restarrt!
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『オレのことはかまうんじゃない。お前達だけでも逃げるんだ!』
勇者を"悪魔の子"と追うデルカダールの一将軍、ホメロス。あの野郎の闇魔法をくらって倒れたオレは、語尾を強めてなんとか回復を試みる彼女の手を弾いた。
そのときの悲痛な面持ちといったら――
船の上、隣の彼女をなだめながら数時間前の出来事を思い出した。追っ手から無事に逃げ、やっと一息ついたオレたちを優しく風が撫ぜる。しばらくすると、蚊の鳴くような声でオレの名前が呼ばれた。
「大丈夫か?」
「ありがとね。ちょっと落ち着いた」
恥ずかしいのか、遠慮がちにこちらをみる目元は今も赤い。
…初めてアカリの泣き顔をみた。
正確にはオレに涙をみせたのが、だ。アカリを仲間にした当初のこと。慣れない環境に不安が尽きなかったのだろう。たまたまみた寝顔に涙を流した跡がついていたのを、オレとイレブンは知っている。
「私ね、覚悟が足りなかったんだ」
海をみつめる彼女の髪が揺れた。
「人間相手に戦うことなんて、心のどこかでまだ先のことだと思ってたの。…グレイグって人にも追いかけられたのにね」
「まあ、あれは逃げるしかなかったからな。アカリはここより平和なとこで育ったんだろ?なら無理はねえよ」
「ありがとう。それでもやっぱ、いざとなったら腹をくくれるもんなんだね。泣いたらスッキリしたし」
普段通り明るく努めようと、彼女ははにかんだ。
そうだ。オレは縛られたまま傍観することしかできなかったが、アカリはあの戦いの中で今までと違う、どこか吹っ切れたような雰囲気を感じた。まるで急成長したような気迫。そのおかげで今まで狙っても発動しなかった攻撃魔法が成功したのかもしれない。
命まで奪っていないとはいえ、同じ人間を傷つけることはこわかったはずだ。それなのにあの彼女の心境の変化。
――オレのために、あんなに?
思わず湧いた柄にもない疑問。途端に羞恥を覚えて頭をかいた。
「だから、これからは大丈夫」
彼女はオレの様子など気にもせず、真っ直ぐな凛とした微笑みを向ける。その瞳に吸い込まれそうで息を飲んだ。
本当に?無理してないか?
そう口にしたかった言葉は視界にとらえたものにより変わる。
「あぶねえ!」
同時に船が揺れて咄嗟にアカリに被さった。
魔物の群れがあらわれたのだ。航行中も出るとは知っていたがこんなタイミングで。
「ちっ。ヴァイパー…」
「"イオラ"!!」
"ヴァイパーファング"を繰り出そうとした途端、背中からワントーン低い声で呪文が唱えられて立ち止まる。
凄まじい爆発に唖然としていると、騒動に気づいた仲間たちが船内から出動。拍子抜けするほどの光の速さで一掃された。
いや、すげえな。
感心していると髪の毛が踊るような勢いで呪文の主が振り返る。
「カミュ!また呪文成功したよ…!」
「よ、よかったな」
不機嫌そうな雰囲気はどこへやら、目をキラキラさせるアカリ。ちょっとどもったオレに嬉しそうに返事をしては別の人物の元へ駆けていく。
「ベロニカ!イオラ安定した!」
「みたいね、よかっ…、ちょっと!顔真っ赤じゃない!」
とりあえず目元冷やすわよ!と、ベロニカに引っ張られるアカリをボーッと船内まで見届ける。
「カミュ?」
疲れが溜まっているのか。
呼吸の仕方を忘れてしまった。
「大丈夫?」
サラリと流れた茶色にピントが合う。数秒後、イレブンに覗き込まれていたことがわかり心臓がバウンドした。
「……わり、忘れてくれ」
イレブンの顔を確認せずに後ろ手を振る。まさかみられていたとは。
かっこ悪い。こんな締まりのない表情、最悪だ。頬が余計に熱くなる。
『無事で、よかった』
あのとき縄を解いてくれた彼女は安心したように綻んだ。
その潤んだ瞳も、凛とした眼差しも、花が咲いたような笑みも。まるで探し求めていた宝石を発見したかのような感覚。
ふと視線を逸らすと海がみえた。
遠く、空と交わる色が自分を戒める。
――忘れてなんかないさ。
オレだけが幸せに手を伸ばすなんてこと、許されないだろ。
震えた手で鍵を閉める。
今まで通り、兄貴分でいるだけ。ただ、それだけだ。
勇者を"悪魔の子"と追うデルカダールの一将軍、ホメロス。あの野郎の闇魔法をくらって倒れたオレは、語尾を強めてなんとか回復を試みる彼女の手を弾いた。
そのときの悲痛な面持ちといったら――
船の上、隣の彼女をなだめながら数時間前の出来事を思い出した。追っ手から無事に逃げ、やっと一息ついたオレたちを優しく風が撫ぜる。しばらくすると、蚊の鳴くような声でオレの名前が呼ばれた。
「大丈夫か?」
「ありがとね。ちょっと落ち着いた」
恥ずかしいのか、遠慮がちにこちらをみる目元は今も赤い。
…初めてアカリの泣き顔をみた。
正確にはオレに涙をみせたのが、だ。アカリを仲間にした当初のこと。慣れない環境に不安が尽きなかったのだろう。たまたまみた寝顔に涙を流した跡がついていたのを、オレとイレブンは知っている。
「私ね、覚悟が足りなかったんだ」
海をみつめる彼女の髪が揺れた。
「人間相手に戦うことなんて、心のどこかでまだ先のことだと思ってたの。…グレイグって人にも追いかけられたのにね」
「まあ、あれは逃げるしかなかったからな。アカリはここより平和なとこで育ったんだろ?なら無理はねえよ」
「ありがとう。それでもやっぱ、いざとなったら腹をくくれるもんなんだね。泣いたらスッキリしたし」
普段通り明るく努めようと、彼女ははにかんだ。
そうだ。オレは縛られたまま傍観することしかできなかったが、アカリはあの戦いの中で今までと違う、どこか吹っ切れたような雰囲気を感じた。まるで急成長したような気迫。そのおかげで今まで狙っても発動しなかった攻撃魔法が成功したのかもしれない。
命まで奪っていないとはいえ、同じ人間を傷つけることはこわかったはずだ。それなのにあの彼女の心境の変化。
――オレのために、あんなに?
思わず湧いた柄にもない疑問。途端に羞恥を覚えて頭をかいた。
「だから、これからは大丈夫」
彼女はオレの様子など気にもせず、真っ直ぐな凛とした微笑みを向ける。その瞳に吸い込まれそうで息を飲んだ。
本当に?無理してないか?
そう口にしたかった言葉は視界にとらえたものにより変わる。
「あぶねえ!」
同時に船が揺れて咄嗟にアカリに被さった。
魔物の群れがあらわれたのだ。航行中も出るとは知っていたがこんなタイミングで。
「ちっ。ヴァイパー…」
「"イオラ"!!」
"ヴァイパーファング"を繰り出そうとした途端、背中からワントーン低い声で呪文が唱えられて立ち止まる。
凄まじい爆発に唖然としていると、騒動に気づいた仲間たちが船内から出動。拍子抜けするほどの光の速さで一掃された。
いや、すげえな。
感心していると髪の毛が踊るような勢いで呪文の主が振り返る。
「カミュ!また呪文成功したよ…!」
「よ、よかったな」
不機嫌そうな雰囲気はどこへやら、目をキラキラさせるアカリ。ちょっとどもったオレに嬉しそうに返事をしては別の人物の元へ駆けていく。
「ベロニカ!イオラ安定した!」
「みたいね、よかっ…、ちょっと!顔真っ赤じゃない!」
とりあえず目元冷やすわよ!と、ベロニカに引っ張られるアカリをボーッと船内まで見届ける。
「カミュ?」
疲れが溜まっているのか。
呼吸の仕方を忘れてしまった。
「大丈夫?」
サラリと流れた茶色にピントが合う。数秒後、イレブンに覗き込まれていたことがわかり心臓がバウンドした。
「……わり、忘れてくれ」
イレブンの顔を確認せずに後ろ手を振る。まさかみられていたとは。
かっこ悪い。こんな締まりのない表情、最悪だ。頬が余計に熱くなる。
『無事で、よかった』
あのとき縄を解いてくれた彼女は安心したように綻んだ。
その潤んだ瞳も、凛とした眼差しも、花が咲いたような笑みも。まるで探し求めていた宝石を発見したかのような感覚。
ふと視線を逸らすと海がみえた。
遠く、空と交わる色が自分を戒める。
――忘れてなんかないさ。
オレだけが幸せに手を伸ばすなんてこと、許されないだろ。
震えた手で鍵を閉める。
今まで通り、兄貴分でいるだけ。ただ、それだけだ。