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幻想水滸伝

「もうすぐルックの誕生日だから何かお祝いしたいな」
盟主のエニシは本拠地の食堂で、サスケとフッチと食事をしながら友人の誕生日の相談をしていた。
「お前なあ・・・本当にあいつの誕生日分かっているのか?」
サスケがチョコレートケーキを食べながら突っ込むとフッチも
「ルックの誕生日ってリベラさんもシーナさんも分からないって言ってたよ・・・」
「うーん・・・でも、何となく6月って感じがするんだよねー。特に6月9日はろっく・・・ルックって響きもあるし」
「・・・それだけで決めつけていいのかお前は・・・」
エニシが適当な語呂合わせで解釈すると、サスケは呆れていた。
「でも、僕は3年前の解放戦争の時からルックにお世話になっているし、今回の戦争でも大きな助けになっているから、お礼も兼ねて何かお祝いしたいと思うよ」
フッチは笑顔で2人に言った。
「・・・うーん。あいつとの協力攻撃は気に入らねーが、戦闘後には傷も治っているし・・・。顔と態度には出さないが、結構気遣ってくれているのは分かるけど・・・」
サスケは少し照れていた。
「攻撃の時に僕たちの巻きこみ方は容赦ないけど、ブライトは傷つけないように配慮しているしね」
「ルックはなんだかんだで2人を友として認めているし、厳しいながらも信頼していると思うよ」
エニシの言葉に2人は照れながらそうだなと賛同していた。


食堂を出て、エニシはジーンの紋章屋に足を運んだ。
「こんにちは。ジーンさん。少しお話大丈夫ですか?」
「あら。エニシ、ご機嫌はいかが?今、ヨシノさんからお茶菓子を貰ったの。ご一緒にどう?」
ジーンの妖艶な誘い方にエニシは少し鼻の下を延ばしながら誘いを受けた。
「あ・・・頂きます。後でヨシノさんにお礼を言っておきます。」
2人は緑茶と桃色の可愛らしい和菓子を食べながら雑談をしていた。
「ルックがジーンさんのお店に来ることってありますか?」
「時々、他の紋章を宿したり外したりで来ることはあるけど、あまりお話はしないわね。お茶を誘っても断られてしまうし」
「そうですか・・・。ルックの好きな物って分かりますか?やっぱり魔導書とか変わった紋章の封印球とかかなって・・・。」
「そうねえ・・・。でも、何か欲しい封印球はあるか聞いても、特にないと答えていたし、あの子の事は私にも良く分からないわ・・・」
エニシが深く考えていると、ジーンは少年の右手の輝く盾の紋章に口づけをし、優しい笑みを向け、少年に諭した。
「何も、プレゼントをするだけがお祝いではないわ。本当にルックが好きな事を良く考えるのが良いと思う」
エニシは嬉しそうな顔をして
「分かりました!!ジーンさん、茶菓子ご馳走様でした!!そして、アドバイスをありがとうございました!!」
エニシは店を出て行った。


店を出ると、階段の下でシーナがニヤニヤしながら待ち構えていた。
「おいおい!!エニシー。ジーンさんと何話していたんだい?もしかしてお楽しみの時間?」
「ち・・違うよ!?シーナ!!!!・・・ルックの誕生日のお祝いをしたくて、好きな物を知っているのか相談していたんだよ・・・。」
「なーんだ・・・あいつの事かー。あいつは料理対決の時に厳しい評価をつけるから何が好きなんだか分かんねーよな」
「・・・それ、シーナが言いますか・・・。」
料理対決の時にはシーナもなかなかの辛口評価をする。ルックの事を言えないと心の中で突っ込みを入れた。
「確か、シーナも解放戦争の時にルックと一緒だったよね。良く、ルックにちょっかい出していたとヒックスさんから聞いたよー」
「う・・・ちょっかいって変な言い方すんなよー。あいつにナンパの仕方を教えていただけだ!!」
ふーん・・・とエニシは疑った目をしていると、シーナは思い出したかのように話題を変えた。
「そういえばあいつ、紫陽花を見るの好きだったような・・・。トラン共和国には紫陽花が咲いている場所が多くて、遠征先で咲いているといつも見ていたような・・・。」
「確かに、紫陽花は梅雨の時期に咲いて綺麗だよねー。そうだ!!良いこと考えた!!ありがとうシーナ。」
「は・・はあ・・・どういたしましてだが、何を思いついたんだろう、あいつ?・・・しょうがねえ。ルックには世話になっているし、俺も何か手伝ってやろうか。」


エニシとナナミとサスケとフッチ、そしてフリードとヨシノと何人かの兵士も協力し、ビッキーの瞬きの鏡で、サウスウィンドウ近くの廃寺へ連れてってもらった。廃寺は本堂が老朽化で朽ち果てていたが、今でも周辺に咲く紫陽花は青や紫、桃色など色とりどりに美しく咲いていた。
「紫陽花たくさん咲いているね。ルック君の誕生日会の時にはもっと大きく咲くだろうなー。」
ナナミは目をキラキラと目を輝かせ、近くで紫陽花を見ていた。一方フリードは少し切なそうな表情で本堂を見続けていた。
「このお寺は私が幼いころに良く紫陽花を見に行きましたが、跡継ぎに恵まれず、何十年も放置されています・・・」
「でも、皆で綺麗にすれば、美しい紫陽花寺に戻りますよ。貴方様、皆様。」 
ヨシノは夫や皆を励ました。
「こういう建物を綺麗にするのは俺に任せな!!なんてったって俺は忍びの里の小屋も修理したことあるんだぜ!!」
サスケが自信満々に自慢していると、フッチが突っ込んだ。
「ほとんどは、畑仕事をさぼった罰で小屋の掃除や修理をしていたとモンドさんから聞いたよーサスケ!!」
「お前は一言余計なんだよ!!」
サスケはフッチを追いかけた。フリードは止めようとソワソワしていたが、ヨシノが
「さあ!!急いで本堂の片づけをしますよ!!」
「私も、ルック殿には戦などで何度もお世話になっております。是非とも私からもご協力したいと思っています!!」
フリード夫妻の気合の入れ方に、2人は黙って本堂の木材を片づけた。


数日後、いつも通り、約束の石板の番をしていたルックは、エニシとナナミに呼ばれた。
「・・・いったい何の用?今の時期はあまり行動範囲を広げないようにと軍師に言われなかったかい?」
「そう言わずに、連れていきたいところがあるんだよ♪」
ナナミは、面倒くさそうな顔をしているルックの腕を引っ張り、エニシは彼の背中を押しながら、瞬きの鏡の場所に向かった。
「それでは、その場所に送りますね」
ビッキーは呪文を唱えようとするとエニシは彼女を誘った。
「ビッキーも行こうよ。皆もそこにいるんでしょう?」
「皆も?」
ルックは何をしようとしているのかエニシに聞こうとしたが、ナナミが話を続け、遮られた。
「ビッキーちゃんとルック君って魔法兵団仲間で3年前から仲が良いでしょう。それに、ビッキーちゃんも鏡の前に居ることが多いから、息抜きしなくっちゃ♪」
ルックは少し照れ臭く、何も言わずに下を向いていた。
「分かりました。テレポート失敗しないように頑張ります!!」
ビッキーがテレポートの呪文を唱えると、辺り一面に紫陽花が咲く美しい庭にたどり着いた。


「・・・ここは?」
ルックは紫陽花の美しさに言葉が出なかった。
「綺麗ですねー。もしかして最近、廃寺に行くのが多かったのは」
ビッキーは言葉を続けようとしたが、ナナミに口を塞がれ、進んでみようと促した。
「紫陽花の道を通ってみよう。みんな待っているよ♪」
しばらく、色とりどりの紫陽花を見ながら歩いていると、本堂が経っていた場所に赤いシートが敷いてある四角い椅子が多く置いてあった。
「よお。エニシにナナミにビッキー。随分と遅かったじゃねーか。そして、本日の主役も待ちくたびれたぜ」
「席に座って、ルック。ヨシノさんやカスミさんが野点の準備をしているから」
サスケとフッチに促され、ルックは状況が読めぬまま椅子に座った。ヨシノがお茶をたて、カスミが茶菓子を彼に配った。
「・・・これはいったい何?まだ戦は終わっていないのに祝い事?」
「むしろ、今日は戦を忘れて1日ゆっくり過ごしてよ、ルック。」
エニシは戸惑っているルックの背中を優しく叩いた。
「ルック君は戦争や遠征以外だといつも石板の番をしているでしょう。だから、紫陽花が綺麗な中で息抜きをしてほしいなーと思って。」
「・・・やめて欲しいな。僕は皆にこんなことをされるほど同盟軍に尽くしていないし・・・それに・・・。」
自分はお祝いされる立場ではないと言おうとしたが、
「おいおい。こんな日くらい素直になれって!!」
ルックが席を外そうとした瞬間、シーナが目の前に現れた。続いて、元解放軍のリーダー、リベラとその従者であるグレミオも一緒であった。どうやら、シーナが2人に協力してほしいと呼んだそうだ。
「ルック君。味に合うか分かりませんが、葛切りを作りましたよ。是非食べて欲しいです。」
グレミオが爽やかな笑顔で彼に葛切りを渡した。
「ルック、お誕生日おめでとう。僕からもお祝いしたい。君は昔から少々ひねくれているけど、皆ルックを大切な仲間だと思っている。エニシが皆を集いで廃寺を野点場所にした。どうか、今日この日を忘れないで欲しい。」
リベラも穏やかな表情でルックに諭した。
「・・・仕方がないな。王国軍との戦いの合間にこんな大掛かりなことをしてくれたんだから、今日1日は言うとおりにするよ。でも、今日は僕の誕生日という訳ではないからね」
「相変わらず素直じゃないなー。」
ルックは相変わらずの素っ気ない態度ながらも、周りの色とりどりの紫陽花を見ながら、少し頬を緩ませながら抹茶を飲んだり、茶菓子や葛切りを食べていた。
(この野点は5点満点のカード・・・・・だな)
優しく穏やかな風が吹き、紫陽花が静かに揺れていた。
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