴方様は軍の支えでもあり、私の大切な夫です」
「ヨシノ殿、私が命を懸けて戦えるのは、貴女が私の帰りを待っていてくれるからです」
フリードは真剣な眼差しでヨシノの澄んだ瞳を見つめた。そして勇気を持って、若草色の小箱を渡した。彼は照れながら、開けてみて下さいと言った。
「桜の形のルビーが綺麗です、貴方様。結婚記念日に素敵な贈り物をありがとうございます」
ヨシノは嬉し涙をポロポロと流した。フリードは喜んで受け取ってくれた嬉しく思いながら、彼女の眼鏡を外し、ハンカチで涙を拭った。その時、突風がヨシノの背に吹き、彼はとっさに彼女の腰と背に腕を回し強く抱きしめた。
「わ・・私としたことが!!強く抱きすぎてすみません!!」
フリードは赤面し、慌てながら体を離した。ヨシノも赤面し、数秒言葉が出なかった。しかしその直後、何かを思い出したかのように、クスッと笑いかけた。
「この暖かい風は、ルック君の魔法ですね」
ヨシノは風の主の事を知っていた。少年は、ヨシノや本拠地の女性が洗濯物を干していると、何時も暖かい風を吹かせ、直ぐに洗濯物が乾かした。ヨシノ達は何時も少年に礼を言うが、素っ気無い態度で返される。
「洗濯物が溜まりすぎて、エントランスにまで置かれるのも嫌だから」
ヨシノは少年の不器用な優しさと思いやりを理解していた。
「そうだったのでしたか。私もルック殿に沢山助けられています」
フリードもルックの事を話した。
「正直、ヨシノ殿にネックレスを渡すまで、喜んで受け取ってくれるか不安でしたが、彼に妻を信じろと言われました」
「私は貴方様が無事に帰ってきてくれた事が嬉しい贈り物です。この桜のネックレスも肌身離さず身に付けます」
二人は互いに見つめ合った後、風が吹いた方向を見て朗笑した。そして、フリードはヨシノの髪を優しくかきあげ、首にネックレスをかけた。その仲睦まじい二人の姿を、ルックは丘から見ていた。
「僕もたまには贈り物を渡してみようかな」
少年は、友か師匠かそれとも大切な者か、誰に贈り物を送ったのかは皆知らずにいた。
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