restarrt! 番外編
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ガチャッガチャガチャ
「チッ、開かんか。……おい娘、起きろ」
「ん…」
「とっとと起きろ。さもないと蹴るぞ」
「うう…。……え?」
恐ろしい声がしてまぶたを開ける。仏頂面で見下ろす人物をみて、一瞬誰だか困惑した。だがこの目つきと口の悪さを認識するも否や頭に警報が鳴る。
「ほっホメロス…!?」
自分の口から出た名前に血の気が引いた。
助けを呼ぼうと辺りを見渡すが、他の仲間の気配はない。座ったまま自然と後ずさる。
「覚えていることを話せ」
「なんのことですか」
「ここに来るまでのこと全てだ」
「え……?貴方が連れてきたんじゃないんですか?」
「知らん。気づいたら貴様と一緒にここにいたのだ。なにも知らないならいい」
想定外の展開に唖然とした。真っ白な、生活感のない一室。なぜ、私が彼とこんなところに。
カミュが以前、ホメロスに対して「根に持つタイプだぜ」と言っていたことが頭に浮かんだ。しかしとうの本人は異常事態だからか、私への取り調べはやめて室内を散策している。悪魔の子本人ではないのもあるのか。それとも私のことは忘れているのか……。理由はなんであれ、不幸中の幸いとはこのことだろう。
落ち着きを取り戻しなんとか立ち上がろうとしたとき、身体の下からぐしゃりと音がきこえた。
「邪魔だ」
「え」
「下の無様な紙をみせろ」
いつの間に近くにきていたホメロスは、私を払う振りをする。まるで虫を払うかのようで自然と結んだ唇に力が入る。目線を落とすと、潰されてぐしゃぐしゃになった紙がみえた。流れるように素直に渡す。どうやら私が下敷きに寝ていたみたいだ。
素早く受け取った――というより奪った彼は冷めた目で紙を開く。その様子を伺ってると、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「くだらん」
身を翻し、一緒に宙を舞う紙。
なんて自由なんだ。喋っていないのに歯に空気が触れる。
おまけに彼が振り返ったとき、結われた長髪が私の顔を掠めた。位置がズレてたらもろに髪の毛ビンタをくらっていただろう。
気を取り直し、ついキャッチした紙を確認する。目を疑う短文が飛び込み声がひっくり返る。
「"膝枕をすれば鍵が開く"!?」
「忌々しい。誰がネズミに見下ろされろと」
「……私がされる側でもいいんじゃないでしょうか?」
「なぜ貴様に私の膝を貸さなきゃならない」
決まったような言い方に疑問を感じて返事をすると、ホメロスは横目で私を睨みつけた。以前冷酷な手段で追い詰められたことを思い出し、余計に怖気付く。そして口を開く度に放たれる棘は私のHPをじわじわ削っていく。
もし言われたのがカミュやベロニカだったら強く言い返していたのだろうな。戦闘力も精神力も足りない私にそんな勇気はなかった。同時に敵ながら彼の部下たちに同情した。
「――"ドルマ"」
そんな強者はドアに手を向けそう呟いた。瞳が乾く。カミュがイレブンを庇った時の映像がフラッシュバックしそうになる。
しかし、闇は放たれなかった。
不思議に思い慌てて紙をポケットにしまう。様子を見に行くとふいに声がかかった。
「おい。攻撃魔法は使えるか?」
「!はい」
「ならドアを壊したまえ」
「…わかりました。"イオラ"!」
「なっ…!」
時が止まった。イオラも不発だ。
斜め後ろから声が尖る。
「範囲が広い!発動してたらこちらも爆発に巻き込まれていただろう…!」
「すみません、私これしか攻撃魔法使えなくて」
「フン、不便極まりないな」
「ホメロス…さんは他に手はありますか?」
「この調子だと呪文は全て封じられているだろう。それに、ザコ一匹とはいえ私は手の内を明かさんぞ」
「……!!」
辛辣だが正論。自ら墓穴を掘ってしまったことに泣きそうになった。相手は"知略のホメロス"とか言われている者。これは早急に別の攻撃魔法も覚えなければ対策をされてしまう。
別の手がかりもなく、ホメロスがイライラしているのを肌で感じた。出るためにも、真剣に話し合わないといけない。
「あの」と声をかける。返事がなく、もう一度呼んで仕方なく彼が顔を向けた。瞬間、違和感を覚える。
ーー彼の瞳が赤い。
驚いて目を凝らす。しかし数秒だけだったのか、既にブロンドの髪とお揃いの瞳に戻っていた。
見間違いだろうか。
「なんだ」
「お互い一刻も早く出たいですよね。やっぱり、膝枕、試してみませんか?」
眉がぴくりと動き、「ホメロスさんの好きなほうで大丈夫です。一瞬で終わらせましょう?」と追撃をする。途中声を震わせたが、なんとか平然を繕った。
先ほどは流されたものの、武器もないうえに魔法も使えないのでは、いくら"双頭の鷲"の一人でもどうしようもないだろう。この嫌悪感のむき出しようをみるに、彼も巻き込まれたようなのだし。大丈夫。
空気が震えるほどの長い沈黙を乗り越えたとき、ホメロスは正座をし始めた。
「…早くしろ」
「ありがとうございます…!」
拒絶されなかったことに激しく安堵した。彼は相変わらずの仏頂面で己の膝を叩く。寝転がる側はさすがにプライドが許さなかったのか。とにかく無事許しを得たのでそそくさと近くに座った。
以前みた、戦に赴くような鎧ではなく上品な私服。私の頭部は無事に済みそうだ。
「失礼します…」
気まずいのでお腹に背を向け、視界に部屋が広がるように寝転がる。ホメロスが見えないのも不安だが、寝そべり彼を見上げるほうが心臓に悪いと考えた。
細身だと思ったがやはり軍人。太ももはきっちり鍛えられていてかたい。そもそも膝枕の経験がないので比べようもないのだが。
「長い」
「グエッ」
「フッ…随分間抜けな声だな」
まさかのまさか転がされるとは思わなかった。たしかに私がのろかった。一瞬と一秒は違う。とはいえレディーに対して無遠慮に退かすとは。最初に目が覚めた時も「蹴るぞ」とかきこえた気もするし、よく言えば男女平等に扱っているのか。いや性別関係なく生き物にすることじゃないよ。
ホメロスは嘲笑して立ち上がる。一応機嫌は損ねていないようにみえた。威圧的だが整っている顔に、女性に人気だという噂を思い出した。頭が良い人が魅力的なのはわかる。
少し緊張が解けてそんなことを考えていると、彼は続けて恐ろしいことを口にした。
「このあと貴様を人質に、悪魔の子をおびき出すことも考えた」
「私のこと、覚えてたんですね」
「当たり前だろう。貴様のバカ正直なところは、奴を思い出してイライラしたからな」
つんとした表情とその口ぶりから一つ疑惑が浮かぶ。
もしかして私、誰かの巻き添えで罵倒されていたのでは…。
何かしてくるかと身構えたが彼の雰囲気が変わる。
「その癖、悔しそうに歪む顔はまるで…」
「まるで…?」
「………チッ。お前のせいで話が逸れた。とにかく。私は優先することがある」
「……え?」
「アカリとやら。次に会う時は良いように使ってやろう。その時までせいぜい怯えて過ごすがいい」
いつの間にかドアは開いていた。ホメロスは少し覗かせたほの暗い表情をなかったかのように前髪を流して奥へ消える。
まさか、見逃してくれた?
そんなこと言って向こうで待ち伏せているんじゃないか。警戒しつつ進むと、広がるのは不思議な空間だけ。
踏み入れた途端眩しい光に包まれた。目覚めたときには見たことのある天井。隣のベッドをみると、マルティナが寝ていた。
なんて、最悪な夢……。
ぐしゃり。
何か潰れた音にはきこえないふりをした。
「チッ、開かんか。……おい娘、起きろ」
「ん…」
「とっとと起きろ。さもないと蹴るぞ」
「うう…。……え?」
恐ろしい声がしてまぶたを開ける。仏頂面で見下ろす人物をみて、一瞬誰だか困惑した。だがこの目つきと口の悪さを認識するも否や頭に警報が鳴る。
「ほっホメロス…!?」
自分の口から出た名前に血の気が引いた。
助けを呼ぼうと辺りを見渡すが、他の仲間の気配はない。座ったまま自然と後ずさる。
「覚えていることを話せ」
「なんのことですか」
「ここに来るまでのこと全てだ」
「え……?貴方が連れてきたんじゃないんですか?」
「知らん。気づいたら貴様と一緒にここにいたのだ。なにも知らないならいい」
想定外の展開に唖然とした。真っ白な、生活感のない一室。なぜ、私が彼とこんなところに。
カミュが以前、ホメロスに対して「根に持つタイプだぜ」と言っていたことが頭に浮かんだ。しかしとうの本人は異常事態だからか、私への取り調べはやめて室内を散策している。悪魔の子本人ではないのもあるのか。それとも私のことは忘れているのか……。理由はなんであれ、不幸中の幸いとはこのことだろう。
落ち着きを取り戻しなんとか立ち上がろうとしたとき、身体の下からぐしゃりと音がきこえた。
「邪魔だ」
「え」
「下の無様な紙をみせろ」
いつの間に近くにきていたホメロスは、私を払う振りをする。まるで虫を払うかのようで自然と結んだ唇に力が入る。目線を落とすと、潰されてぐしゃぐしゃになった紙がみえた。流れるように素直に渡す。どうやら私が下敷きに寝ていたみたいだ。
素早く受け取った――というより奪った彼は冷めた目で紙を開く。その様子を伺ってると、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「くだらん」
身を翻し、一緒に宙を舞う紙。
なんて自由なんだ。喋っていないのに歯に空気が触れる。
おまけに彼が振り返ったとき、結われた長髪が私の顔を掠めた。位置がズレてたらもろに髪の毛ビンタをくらっていただろう。
気を取り直し、ついキャッチした紙を確認する。目を疑う短文が飛び込み声がひっくり返る。
「"膝枕をすれば鍵が開く"!?」
「忌々しい。誰がネズミに見下ろされろと」
「……私がされる側でもいいんじゃないでしょうか?」
「なぜ貴様に私の膝を貸さなきゃならない」
決まったような言い方に疑問を感じて返事をすると、ホメロスは横目で私を睨みつけた。以前冷酷な手段で追い詰められたことを思い出し、余計に怖気付く。そして口を開く度に放たれる棘は私のHPをじわじわ削っていく。
もし言われたのがカミュやベロニカだったら強く言い返していたのだろうな。戦闘力も精神力も足りない私にそんな勇気はなかった。同時に敵ながら彼の部下たちに同情した。
「――"ドルマ"」
そんな強者はドアに手を向けそう呟いた。瞳が乾く。カミュがイレブンを庇った時の映像がフラッシュバックしそうになる。
しかし、闇は放たれなかった。
不思議に思い慌てて紙をポケットにしまう。様子を見に行くとふいに声がかかった。
「おい。攻撃魔法は使えるか?」
「!はい」
「ならドアを壊したまえ」
「…わかりました。"イオラ"!」
「なっ…!」
時が止まった。イオラも不発だ。
斜め後ろから声が尖る。
「範囲が広い!発動してたらこちらも爆発に巻き込まれていただろう…!」
「すみません、私これしか攻撃魔法使えなくて」
「フン、不便極まりないな」
「ホメロス…さんは他に手はありますか?」
「この調子だと呪文は全て封じられているだろう。それに、ザコ一匹とはいえ私は手の内を明かさんぞ」
「……!!」
辛辣だが正論。自ら墓穴を掘ってしまったことに泣きそうになった。相手は"知略のホメロス"とか言われている者。これは早急に別の攻撃魔法も覚えなければ対策をされてしまう。
別の手がかりもなく、ホメロスがイライラしているのを肌で感じた。出るためにも、真剣に話し合わないといけない。
「あの」と声をかける。返事がなく、もう一度呼んで仕方なく彼が顔を向けた。瞬間、違和感を覚える。
ーー彼の瞳が赤い。
驚いて目を凝らす。しかし数秒だけだったのか、既にブロンドの髪とお揃いの瞳に戻っていた。
見間違いだろうか。
「なんだ」
「お互い一刻も早く出たいですよね。やっぱり、膝枕、試してみませんか?」
眉がぴくりと動き、「ホメロスさんの好きなほうで大丈夫です。一瞬で終わらせましょう?」と追撃をする。途中声を震わせたが、なんとか平然を繕った。
先ほどは流されたものの、武器もないうえに魔法も使えないのでは、いくら"双頭の鷲"の一人でもどうしようもないだろう。この嫌悪感のむき出しようをみるに、彼も巻き込まれたようなのだし。大丈夫。
空気が震えるほどの長い沈黙を乗り越えたとき、ホメロスは正座をし始めた。
「…早くしろ」
「ありがとうございます…!」
拒絶されなかったことに激しく安堵した。彼は相変わらずの仏頂面で己の膝を叩く。寝転がる側はさすがにプライドが許さなかったのか。とにかく無事許しを得たのでそそくさと近くに座った。
以前みた、戦に赴くような鎧ではなく上品な私服。私の頭部は無事に済みそうだ。
「失礼します…」
気まずいのでお腹に背を向け、視界に部屋が広がるように寝転がる。ホメロスが見えないのも不安だが、寝そべり彼を見上げるほうが心臓に悪いと考えた。
細身だと思ったがやはり軍人。太ももはきっちり鍛えられていてかたい。そもそも膝枕の経験がないので比べようもないのだが。
「長い」
「グエッ」
「フッ…随分間抜けな声だな」
まさかのまさか転がされるとは思わなかった。たしかに私がのろかった。一瞬と一秒は違う。とはいえレディーに対して無遠慮に退かすとは。最初に目が覚めた時も「蹴るぞ」とかきこえた気もするし、よく言えば男女平等に扱っているのか。いや性別関係なく生き物にすることじゃないよ。
ホメロスは嘲笑して立ち上がる。一応機嫌は損ねていないようにみえた。威圧的だが整っている顔に、女性に人気だという噂を思い出した。頭が良い人が魅力的なのはわかる。
少し緊張が解けてそんなことを考えていると、彼は続けて恐ろしいことを口にした。
「このあと貴様を人質に、悪魔の子をおびき出すことも考えた」
「私のこと、覚えてたんですね」
「当たり前だろう。貴様のバカ正直なところは、奴を思い出してイライラしたからな」
つんとした表情とその口ぶりから一つ疑惑が浮かぶ。
もしかして私、誰かの巻き添えで罵倒されていたのでは…。
何かしてくるかと身構えたが彼の雰囲気が変わる。
「その癖、悔しそうに歪む顔はまるで…」
「まるで…?」
「………チッ。お前のせいで話が逸れた。とにかく。私は優先することがある」
「……え?」
「アカリとやら。次に会う時は良いように使ってやろう。その時までせいぜい怯えて過ごすがいい」
いつの間にかドアは開いていた。ホメロスは少し覗かせたほの暗い表情をなかったかのように前髪を流して奥へ消える。
まさか、見逃してくれた?
そんなこと言って向こうで待ち伏せているんじゃないか。警戒しつつ進むと、広がるのは不思議な空間だけ。
踏み入れた途端眩しい光に包まれた。目覚めたときには見たことのある天井。隣のベッドをみると、マルティナが寝ていた。
なんて、最悪な夢……。
ぐしゃり。
何か潰れた音にはきこえないふりをした。