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『勇者の力になれ。さすれば道は開けるだろう』
湿った空気の中、意識が浮上する。今日も世界が始まってしまう。
今は何時だ?とスマホを手探るがどうも見当たらない。ぼうっと寝返りをする途中、感触に違和感を覚える。おかしいと目を開けると、薄暗い森林が広がった。
個人的あるある。「これは夢の中だ」と自覚しているときがある。
――つまり、今である。
先程まで私は知らない女性と釣りをしていた。…ということは、夢の中で夢をみていたことになる。そのときは無意識に現実だと思っていたのだけれど。なにかを真剣に話していた気もするが、内容は思い出せない。
地面に座ったままなのもどうかと思い、とりあえず立ち上がった。
「おまエ」
土を払い歩き出そうとすると、奇妙な声を拾った。話しかけられたのかと振り返るが、切り株が傍にあるだけ。
たしかに、さっきまではなかった。
「いやな力を感じるナ」
「…!!」
言葉をきいた刹那、切り株からボクシングの如く枝が伸ばされた。
何が起こったのかわからずも危険信号が鳴り飛び退く。重傷には至らなかったが腕に鋭い痛みが走った。戦慄しつつ相手を確認すると、情けない声が漏れる。
人面木。そう、切り株には恐ろしい顔がついていた。
「養分よこセ」
「ひっ…!!」
腰が抜けそうになりながら反射的に逃走した私。恐怖で後ろを向くと奴は根っこを足のように使い追ってくる。
こいつ、喋るだけじゃなくて走れるの…!?口から心臓が発射しそうだ。
土地勘もないまま慌てて進む。息が切れそうだが立ち止まることは許されない。
私は透明人間、私は透明人間…!必死に願う。夢の中で逃げているときは、経験上こういった自己暗示はよく成功する。でも謎の切り株はターゲットを見失っていない。
「痛っ!」
途端、脚に熱を感じて倒れ込む身体。各所のじわりとした痛みにもう受け入れるしかないと悟った。
――ああこれは現実なんだ。
「なんで…」
「養分よこセ」
「やっやだよ……」
「よこせェェエ!」
「っこないで……!!」
絶体絶命を覚悟した瞬間、風が舞った。
同時に、襲ってくるはずの化け物の唸り声がきこえる。痛みは一切降り掛かってこない。
恐る恐る目を開けると、きれいな空色が揺れた。視界の隅で、化け物らしき姿は消失したようにみえた。
「危なかったな」
ナイフを納めながら青年が振り返る。「大丈夫か?」という彼を見上げて、少しの間、息が止まった。
宝石みたいにきれいな人――
次々とやってくる非日常に、なんとか首を動かすことしかできない私。彼は状態を確認するように目線を合わせてくれた。
助けてくれたんだ…。
空色のツンツン頭と海を閉じ込めたような瞳に、思わず吸い込まれてしまう。先ほどの恐怖体験を洗い流してくれるようで、全身の力が抜けた。
「カミュ!」
そんな中、誰かが駆けてくる音がして我に返る。声がしたほうに視線をやると、ボブヘアーを揺らした少年が慌てて近づいてきた。
「イレブン、ナイスタイミングだ。こいつを回復してやってくれ」
イレブンと呼ばれた茶髪の少年は私をみる。一瞬だけ凛々しい眉毛を下げ悲しそうな顔をしたが、安心させるように微笑んでくれた。
「もう大丈夫だよ。"ホイミ"!」
彼が聞き慣れない単語を呟いた時、柔らかな緑がやさしく私を包みこんだ。怪我で見るに堪えなくなっていた身体は、信じられないほどにきれいになっていく。
あったはずの切り傷を触り「うそ……」と声がもれた。傷や打撲は巻き戻したように消えて、痛みも感じなくなるなんて。
「まほう…魔法が使えるんですか!?」
「うん。さすがに破れた服は戻せないけどね」
絶句。驚きのあまり詰め寄ると穏やかに肯定された。
そういえばカミュと呼ばれた宝石の青年も"回復"と言っていたような。
その彼に目を向けると「顔…、拭いたほうがいいな」と逸らされた。一瞬ぽかんとしてしまったが、美しい彼らに見苦しい顔をみせていたということがわかり、高速で俯く。直ぐに手のベタつきは増した。
「あの、助けてくださり、ありがとうございました。おふたりは命の恩人です……!」
「別に大したことじゃねえよ」
「そうそう、無事でよかった。カミュもよく気づいたね」
「なにか聞こえた気がしてな」
立ち上がり頭を下げると、当たり前だというように軽く返事をされた。
この世は捨てたもんじゃない。なんて善人なんだろうかと胸が温かくなる。
そして再度俯く。お辞儀をしたとき、はじめてボロボロになった服に気づいた。ああいう場面はわかっていても動けなくなることが多いと思うのに、我ながらよく飛び退いたと思う。もし反応が遅れていたら……。生きているのが奇跡だと実感する。
「あの…さっきのは一体…」
「!?おいイレブン!手…!」
「あれ、なんで光ってるんだろう」
急に大きな声を出したカミュさんの言葉に、イレブンさんは自身の手をみつめる。手の甲の不思議な模様が光っているようだ。するとカミュさんがふとこちらをみてギョッとする。
「お前身体どうしたんだ!?」
「え?」
「もしかして、僕の痣に反応してる…?」
なんだと思い己を確認しては叫びそうになった。なんと私の身体は、電気でも食べたかのように指先から足先まで発光している。
え、私、消えるの?
「あ、消えた」
「マジか…。これも勇者の力だったりするのか…?」
イレブンさんの模様のような痣と同じタイミングで、私を包む光はフェードアウトした。
――"ゆうしゃ"?
その言葉をきいて、勢いよく記憶がなだれ込む。
『勇者の力になれ。さすれば道は開けるだろう』
『ああ。結果的に、お主は選ばれたということになる』
『いかん、時間じゃな。わしが力になれるのは"これ"くらい。』
『誰なのかって?わしは――』
「…、預言…者……」
「おい!今預言者って言ったのか!?」
触れられた額を押さえ無意識に復唱すると、意外にもカミュさんが食いついた。
「ええっ?はい、夢の中で会って…」
「なに!?なあそいつ男だったか?」
「いえ女性です、青い髪の」
よほど大事なことなのか両肩を押さえられた。近い近いとパニックになり答え続ける。
「そうか…。他になにか言われたりしたか?」
「ええと、ゆうしゃの力になれば道は開く…?と…」
最後答えると、弾かれたように顔を見合わせた2人。これは…
「もしかして、イレブンさんがゆうしゃ…?」
「うん。僕、勇者なんだ」
イレブンさんは自身の血液型を答えるかのようにさらりと言った。ゆうしゃ、とは?何を示すのかはよくわからないけど、先ほどの光が特別だということはわかる。
「…なあ、なんで丸腰でこんなところにいたんだ?」
「………わかりません…」
「君、名前は?」
カミュさんの問いに困っているとイレブンさんから声がかかる。
「アカリ、です」
「アカリ。よかったら、僕たちと一緒にきてほしいな」
「え…」
「…そうだな。オレたちにとっても、お前と行動したほうがいい気がする。このまま置いていくのも危ないしな」
まさか彼らから誘ってくれるとは。発光と預言者の件が良い方向に作用したのか。私としても"ゆうしゃ"と行動するしか道はない。
だが一つ気がかりなことがあり、あの…と声をかける。
「さっき、なんで丸腰で?って言いましたよね。私、武器とか持ったことないです。さっきみたいな化け物が出ても、石投げるくらいしか…」
これだ。切り株から逃げる途中にも、みたことのない生き物を何匹かみた。現在すべてが訳分からないのに、着いていくことでプラスよりマイナスのほうが大きいことは確実にわかる。
「マジか!?…まあ、それならオレたちでフォローする」
「うん、2人でアカリのこと守るよ。だから安心して」
なんて心の広い方たちなんだろうか。ゆうしゃの"ゆう"は優しいの"優"なのかもしれない。はっきり目をみて答える彼らに後光が差した。
「ありがとうございます!よろしくお願いします…!」
こうして勇者イレブンとカミュ、そして何もわからない私の旅が始まった。
"悪魔の子"などと追われ、この世界でも理不尽と戦うことになるとはまだ知らず。そして人生が大きく変わることも思いもせず、眩しい彼らについていくのであった。
湿った空気の中、意識が浮上する。今日も世界が始まってしまう。
今は何時だ?とスマホを手探るがどうも見当たらない。ぼうっと寝返りをする途中、感触に違和感を覚える。おかしいと目を開けると、薄暗い森林が広がった。
個人的あるある。「これは夢の中だ」と自覚しているときがある。
――つまり、今である。
先程まで私は知らない女性と釣りをしていた。…ということは、夢の中で夢をみていたことになる。そのときは無意識に現実だと思っていたのだけれど。なにかを真剣に話していた気もするが、内容は思い出せない。
地面に座ったままなのもどうかと思い、とりあえず立ち上がった。
「おまエ」
土を払い歩き出そうとすると、奇妙な声を拾った。話しかけられたのかと振り返るが、切り株が傍にあるだけ。
たしかに、さっきまではなかった。
「いやな力を感じるナ」
「…!!」
言葉をきいた刹那、切り株からボクシングの如く枝が伸ばされた。
何が起こったのかわからずも危険信号が鳴り飛び退く。重傷には至らなかったが腕に鋭い痛みが走った。戦慄しつつ相手を確認すると、情けない声が漏れる。
人面木。そう、切り株には恐ろしい顔がついていた。
「養分よこセ」
「ひっ…!!」
腰が抜けそうになりながら反射的に逃走した私。恐怖で後ろを向くと奴は根っこを足のように使い追ってくる。
こいつ、喋るだけじゃなくて走れるの…!?口から心臓が発射しそうだ。
土地勘もないまま慌てて進む。息が切れそうだが立ち止まることは許されない。
私は透明人間、私は透明人間…!必死に願う。夢の中で逃げているときは、経験上こういった自己暗示はよく成功する。でも謎の切り株はターゲットを見失っていない。
「痛っ!」
途端、脚に熱を感じて倒れ込む身体。各所のじわりとした痛みにもう受け入れるしかないと悟った。
――ああこれは現実なんだ。
「なんで…」
「養分よこセ」
「やっやだよ……」
「よこせェェエ!」
「っこないで……!!」
絶体絶命を覚悟した瞬間、風が舞った。
同時に、襲ってくるはずの化け物の唸り声がきこえる。痛みは一切降り掛かってこない。
恐る恐る目を開けると、きれいな空色が揺れた。視界の隅で、化け物らしき姿は消失したようにみえた。
「危なかったな」
ナイフを納めながら青年が振り返る。「大丈夫か?」という彼を見上げて、少しの間、息が止まった。
宝石みたいにきれいな人――
次々とやってくる非日常に、なんとか首を動かすことしかできない私。彼は状態を確認するように目線を合わせてくれた。
助けてくれたんだ…。
空色のツンツン頭と海を閉じ込めたような瞳に、思わず吸い込まれてしまう。先ほどの恐怖体験を洗い流してくれるようで、全身の力が抜けた。
「カミュ!」
そんな中、誰かが駆けてくる音がして我に返る。声がしたほうに視線をやると、ボブヘアーを揺らした少年が慌てて近づいてきた。
「イレブン、ナイスタイミングだ。こいつを回復してやってくれ」
イレブンと呼ばれた茶髪の少年は私をみる。一瞬だけ凛々しい眉毛を下げ悲しそうな顔をしたが、安心させるように微笑んでくれた。
「もう大丈夫だよ。"ホイミ"!」
彼が聞き慣れない単語を呟いた時、柔らかな緑がやさしく私を包みこんだ。怪我で見るに堪えなくなっていた身体は、信じられないほどにきれいになっていく。
あったはずの切り傷を触り「うそ……」と声がもれた。傷や打撲は巻き戻したように消えて、痛みも感じなくなるなんて。
「まほう…魔法が使えるんですか!?」
「うん。さすがに破れた服は戻せないけどね」
絶句。驚きのあまり詰め寄ると穏やかに肯定された。
そういえばカミュと呼ばれた宝石の青年も"回復"と言っていたような。
その彼に目を向けると「顔…、拭いたほうがいいな」と逸らされた。一瞬ぽかんとしてしまったが、美しい彼らに見苦しい顔をみせていたということがわかり、高速で俯く。直ぐに手のベタつきは増した。
「あの、助けてくださり、ありがとうございました。おふたりは命の恩人です……!」
「別に大したことじゃねえよ」
「そうそう、無事でよかった。カミュもよく気づいたね」
「なにか聞こえた気がしてな」
立ち上がり頭を下げると、当たり前だというように軽く返事をされた。
この世は捨てたもんじゃない。なんて善人なんだろうかと胸が温かくなる。
そして再度俯く。お辞儀をしたとき、はじめてボロボロになった服に気づいた。ああいう場面はわかっていても動けなくなることが多いと思うのに、我ながらよく飛び退いたと思う。もし反応が遅れていたら……。生きているのが奇跡だと実感する。
「あの…さっきのは一体…」
「!?おいイレブン!手…!」
「あれ、なんで光ってるんだろう」
急に大きな声を出したカミュさんの言葉に、イレブンさんは自身の手をみつめる。手の甲の不思議な模様が光っているようだ。するとカミュさんがふとこちらをみてギョッとする。
「お前身体どうしたんだ!?」
「え?」
「もしかして、僕の痣に反応してる…?」
なんだと思い己を確認しては叫びそうになった。なんと私の身体は、電気でも食べたかのように指先から足先まで発光している。
え、私、消えるの?
「あ、消えた」
「マジか…。これも勇者の力だったりするのか…?」
イレブンさんの模様のような痣と同じタイミングで、私を包む光はフェードアウトした。
――"ゆうしゃ"?
その言葉をきいて、勢いよく記憶がなだれ込む。
『勇者の力になれ。さすれば道は開けるだろう』
『ああ。結果的に、お主は選ばれたということになる』
『いかん、時間じゃな。わしが力になれるのは"これ"くらい。』
『誰なのかって?わしは――』
「…、預言…者……」
「おい!今預言者って言ったのか!?」
触れられた額を押さえ無意識に復唱すると、意外にもカミュさんが食いついた。
「ええっ?はい、夢の中で会って…」
「なに!?なあそいつ男だったか?」
「いえ女性です、青い髪の」
よほど大事なことなのか両肩を押さえられた。近い近いとパニックになり答え続ける。
「そうか…。他になにか言われたりしたか?」
「ええと、ゆうしゃの力になれば道は開く…?と…」
最後答えると、弾かれたように顔を見合わせた2人。これは…
「もしかして、イレブンさんがゆうしゃ…?」
「うん。僕、勇者なんだ」
イレブンさんは自身の血液型を答えるかのようにさらりと言った。ゆうしゃ、とは?何を示すのかはよくわからないけど、先ほどの光が特別だということはわかる。
「…なあ、なんで丸腰でこんなところにいたんだ?」
「………わかりません…」
「君、名前は?」
カミュさんの問いに困っているとイレブンさんから声がかかる。
「アカリ、です」
「アカリ。よかったら、僕たちと一緒にきてほしいな」
「え…」
「…そうだな。オレたちにとっても、お前と行動したほうがいい気がする。このまま置いていくのも危ないしな」
まさか彼らから誘ってくれるとは。発光と預言者の件が良い方向に作用したのか。私としても"ゆうしゃ"と行動するしか道はない。
だが一つ気がかりなことがあり、あの…と声をかける。
「さっき、なんで丸腰で?って言いましたよね。私、武器とか持ったことないです。さっきみたいな化け物が出ても、石投げるくらいしか…」
これだ。切り株から逃げる途中にも、みたことのない生き物を何匹かみた。現在すべてが訳分からないのに、着いていくことでプラスよりマイナスのほうが大きいことは確実にわかる。
「マジか!?…まあ、それならオレたちでフォローする」
「うん、2人でアカリのこと守るよ。だから安心して」
なんて心の広い方たちなんだろうか。ゆうしゃの"ゆう"は優しいの"優"なのかもしれない。はっきり目をみて答える彼らに後光が差した。
「ありがとうございます!よろしくお願いします…!」
こうして勇者イレブンとカミュ、そして何もわからない私の旅が始まった。
"悪魔の子"などと追われ、この世界でも理不尽と戦うことになるとはまだ知らず。そして人生が大きく変わることも思いもせず、眩しい彼らについていくのであった。