白干し梅(長編)
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すっかり日が沈んで提灯の灯りを頼りにたどり着いた宇髄邸は夜だからか、怖いくらいに静まり返っていた。
案内をしてくれた隠もこれから仕事があると足早に去って行き、物音のしない出入り口に1人残されるとなんとも心細くて冷や汗が出る。真っ暗闇をこんなに怖いと感じたのは、生まれて初めてかもしれない。
「ごめんください、ななしです!宇髄さんに声を掛けられてきました!どなたかいらっしゃいませんか?」
夜にも関わらず大きな声を出したのは暗闇の所為だろう。緊張で心臓が脈打っていた。
「入って来い」
「ヒィ!!」
奥から声が聞こえて思わず飛び跳ねた。声の主はおそらく宇髄さんだろう。とにかく怖いので草履を脱いで急いで引き戸を開ける。行燈の明かりで室内が薄明るく照らされ、座布団の上に胡座をかく宇髄もそこにいてホッとした。灯りと人がいるだけでこんなにも安心するのか、その場にへたり込んでしまった。
「おいおい、何してんだ?せめて戸を閉めろ」
その言葉にハッとして、慌てて戸を締めて正座で向き直す。
「すみません。暗すぎて怖かったので…つい」
「…ああ、俺も嫁も夜目が効くから気が付かなかったわ」
全く済まないと思っていない顔で言葉だけの謝罪を受ける。しかし、顔が良くて許せてしまう。
非番と聞いていた通り、顔の化粧はしていないし、髪も下ろしている。着流し姿に隠しきれない色気が漂っていてどうにも緊張してしまう。
「お嫁さんがいらっしゃるなら、私が揉みに来なくてもよかったのでは…?」
色気に当てられているのを悟られまいと冷静を装う。
「…嫁には派手に任務があるんでね。」
そう言うと初めて私から視線を外して近くにある紙束をチラリと見やる。
ああそうか、この時期から始まっていたのか…
ひとりで納得していると、何も言わない私に一瞬訝しげな眼差しを向けた。
「ま、今日は胡蝶も任務で居ねえからな。お前を地味に有効活用しようってことだ」
しのぶさんは任務で不在だから私をここに来させたようだ。安全の為というよりは、監視の意味合いの方が強く感じた。
さて、と宇髄さんが立ち上がって後ろの襖を開けて隣の部屋へ移動すると、気を使ってくれたのかすぐに行燈が灯される。
手招きをされ移動すると寝間らしき部屋に布団が敷かれていた。そこに宇髄さんが寝転がると妙に緊張してしまい、視線を逸らした。
「じゃ、頼んだ」
投げやりに言うとうつ伏せになり、早くしろと視線を向けられる。ぎこちなく近寄り手拭いも持ってきていなかったため、仕方なく着ていた羽織を彼の身体に掛けた。遥かに体格のいい身体は自分の羽織一枚では覆いきれず腰から下がはみ出ていた。上半身だって、着流しと薄い羽織では隠しきれない筋肉がそこにある。
「…按摩ですよね、分かってます。始めますよ!」
色気に負けないよう自分に言い聞かせ、とりあえず肩から始めよう。そう思って頭の上に移動しマッサージを始めた。
しばらく集中して揉み続け、体にじっとりと汗をかいてきた。集中してしまえば色気も何も無くなってしまい、マッサージに没頭していた。
「ふぅ、次は腰を揉みますよ」
ベッドとは違って布団のため、高さが無くてやりにくさを感じる。素人ではあるが仕事としてきちんとこなしたい気持ちになった。
「うん、ちょっと失礼しますね」
「んー、おう。…あ"!?」
私の行動に驚いた宇髄さんが変な声を出し、顔を上げてこちらを向いた。うつ伏せとは言え己の上に跨がられたのだから、そりゃびっくりするだろう。
「あ、体に力入っちゃうので顔上げないでください」
そう言うと何か言いたげな目をしていたが、諦めたのか上げた頭を元に戻してくれた。またせっせと揉み、しっかりとコリをほぐしていく。
「宇髄さん、脚も揉みますか?」
腰の揉みほぐしがもう少しで終わるくらいで声を掛けると、ヒラヒラと手で返事をされる。上半身に掛けていた羽織を脚に掛け直して、太ももから揉んでいく。
「…意外と上手いもんだな」
「え、本当ですか?」
そう言われると嬉しくなってつい丁寧にやってしまう。コリと共に私の緊張も解れたのか着いた時とは比べ物にならない程、口も動いてしまう。3人娘と毎日お風呂に入っているだの、アオイちゃんの料理が美味しいだの、一方的に他愛もない話をしているとあっという間に脚も揉み終えてしまった。
額の汗を袖で拭いながらポンとふくらはぎを叩く。
「一応全身やりましたけど、もう少しやって欲しいとこ…うぇ!?」
急に視界がブレて変な声が出てしまった。
何事かとギュッと瞑った目を見開けば天井と、整った宇髄さんの顔が映る。
状況が掴みきれずに宇髄さんの顔を見続けていると、いつの間にか片手で両手を頭の上に固定されている。その瞬間理解して声を上げる。
「え!?ちょっと宇髄さん!!」
固定された両手は目一杯力を入れてもピクリともしないので両足をバタバタさせたが、空いた手で私の左足を抑え、そのまま太ももに宇髄さんの膝を乗せられ動けなくなってしまう。
コレはやばいやつだ!
そう思って宇髄さんの顔を見て気がついた。
その顔には表情が何一つ無いのだ。
冷たく見下ろされ、急に怖くなって体が固まる。
すると諦めたと思われたのか両手がゆるりと放たれる。
宇髄さんの親指が口内へ入り、浴衣の
思わず声を上げそうになったが、先ほどの冷たい目が変わらずこちらを見下ろしている為それを飲み込み、開放された両手で宇髄さんの厚い胸板を押しやる。
「…だめです」
「跨った時点で誘っただろ?」
「誘ってないです!」
押しやった両腕を払いのけると、私の首筋に舌を這わせ、大きな手で内腿をなぞる。
「んぅ、っ…!」
堪えきれずに漏れた吐息に宇髄さんが口角を上げる。しまったと手で口を塞いだ。
そんな様子に表情を一変させて今度は楽しそうに笑みを浮かべ、浴衣の上から敏感な所を擦られ、与えられる快感にざわざわと肌が粟立ち始めた。
「ほ、んとうに…っ!やめっ」
思わず宇髄さんの着流しを強く掴んだ。体が熱くなり、頬が火照る。全身に力が入り始め、来る波にギュッと目を閉じた。
「…と、まあこんなもんかね。」
寸前で手を止められ先ほどまでの熱がスーッと降りて行く。
訳がわからないまま、肩で息をする私の着衣を手早く整えるとそのまま上から退いた。
「何か口を滑らすかと思ってな、色仕掛けしてみたんだがお前からは何も出てこねえな。気配の作り方も素人以下、体の作りも至って普通、間者にゃ向いてねえわな」
「…試したんですか?」
「悪かったな。もう二度とこんな事はしねえよ。俺は別の部屋で寝るからここを使え」
「試したんですね?」
沸々と怒りが沸いて睨みつける。
確かに私の存在が彼らにとって怪しいのは理解出来る。しかしこんな事をされなければいけない程の事をしたのか。蝶屋敷で少しは役に立って認められ始めたと、そう思えていたのに。
怒りと同時に沸き上がった悲しみに目に涙が浮かんできた。
そんな様子に目を見張り、バツが悪そうに宇髄さんは頭を掻いた。
「本当に悪かった。許せとは言わねえよ。ただ、俺たちの立場も分かってくれ」
「私だって、分かってますよ!?皆さんから怪しまれている事だって、線を引かれている事だって…!なのに…」
それなのに体で試すような事をするなんて。
頼れる人がいない心細さも、戻れるのか分からない不安も、全ての言動に気をつけて、顔に一切出ないように飲み込んで、明るく振る舞っていたのに。
仲間を危険に晒せないからこそ試した彼の行動に理解は出来る。ただ、気持ちが追いつかないのだ。
「…いいです、宇髄さん。私もそちらの立場だったら何かしら、するでしょうから。」
泣かないように歯を食いしばったが、涙が頬を伝う。宇髄さんは申し訳無さそうに目を細め、私を胸に引き寄せて背中を優しく撫でた。
「泣くなよ。もうお前… ななしを疑う様なマネはしねえからよ」
そんな簡単に
こころの中で、そう悪態をついた。