太中が推しの子の世界へ。 この手を離さない
SIDE 中也
俺の名前は、中原中也じゃなくなった。
星野水晶、芸名は昼夜。
知ってる通り、俺は星野アイの三つ子の内の末の子供だ。
兄も姉も前世っていうのがあるらしい。特に兄なんかは気が置けない兄弟…なんだが、時々過保護すぎないかとは思う。
所謂ブラコンで、俺の姉に対してはシスコンだ。因みに姉もブラコン。
それから星野アイのガチオタクだ。兄妹の中でオタクじゃないの俺だけだな。
一週間くらい前か?
アクアが世間に暴露したのは。
俺達がアイの子供だって事、バレてからはそれはまあ大変だったな。
俺が通ってんのは高校の芸能科なんだが、これまた周りは芸能人しか居なくて。
その中でも俺は自分の芸名とか仕事を一切明かさなかったから、ほぼ只の一般人が混ざってるとか思われてただろうな。
でもアクアとルビーが兄姉って事は知られてたから、アクアが「昼夜は自身の弟だ」なんて公表した所為で俺が昼夜だって事も必然的にバレた、って訳だ。
ニュース出た翌日は酷かったぜ。周りの奴等皆騒ぎ立てて囃し立ててキャパオーバーで早退した。
まあ、デビューした経緯は追々話すが、そん時世話になったのが、五反田カントク。偶々映画撮れるでっかい子供だな、云うなれば。けどまあ世話になったことには変わり無え。
…俺の親、か。
ニュースで報道されている通り、俺の母親は星野アイ、それは間違いねえ。けど父親の存在は全く判ってない。
…否、全くっていうのは嘘だな。
正直に言うと、父親に大体目星は付いてる。
カミキ、って俳優だ。
会ったことは無いが、アクアに彼奴の面影がある。それも、残酷なほどに。
そして、その父親がアイを殺した首謀者なんだ、多分。
けど、云って仕舞えば俺は余り興味がない。母親が殺されたことも、自分の父親のことも。
人が死んだとしても関心を持たないのを前世の所為にするっていうのは、筋が違うのだろう。俺はそう云う人間に成り下がったんだよ、たぶん。
今の暮らしに不自由なんてねえし、そこそこ楽しい。だからこそ寂しかった。
兄妹で買い物に出掛けたり、他愛も無い話したり。
光の世界は今迄知らなかった事ばっかりだった。
普通に、真っ当に、光の世界で生きるって。
…でも物足りなかった。
俺の血は黒に染まっている。闇に生きた花は光に焦がれて死ぬ、自然の摂理だ。
俺は光の世界では生きていけない。
俺の話なんてこんなもんだぜ、詰まらねえだろ?
✶✶✶
SIDE 太宰
「…中也、本気で云ってるの…?」
「あ?何がだよ」
「君…嘘でしょ…何で…」
如何して、と繰り返す。
この子は一体…如何してこんなに己の人生を軽視できようか。
私でさえ十歳まで前世の記憶が無いからとあんなに無邪気だったのに。否記憶がないからって黒歴史だけどあんなの。
…じゃなくて。この人生だったら、君には光の中で生きていく方法なんて幾らでもあるのに。
中也は云わなかったけど多分、この子は…私が本当は黒に染まっている事が解っていた、否信じていたんだ。だから自ら、闇の世界を選んだのだ。本当に…如何して。私と一緒に居たいからだなんて、莫迦な事を。
一瞬、ほんの一瞬、彼を光の世界へ戻そうかと云う想いが過った。が、それは一瞬の気の迷いだ。
中也には幸せになって欲しいけど、もうこの可愛い私の相方を手放したくなど無い。当然だろう、こんな可愛い事をされては。
「はあー…愛してるよ…」
「は…?お、おう…」
一寸引いたような顔を見せているのは照れ隠し。嬉しそうに口元が綻んでいるのがその証拠。
その表情の緻密な変化が、愛おしくて堪らない。
「ああもう本当可愛いんだから!」
「な、にがだよ!莫ー迦」
抱き着いても抵抗を見せない、素直に成り切れない所さえも愛おしい。
本当に、君がこの世界に居て善かった。
そうでないと私は矢張り生きていく事が出来なかったろう。君を見付けられて、本当に善かった。
と、不意に腹の虫が鳴った。今は丁度夕飯時だ。
中也は唇で綺麗な弧を描いて笑った。
「何か作るか」
「え、善いの?」
腰を上げてキッチンへと向かう中也をぱたぱたと追い掛ける。
「台所と食材、勝手に使うぜ」
「勿論!やった、中也の料理だ」
昨日森さんが購入している定期便のネットスーパーの食材が入ったから、材料は豊富な筈だ。
冷蔵庫を開けて色々取り出す中也を眺める。こうして、中也が料理するのを見るのも久し振りだ。なんだか感慨深くなる。
「何作るの?」
「秘密」
にやりと笑った中也の手は忙しなく動き続けている。
ちらりと食材を見て、あっと声に出す。
「オムライスだ」
「正解。よく判ったな」
「だって前にも作ってた」
「そうだっけか」
炊飯器に色々調味料を加えた米をセットして、同時進行で鍋にスープまで作り出す。よく同時に考えながら動けるなあ、とつくづく思う。
太宰は別に考えることは容易いのだが、考えたことに手先が反して何故か全く別物が出来上がってしまうのだ。手先が器用な筈なのに。
鍋に火をかけた中也に、後ろから抱き着く。「危ねえぞ」と軽く一瞥されたが、振り払おうとはしない。そういうところを見ると、やっぱり甘えたいんだなと思ってしまう。
あっという間にコンソメの匂いが漂い、スープが完成する。
少し経てば、炊飯器が炊けた米の存在を忘れるなと云わんばかりに音を鳴らす。
そこで。中也はにんまりと笑みを浮かべて、卵を割る。
私は慌てて、中也の手元を凝視する。あれよあれよという間にそこまで来てしまったのか。
出来たオムレツ片手に、予めよそっておいたチキンライスの皿を持ち上げる。赤く色付けられ、ほかほかと湯気を立てるその米の上に、これまた熱そうに蒸気を上げる黄色い楕円を乗せる。
「一寸待てよ、後で割ってやる」
もしかして、割る、って真逆。
期待を膨らませる私を他所に、中也はもう一つの綺麗なオムレツを焼き上げる。
「っし、割るぞ」
そう宣言して、中也はナイフをオムレツにゆっくりと差し込んだ。それを上手く動かしながら、チキンライスをマーブル状の黄色と白が覆い尽くすように垂らす。ふぅ、と嘆息した中也は、二個目に取り掛かる。
「わぁ…すっご…」
出来上がったふわとろオムライスを眼前に、私はこっそり写真を撮る。
いつ見ても恐ろしいプロ並みの技だ。彼は一体何処でこれを学んだのだろうか。…真逆姐さん?今度訊いてみようっと。
「頂きまーす」
「おう、召し上がれ」
芸術的な曲線を描く卵にスプーンを柔らかく突き立てる。立ち上った湯気に怖気付きながら口に入れると、案の定熱いものの口一杯に旨味が広がった。
「んんー、美味しい…もう中也のご飯しか食べらんない」
「そりゃ大変だな」
苦笑する中也は、嬉しそうに自分もスプーンを持った。
半分ほど食べたところで、はたと疑問が浮かぶ。
「そういえば中也さ、家でも料理してるの?」
「あぁ、大抵は。偶にミヤコさん…義理の母親、が俺の忙しいときにしてくれるけど基本的には俺が飯作ってんな。俺が料理好きなのもあるし」
「へえ…何かやっぱ中也両立してるね」
「そうでもないぜ。まあ所謂、歌手活動は大体不定期だし。そんな忙しくねえよ」
再び、匙を進める。スープも飲んでみると、これがまたとんでもなく美味しい。味の素無くても食べられるのは中也の料理だけだ、本当に。
「学校は?」
「陽東高校の芸能科。芸能科は出席日数気にしなくて善いから早退欠席はザラだし。ルビー…姉も最近は忙しそうだから午前の二時間だけ登校だぜ、笑っちまうよな」
「えぇ芸能人怖…何その世界…でも中也も割と忙しい方じゃない?」
「そうでもねえって。事務所の傾向がフリーの契約だから。まあ、本当に忙しい時だと一週間登校すらする時間なくて、朝の五時から夜十一時頃まで色々連れ回されたな」
「え、嘘何そのタフすぎるスケジュール、未成年でしょ?労働基準法って知ってる?」
「知ってるも何も…つーか前世マフィアだったから何とも無いだろこんくらい、って思ってたらスタッフにドン引かれた」
「当然だよマフィア基準にしないでもらえる?逆にスタッフが可哀想になってくる」
それもそうだな、と中也は笑いながら呟いて、スープを飲み干した。その晒け出された喉元を見て、私ゴクリと喉を鳴らした。
幾ら何でも無防備過ぎる。
それと同時に感じた違和感に気付く。
何かが足りない。何だろう。
首を傾げながら見つめていると、「なんだよ」と気付かれた。
「んー?何でもなぁい」
「そうかよ」
再び、ちらりと中也の首元に目を遣る。そこで漸く、違和感の正体に気付いた。
チョーカーを着けていない。
その理由を聞こうかと思ったが、何となく察したような気になって、口に出すのは躊躇われた。中途半端に口を開きかけて、また閉じる。
「…ンだよ手前、さっきから変だぞ。云いたい事有んならちゃんと云え」
「ううん、何でも無いって。…今じゃなくていいの」
「…?おう」
こういう時の中也は聞き分けがよくて善い子だ。何を云おうとも私が口を開かないことを知っているし。
それにしても、チョーカー、ねえ。どうしようかな。私が贈らないと意味無いよね。
スープを一口啜って、色々な算段を考える。こういうのを贈るのは、特別な日じゃないと、とか。
「ご馳走様、美味しかった」
「おう、お粗末様」
本当に久々で美味しい中也のご飯はあっという間に私の胃袋に収まった。
「で、この家、首領のだろ?帰って来ねえのか」
「うん。今日は忙しい日だから帰って来ないよ」
「そうなのか」
一寸悲しそうな顔をする中也。その表情に、嫉妬心がむくむくと湧き上がる。
「そんなに森さんに会いたいの?私だけじゃ駄目?」
少し咎めるような口調で云うと、中也は吃驚したように目を見開く。
「ンだよ、急に。…妬いてんのか?」
「別に」
我ながら子供じみた対応だ。らしく無いな、と唇を噛む。
中也は私の顔をじっと見つめた。
「何だよ、妬いてんじゃねえか」
「別にそんなんじゃないって」
「じゃあ何でそんな不貞腐れた顔してんだよ」
「えっ」
顔に出てた?真逆。このポーカーフェイスを得意とする私が?思わず頬に手を当てる。
「ふはっ、本当に妬いてんのかよ」
「…えっ!」
うわ、鎌かけられたんだ私、と気付くまでにそう時間はかからなかった。
本当にらしくない。何時もなら仮令中也相手にでもこんなヘマはしないのに。
っていうか、もしかすると中也がそういう芸当に長けてきたのか。
最悪、飼い主を欺く犬なんて洒落にならないんだけど。
「…中也、何処でそんな芸覚えてきたの」
「手前のやってきたこと真似てるだけだ、それに話戻すが俺が好いているのは手前だけだ莫ー迦」
額にデコピンを一発噛まされた。いたっ、と呻く。
でもまあ、変な輩からそういうこと教わってなくてよかった。まだ私なだけマシか。飼い主を真似る犬…悪くないかも。
っていうか今中也なんて云った?私の事好きって?うわあ唐突に告白するのやめてほしいんだけど。
「おーい、太宰ー?なんか喋れよ、おい聞いてんのか」
うわ、可愛い。
思わず接吻すると、舌を甘咬みされた。痛っ、何で。
俺の名前は、中原中也じゃなくなった。
星野水晶、芸名は昼夜。
知ってる通り、俺は星野アイの三つ子の内の末の子供だ。
兄も姉も前世っていうのがあるらしい。特に兄なんかは気が置けない兄弟…なんだが、時々過保護すぎないかとは思う。
所謂ブラコンで、俺の姉に対してはシスコンだ。因みに姉もブラコン。
それから星野アイのガチオタクだ。兄妹の中でオタクじゃないの俺だけだな。
一週間くらい前か?
アクアが世間に暴露したのは。
俺達がアイの子供だって事、バレてからはそれはまあ大変だったな。
俺が通ってんのは高校の芸能科なんだが、これまた周りは芸能人しか居なくて。
その中でも俺は自分の芸名とか仕事を一切明かさなかったから、ほぼ只の一般人が混ざってるとか思われてただろうな。
でもアクアとルビーが兄姉って事は知られてたから、アクアが「昼夜は自身の弟だ」なんて公表した所為で俺が昼夜だって事も必然的にバレた、って訳だ。
ニュース出た翌日は酷かったぜ。周りの奴等皆騒ぎ立てて囃し立ててキャパオーバーで早退した。
まあ、デビューした経緯は追々話すが、そん時世話になったのが、五反田カントク。偶々映画撮れるでっかい子供だな、云うなれば。けどまあ世話になったことには変わり無え。
…俺の親、か。
ニュースで報道されている通り、俺の母親は星野アイ、それは間違いねえ。けど父親の存在は全く判ってない。
…否、全くっていうのは嘘だな。
正直に言うと、父親に大体目星は付いてる。
カミキ、って俳優だ。
会ったことは無いが、アクアに彼奴の面影がある。それも、残酷なほどに。
そして、その父親がアイを殺した首謀者なんだ、多分。
けど、云って仕舞えば俺は余り興味がない。母親が殺されたことも、自分の父親のことも。
人が死んだとしても関心を持たないのを前世の所為にするっていうのは、筋が違うのだろう。俺はそう云う人間に成り下がったんだよ、たぶん。
今の暮らしに不自由なんてねえし、そこそこ楽しい。だからこそ寂しかった。
兄妹で買い物に出掛けたり、他愛も無い話したり。
光の世界は今迄知らなかった事ばっかりだった。
普通に、真っ当に、光の世界で生きるって。
…でも物足りなかった。
俺の血は黒に染まっている。闇に生きた花は光に焦がれて死ぬ、自然の摂理だ。
俺は光の世界では生きていけない。
俺の話なんてこんなもんだぜ、詰まらねえだろ?
✶✶✶
SIDE 太宰
「…中也、本気で云ってるの…?」
「あ?何がだよ」
「君…嘘でしょ…何で…」
如何して、と繰り返す。
この子は一体…如何してこんなに己の人生を軽視できようか。
私でさえ十歳まで前世の記憶が無いからとあんなに無邪気だったのに。否記憶がないからって黒歴史だけどあんなの。
…じゃなくて。この人生だったら、君には光の中で生きていく方法なんて幾らでもあるのに。
中也は云わなかったけど多分、この子は…私が本当は黒に染まっている事が解っていた、否信じていたんだ。だから自ら、闇の世界を選んだのだ。本当に…如何して。私と一緒に居たいからだなんて、莫迦な事を。
一瞬、ほんの一瞬、彼を光の世界へ戻そうかと云う想いが過った。が、それは一瞬の気の迷いだ。
中也には幸せになって欲しいけど、もうこの可愛い私の相方を手放したくなど無い。当然だろう、こんな可愛い事をされては。
「はあー…愛してるよ…」
「は…?お、おう…」
一寸引いたような顔を見せているのは照れ隠し。嬉しそうに口元が綻んでいるのがその証拠。
その表情の緻密な変化が、愛おしくて堪らない。
「ああもう本当可愛いんだから!」
「な、にがだよ!莫ー迦」
抱き着いても抵抗を見せない、素直に成り切れない所さえも愛おしい。
本当に、君がこの世界に居て善かった。
そうでないと私は矢張り生きていく事が出来なかったろう。君を見付けられて、本当に善かった。
と、不意に腹の虫が鳴った。今は丁度夕飯時だ。
中也は唇で綺麗な弧を描いて笑った。
「何か作るか」
「え、善いの?」
腰を上げてキッチンへと向かう中也をぱたぱたと追い掛ける。
「台所と食材、勝手に使うぜ」
「勿論!やった、中也の料理だ」
昨日森さんが購入している定期便のネットスーパーの食材が入ったから、材料は豊富な筈だ。
冷蔵庫を開けて色々取り出す中也を眺める。こうして、中也が料理するのを見るのも久し振りだ。なんだか感慨深くなる。
「何作るの?」
「秘密」
にやりと笑った中也の手は忙しなく動き続けている。
ちらりと食材を見て、あっと声に出す。
「オムライスだ」
「正解。よく判ったな」
「だって前にも作ってた」
「そうだっけか」
炊飯器に色々調味料を加えた米をセットして、同時進行で鍋にスープまで作り出す。よく同時に考えながら動けるなあ、とつくづく思う。
太宰は別に考えることは容易いのだが、考えたことに手先が反して何故か全く別物が出来上がってしまうのだ。手先が器用な筈なのに。
鍋に火をかけた中也に、後ろから抱き着く。「危ねえぞ」と軽く一瞥されたが、振り払おうとはしない。そういうところを見ると、やっぱり甘えたいんだなと思ってしまう。
あっという間にコンソメの匂いが漂い、スープが完成する。
少し経てば、炊飯器が炊けた米の存在を忘れるなと云わんばかりに音を鳴らす。
そこで。中也はにんまりと笑みを浮かべて、卵を割る。
私は慌てて、中也の手元を凝視する。あれよあれよという間にそこまで来てしまったのか。
出来たオムレツ片手に、予めよそっておいたチキンライスの皿を持ち上げる。赤く色付けられ、ほかほかと湯気を立てるその米の上に、これまた熱そうに蒸気を上げる黄色い楕円を乗せる。
「一寸待てよ、後で割ってやる」
もしかして、割る、って真逆。
期待を膨らませる私を他所に、中也はもう一つの綺麗なオムレツを焼き上げる。
「っし、割るぞ」
そう宣言して、中也はナイフをオムレツにゆっくりと差し込んだ。それを上手く動かしながら、チキンライスをマーブル状の黄色と白が覆い尽くすように垂らす。ふぅ、と嘆息した中也は、二個目に取り掛かる。
「わぁ…すっご…」
出来上がったふわとろオムライスを眼前に、私はこっそり写真を撮る。
いつ見ても恐ろしいプロ並みの技だ。彼は一体何処でこれを学んだのだろうか。…真逆姐さん?今度訊いてみようっと。
「頂きまーす」
「おう、召し上がれ」
芸術的な曲線を描く卵にスプーンを柔らかく突き立てる。立ち上った湯気に怖気付きながら口に入れると、案の定熱いものの口一杯に旨味が広がった。
「んんー、美味しい…もう中也のご飯しか食べらんない」
「そりゃ大変だな」
苦笑する中也は、嬉しそうに自分もスプーンを持った。
半分ほど食べたところで、はたと疑問が浮かぶ。
「そういえば中也さ、家でも料理してるの?」
「あぁ、大抵は。偶にミヤコさん…義理の母親、が俺の忙しいときにしてくれるけど基本的には俺が飯作ってんな。俺が料理好きなのもあるし」
「へえ…何かやっぱ中也両立してるね」
「そうでもないぜ。まあ所謂、歌手活動は大体不定期だし。そんな忙しくねえよ」
再び、匙を進める。スープも飲んでみると、これがまたとんでもなく美味しい。味の素無くても食べられるのは中也の料理だけだ、本当に。
「学校は?」
「陽東高校の芸能科。芸能科は出席日数気にしなくて善いから早退欠席はザラだし。ルビー…姉も最近は忙しそうだから午前の二時間だけ登校だぜ、笑っちまうよな」
「えぇ芸能人怖…何その世界…でも中也も割と忙しい方じゃない?」
「そうでもねえって。事務所の傾向がフリーの契約だから。まあ、本当に忙しい時だと一週間登校すらする時間なくて、朝の五時から夜十一時頃まで色々連れ回されたな」
「え、嘘何そのタフすぎるスケジュール、未成年でしょ?労働基準法って知ってる?」
「知ってるも何も…つーか前世マフィアだったから何とも無いだろこんくらい、って思ってたらスタッフにドン引かれた」
「当然だよマフィア基準にしないでもらえる?逆にスタッフが可哀想になってくる」
それもそうだな、と中也は笑いながら呟いて、スープを飲み干した。その晒け出された喉元を見て、私ゴクリと喉を鳴らした。
幾ら何でも無防備過ぎる。
それと同時に感じた違和感に気付く。
何かが足りない。何だろう。
首を傾げながら見つめていると、「なんだよ」と気付かれた。
「んー?何でもなぁい」
「そうかよ」
再び、ちらりと中也の首元に目を遣る。そこで漸く、違和感の正体に気付いた。
チョーカーを着けていない。
その理由を聞こうかと思ったが、何となく察したような気になって、口に出すのは躊躇われた。中途半端に口を開きかけて、また閉じる。
「…ンだよ手前、さっきから変だぞ。云いたい事有んならちゃんと云え」
「ううん、何でも無いって。…今じゃなくていいの」
「…?おう」
こういう時の中也は聞き分けがよくて善い子だ。何を云おうとも私が口を開かないことを知っているし。
それにしても、チョーカー、ねえ。どうしようかな。私が贈らないと意味無いよね。
スープを一口啜って、色々な算段を考える。こういうのを贈るのは、特別な日じゃないと、とか。
「ご馳走様、美味しかった」
「おう、お粗末様」
本当に久々で美味しい中也のご飯はあっという間に私の胃袋に収まった。
「で、この家、首領のだろ?帰って来ねえのか」
「うん。今日は忙しい日だから帰って来ないよ」
「そうなのか」
一寸悲しそうな顔をする中也。その表情に、嫉妬心がむくむくと湧き上がる。
「そんなに森さんに会いたいの?私だけじゃ駄目?」
少し咎めるような口調で云うと、中也は吃驚したように目を見開く。
「ンだよ、急に。…妬いてんのか?」
「別に」
我ながら子供じみた対応だ。らしく無いな、と唇を噛む。
中也は私の顔をじっと見つめた。
「何だよ、妬いてんじゃねえか」
「別にそんなんじゃないって」
「じゃあ何でそんな不貞腐れた顔してんだよ」
「えっ」
顔に出てた?真逆。このポーカーフェイスを得意とする私が?思わず頬に手を当てる。
「ふはっ、本当に妬いてんのかよ」
「…えっ!」
うわ、鎌かけられたんだ私、と気付くまでにそう時間はかからなかった。
本当にらしくない。何時もなら仮令中也相手にでもこんなヘマはしないのに。
っていうか、もしかすると中也がそういう芸当に長けてきたのか。
最悪、飼い主を欺く犬なんて洒落にならないんだけど。
「…中也、何処でそんな芸覚えてきたの」
「手前のやってきたこと真似てるだけだ、それに話戻すが俺が好いているのは手前だけだ莫ー迦」
額にデコピンを一発噛まされた。いたっ、と呻く。
でもまあ、変な輩からそういうこと教わってなくてよかった。まだ私なだけマシか。飼い主を真似る犬…悪くないかも。
っていうか今中也なんて云った?私の事好きって?うわあ唐突に告白するのやめてほしいんだけど。
「おーい、太宰ー?なんか喋れよ、おい聞いてんのか」
うわ、可愛い。
思わず接吻すると、舌を甘咬みされた。痛っ、何で。
6/6ページ