コロイカ夢
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ハイカラ、バンカラ問わず、イカタコクラゲ分け隔てなく、街中はハロウィンムード一色。
フェス中となると普段のチームからは離れ、自分が投票したチームの仲間たちと一緒に戦うことになる。普段は関わることもない、いわゆる高嶺の花のような遠い存在であっても。
きっかけは単純に、カフェでパンプキンラテと紫芋ラテで迷っていた時に、後ろから声を掛けられただだけだ。
「どっちにするか悩んでいるのか」
「えっ!? ハ、ハイ!?」
背後から低く響く声に振り返ると、そこには反り立つゲソにイカスカルマスクのボーイが立っていた。ハイカラシティにその厳めしい表情を知らない者はいない。
「S4のスカルさん……? ですよね……?」
「さん付けはやめろ」
「じゃあ、スカルくん」
「ああ」
「S4のお方が何の御用で……?」
「季節限定のラテはどちらも美味い。両方頼むといい」
「両方は飲みきれないから大丈夫です」
「そうか」
お腹の容量が規格外の人のアドバイスだ。
しかし、パープルチームのスカルくんが目の前にいると自然と紫芋ラテの気分になり、早々にオーダーを決めることができた。私の後のスカルくんはパンプキンラテを頼んでいた。本当に些細なきっかけではあったが、その時にTシャツで同じ陣営であることがわかったので、一緒にナワバリバトルをやっている。
最初はかなり緊張したが、何度かバトルを重ねると打ち解けられるのかイカタコの良いところだ。
遠目に見て憧れているだけだった存在が隣にいてくれると思うと、胸が昂る。
正直、力量差を感じる。スカルくんは桁外れに強い。自然と頼ってしまう事になるが、敵を倒すことは彼に任せて私は私にできることをやるだけだ。それに、ハロウィンフェスでのバトルに無粋なことを言うようなイカタコはいなかった。
みんな普段のギアは外し、ウミウシカチューシャ、カジキマスク、エンチャントローブ……思い思いの格好をしている。イカタコたちにとって、イカした格好でフェスを楽しむことが、何よりも大切だと思っている。
「私も、ギア変えようかな」
「なぜだ?」
「みんなハロウィンらしい格好してるから、私も変えてみたくて」
「ハロウィンらしい格好……ああ、そういう事か」
スカルくんの目線が他のイカタコに向き、やっとハロウィンムードに気づいたような言葉をこぼす。
賑やかなフェス中であっても、スカルくんの表情は普段と変わらない平静そのもの。そもそもスカルくんは、ハロウィンらしいギアに変えることに興味が無いのだろう。純粋にバトルを楽しみたいのかも。私はと言えば、バトルはもちろん勝ちたいけれど、ハロウィンムードを楽しみたい。バトルに対してそこまで熱意のない私がスカルくんの隣にいていいのだろうか。きっと、もっと他の強い子と一緒にいた方が良い。
「あの、さっきのバトルありがとう、スカルくんと組めるなんて思ってなかったよ」
「気にするな」
「ギア変えてくるし待たせちゃうかもしれないから、一回解散しよっか」
スカルくんの時間を取らせたくない。そんな気持ちから出た言葉だったが。どういう受け取り方をしているのか。鋭い眼を一層鋭くし、私の顔をじっと見つめる。
言葉数が多い方ではないのは知っているが、厳めしい表情のせいか、怒っている……?
「え、っと……」
「待つ」
言葉を選びかねている私の言葉に重ねるように、ぽつりと、
返答に耳を疑う。待っててくれるの!? S4のスカルくんが?
「そんな、悪いよ!」
「まだコレがある」
そう言うスカルくんは、いつの間にか両腕でドリンクカップを持っていた。いや、抱きかかえていると言った方がいい。いつの間にバケットスロッシャーに持ち替えたのかと思った。
「スカルくん、それ何?」
「ハロウィンスイーツラテ、カラメルソースとクリーム増量」
「おいしそうだね」
「ああ」
「そんなバケットスロッシャーみたいなサイズあったんだ」
「S+になると注文できる」
「そういうのあるんだ。知らなかった……」
「飲んで待っている。ギアを変えてくるといい」
「じゃ、じゃあ……」
適当なベンチに腰掛け、ラテに向き合う。自分だったらどれだけの時間をかけて飲むことになるのか想像もつかない。スカルくんなら10分、15分くらいで飲んでしまうのだろうか。本当に待っていてくれるかわからない。
それに、スカルくんは方向音痴だと聞いたことがある。フェスの人の多さのせいで、どこかに行ってしまうかもしれない。それでもいい。そのほうが良いかもしれない。
正直自信が無い。スカルくんは私を責めたりしないけど、スカルくんが楽しいと思うバトルを私ができない。周りから見ても、きっと力量の釣り合わない奴と組んでいると思われているはず。
やっぱり、断ろう。
踵を返すと、そこにいるのはスケアリーフェイスのボーイ。
お面から覗く紫色の鋭い眼光。
「ム」
「スカルくんがギア変えてきたの!? この一瞬で!?」
「ああ」
さっき離れてから3分も経ってないのに? 秒でドデカラテ飲んでギア変えて戻ってきたの?
さっきまでは名の通りのイカスカルマスクを着けていたはずなのに、今は“スケアリーフェイス”を付けている。たしかハロウィンのために配布されたギアだ。あのスカルくんが仮装してくれるなんて思っていなかった。
ギアを変えると、当然ながら普段隠されている口元を見ることができる。真横一文字に引き結ばれた唇を、まじまじと見つめてしまう。
「どうかしたか」
普段のイカスカルマスクもかっこいいけれど、スケアリーフェイスのお面と頭巾で顔やゲソが覆われ、ミステリアスさが増している。
「か、カッコよくて、ついジロジロ見ちゃった……ごめん」
「……おまえはさっきと同じだな」
「この一瞬じゃ着替えられないよ。ギアもまだ迷ってるし……」
「アンコウラバーマスクか、ひれおくん……か」
「どういうチョイス!?」
「ブルーチームが付けている」
指さす方を見ると、ブルーチームのゴーグルくんとメガネくんがもみくちゃになっていた。ギアのせいで顔は見えづらいが、動きで彼らであることがすぐわかる。メガネくんの鋭いツッコミを、ウツボか何かのように軟体ですり抜けるゴーグルくん。
「本当だ! 楽しそうだけども私にあのノリできるかな!?」
「ふ、冗談だ」
スカルくんが小さく噴き出すように、笑った。マスクか何かをしていたら気づけないような、本当に小さな笑み。
笑うんだ。
さっきから私は、スカルくんのことを怒っているかもとか、どこかに行ってしまうかもとか、ネガティブな方ばかりに考えてしまっていた。マスクの下に隠れていただけで、結構笑ってる? 私が見ていなかっただけで。
「……あの、どうして私と組んでくれるの?」
「?」
「あ、いや、いつものチームの子と合流したほうが、落ち着くんじゃないかって……」
「おまえはとても楽しそうにしている。おまえを見ていて、オレもそういう楽しみ方をしたくなった」
思っていなかった返答に、一瞬面食らう。
じわりと胸の中が熱くなる。
「急に変なこと聞いてごめんね」
「気にするな」
「今度こそ変えてくる!」
「ああ、待っている」
彼に背を向け、ロッカーを目指す。チームも力量も違うけれど、今のきみと私が楽しめるように。
どんなギアにしよう。ウミウシカチューシャ、エンチャントハット、キョンキョン帽……キンギョマスケラもかっこいいかも。ひれおくんで行ったら驚いて笑ってくれるかな。
きっとどんなギアでも、楽しめるよね。
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