「三人目」の天女様
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文次郎が、同年代であろう女子が泣いているのを見て動揺しなかったと言えば嘘になる。
しかし、仲間の前で威勢を張ってしまった手前、忍者としての振る舞いを変えるわけにはいかなかった。
「天女様、起きてください。」
返事は無い、多分こちらには気づいただろうが。
「天女様、あなたを忍術学園で保護させてもらいます。」
ようやく目を開け、こっちを見る。
「あの、……天女様っていうのは私のことですか?」
「それ以外に誰がいるんですか、立てますか?忍術学園にご案内します。」
ゆっくりと天女は起き上がり、切れている口を動かした。
「すみません、学校の敷地内だと思わず。……直ぐに帰りますので保護して頂かなくて結構です。起こしてくださりありがとうございました。」
そう言って立ち去ろうとするのだが、全身に怪我を負っているのか、天女は立ち上がることが難しいらしく、近くにあった木を柱にしてゆっくりとした動きでようやく立ち上がり、歩を進めようとした。
『おい、忍術学園にも天女にも反応しなかったしなんなら帰ろうとしてるぞ』
文次郎が後ろで控えている5人に矢羽音で声をかけた。
『見るからに全身に怪我してるじゃないか!天女様は保護しないと。先生も言ってたじゃないか』
『というか文次郎の服装に違和感を抱かないのか?あいつ、よほど頭が悪いらしい』
『とりあえず保護だ、学園長先生に判断してもらおう。さっさと連れて帰ってこい』
さて、どうやって連れ帰るべきか。
「怪我も負われているようですし、学園で治療致します。こんな状態で山の中を歩いては危険です。」
当たり障りのない答えをされる。
「天女様、山を降りられては困ります。どうか私と同行願えますか」
「私は琴弾です。琴弾加代といいます、天女様ではないので貴方はきっと勘違いをなさっている。」
「いいえ、勘違いなどではありません。ときどきこの学園には未来から突然やってくる者がおります、それが天女様なのです。」
「ここは平成ではなく室町です。貴方は違う時代に飛ばされ、ここに来てしまった。詳しい話は学園でするので、どうか着いてきてください。」
彼女は納得していなそうな顔をしていたが、こちらが引かないことを察すると、渋々といった様子で着いてきた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
山の中で死を待っていたらこの敷地は学園内だったらしく、起こされてしまった。
目の前を歩くこの人は見たことがない怪しい服装をしていて、私が天女様だとか、ここが室町だとか言ってきて、なかなか信用は出来ないが、学園の敷地と言うならばここで死ぬのはあまりにも教育上よろしくない。
なんかもうほんとに、申し訳ない。
怪我まみれで怪しい私をわざわざ起こしに来て、わざわざ治療してくれるとか。久しぶりに感じた優しさが身にしみて胸がキュッとなり、苦しくなった。
それと同時に、彼が向けてくる視線には刺々しいものが含まれているような気がするのは、私の気のせいであって欲しいと切に思った。日々部活内で感じるあの私を見るときの冷たい視線と一緒でないことを祈った。
目の前を歩いていたはずの彼はもうあんなところまで行っている。
起き上がったときに足が片方折れていることに気づいた。歩くならば本当は固定したかったが、彼はなんだか急いでるような、私と関わりたくないような雰囲気を出している気がして、言い出せなかった。
しかしこのままのペースでは私が迷子になって手間をとらせてしまう。申し訳ないが歩くスピードを少しだけ緩めてもらおう。
「すいません、足が折れてるようで歩きずらいんです。少し歩く速度をおとしてもらえるとありがたいです」
足が折れて……のところを言い終わるのが先か、伊作が動きだすのが先か。彼女の言葉が終わる前に伊作は文次郎と天女がいる場所へ辿りついた。
「なぜ足が折れていることを先に言わない!とりあえず座って、固定するから」
急に現れた男は応急手当をしてくれるらしかった。周りに人なんていなかった気がするのに、どこからやってきたのだろうか。
さっきまでいた隈が酷い男の人は急に現れた男の人に命令されて副木になるものを見つけに行った。彼も少し戸惑っていたようだった。
大人しく座って処置を受けた。他人にされるのは久しぶりでなんだかくすぐったかった。
「足を骨折してる人に歩かせる訳にはいきません」
と言われたかと思うと、視界にはオリーブグリーンと地面が映り、俵担ぎされていることが分かった。
琴弾は純粋にすごいなと思った。
一瞬で俵担ぎをできるほどの身体能力、異性であるのに一切躊躇しない精神。見たところ自分と同年代くらいだというのに、と現実逃避と似たような感覚で自分のことを担いでいる人間を心の中で褒めていた。
私が歩くよりもずっと早いスピードで2人は山を歩いていく。担がれてから10分ほど経っただろうか、隈のある男の人が言っていた忍術学園、という場所にたどり着いた。
「わざわざ担いでもらってありがとうございます。松葉……杖か杖になるようなものがあれば自分で歩けますので降ろしていただけませんか。」
さすがに学園内で人に担がれるのを見られるのは恥ずかしいし、隈のある人を見るに私はあまり歓迎されていないだろうから、ここで降ろしてもらいたかった。そんな思いが通じたのか、案外すんなりと降ろしてもらえた。
門の前には人が立っていた。門番なのかと思ったが事務、と胸元に縫い付けられているのが見えた。事務の人が「入門表にサインを〜」と、こちらにバインダーを差し出してきた。……ところどころ室町時代とは思えないものがあるのはなんなのだろうか。
名前を書いて門を抜けると、古風な建物が並んでいた。これが室町時代か。確かに教科書でも見たことがあるような造りの建物が見える。
応急手当をしてくれた人は杖を探してきてくれるようで、隈の人とそこで待っているように言われた。何人かの生徒が私のことを好奇の目で見ているのを感じる。なるべく早く杖を持ってきて欲しかった。
しかし、仲間の前で威勢を張ってしまった手前、忍者としての振る舞いを変えるわけにはいかなかった。
「天女様、起きてください。」
返事は無い、多分こちらには気づいただろうが。
「天女様、あなたを忍術学園で保護させてもらいます。」
ようやく目を開け、こっちを見る。
「あの、……天女様っていうのは私のことですか?」
「それ以外に誰がいるんですか、立てますか?忍術学園にご案内します。」
ゆっくりと天女は起き上がり、切れている口を動かした。
「すみません、学校の敷地内だと思わず。……直ぐに帰りますので保護して頂かなくて結構です。起こしてくださりありがとうございました。」
そう言って立ち去ろうとするのだが、全身に怪我を負っているのか、天女は立ち上がることが難しいらしく、近くにあった木を柱にしてゆっくりとした動きでようやく立ち上がり、歩を進めようとした。
『おい、忍術学園にも天女にも反応しなかったしなんなら帰ろうとしてるぞ』
文次郎が後ろで控えている5人に矢羽音で声をかけた。
『見るからに全身に怪我してるじゃないか!天女様は保護しないと。先生も言ってたじゃないか』
『というか文次郎の服装に違和感を抱かないのか?あいつ、よほど頭が悪いらしい』
『とりあえず保護だ、学園長先生に判断してもらおう。さっさと連れて帰ってこい』
さて、どうやって連れ帰るべきか。
「怪我も負われているようですし、学園で治療致します。こんな状態で山の中を歩いては危険です。」
当たり障りのない答えをされる。
「天女様、山を降りられては困ります。どうか私と同行願えますか」
「私は琴弾です。琴弾加代といいます、天女様ではないので貴方はきっと勘違いをなさっている。」
「いいえ、勘違いなどではありません。ときどきこの学園には未来から突然やってくる者がおります、それが天女様なのです。」
「ここは平成ではなく室町です。貴方は違う時代に飛ばされ、ここに来てしまった。詳しい話は学園でするので、どうか着いてきてください。」
彼女は納得していなそうな顔をしていたが、こちらが引かないことを察すると、渋々といった様子で着いてきた。
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山の中で死を待っていたらこの敷地は学園内だったらしく、起こされてしまった。
目の前を歩くこの人は見たことがない怪しい服装をしていて、私が天女様だとか、ここが室町だとか言ってきて、なかなか信用は出来ないが、学園の敷地と言うならばここで死ぬのはあまりにも教育上よろしくない。
なんかもうほんとに、申し訳ない。
怪我まみれで怪しい私をわざわざ起こしに来て、わざわざ治療してくれるとか。久しぶりに感じた優しさが身にしみて胸がキュッとなり、苦しくなった。
それと同時に、彼が向けてくる視線には刺々しいものが含まれているような気がするのは、私の気のせいであって欲しいと切に思った。日々部活内で感じるあの私を見るときの冷たい視線と一緒でないことを祈った。
目の前を歩いていたはずの彼はもうあんなところまで行っている。
起き上がったときに足が片方折れていることに気づいた。歩くならば本当は固定したかったが、彼はなんだか急いでるような、私と関わりたくないような雰囲気を出している気がして、言い出せなかった。
しかしこのままのペースでは私が迷子になって手間をとらせてしまう。申し訳ないが歩くスピードを少しだけ緩めてもらおう。
「すいません、足が折れてるようで歩きずらいんです。少し歩く速度をおとしてもらえるとありがたいです」
足が折れて……のところを言い終わるのが先か、伊作が動きだすのが先か。彼女の言葉が終わる前に伊作は文次郎と天女がいる場所へ辿りついた。
「なぜ足が折れていることを先に言わない!とりあえず座って、固定するから」
急に現れた男は応急手当をしてくれるらしかった。周りに人なんていなかった気がするのに、どこからやってきたのだろうか。
さっきまでいた隈が酷い男の人は急に現れた男の人に命令されて副木になるものを見つけに行った。彼も少し戸惑っていたようだった。
大人しく座って処置を受けた。他人にされるのは久しぶりでなんだかくすぐったかった。
「足を骨折してる人に歩かせる訳にはいきません」
と言われたかと思うと、視界にはオリーブグリーンと地面が映り、俵担ぎされていることが分かった。
琴弾は純粋にすごいなと思った。
一瞬で俵担ぎをできるほどの身体能力、異性であるのに一切躊躇しない精神。見たところ自分と同年代くらいだというのに、と現実逃避と似たような感覚で自分のことを担いでいる人間を心の中で褒めていた。
私が歩くよりもずっと早いスピードで2人は山を歩いていく。担がれてから10分ほど経っただろうか、隈のある男の人が言っていた忍術学園、という場所にたどり着いた。
「わざわざ担いでもらってありがとうございます。松葉……杖か杖になるようなものがあれば自分で歩けますので降ろしていただけませんか。」
さすがに学園内で人に担がれるのを見られるのは恥ずかしいし、隈のある人を見るに私はあまり歓迎されていないだろうから、ここで降ろしてもらいたかった。そんな思いが通じたのか、案外すんなりと降ろしてもらえた。
門の前には人が立っていた。門番なのかと思ったが事務、と胸元に縫い付けられているのが見えた。事務の人が「入門表にサインを〜」と、こちらにバインダーを差し出してきた。……ところどころ室町時代とは思えないものがあるのはなんなのだろうか。
名前を書いて門を抜けると、古風な建物が並んでいた。これが室町時代か。確かに教科書でも見たことがあるような造りの建物が見える。
応急手当をしてくれた人は杖を探してきてくれるようで、隈の人とそこで待っているように言われた。何人かの生徒が私のことを好奇の目で見ているのを感じる。なるべく早く杖を持ってきて欲しかった。
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