白干し梅(長編)
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閑話 悲鳴嶼さんとご対面
ここ数日天気が良かったおかげか、洗濯をした羽織はすぐに乾いてくれた。洋服以外の畳み方が分からず、アオイちゃんに畳み方を教えてもらい、シワが出来無いように注意する。
そう、今日は悲鳴嶼さんにあの日掛けてもらった羽織を返しに行くのだ。先日しのぶさんにはこちらで返しておこうかと聞かれたが、お礼も兼ねて自分で返したかったのでその気持ちに感謝して断った。
そしてアオイちゃんが事前に声を掛けてくれていたのか、畳み終えて10分程すると隠の人が蝶屋敷まで迎えに来てくれ、悲鳴嶼さんの元へと案内してくれた。
それぞれの屋敷同士はそう遠く離れていないようで隠の人と他愛もない話をしていたら、お喋りのお陰か体感では思ったより早く着いたように思えた。
「では、ななしさん、岩柱の悲鳴嶼さんはこの林の先で鍛錬をされていますのでこのまま進んでください。私は後ほどお迎えに来ますので!」
「はい!ありがとうございました!」
すっかり仲良くなった隠の人は喪部沢さんと言うらしい。笑顔で別れ、足場の安定しない林を進んだ。
しばらく進んで行くと、どこからか滝の音が聞こえキョロキョロと辺りを見回した。遠くにある滝が木々の隙間から見えた。もしかしたらそこにいるかもしれないと思い、そちらに足を向け更に奥へと進んでいくと、近づくにつれて自分の足跡に混じって念仏が聞こえてくる。
なんとなく木々が生い茂る林の中に1人では心許なくて、声のする方に早歩きで向かった。
ようやく開けた所に出れたが、そこにいたのはツンツン頭の不死川玄弥だった。
滝に打たれていたからか、髪の毛からはポタポタと雫が落ちている。
「…何だてめえ!見せモンじゃねえぞ!」
髪の毛と同様にツンツンした態度で悪態をつかれる。だがこれしきの圧には負けないので、笑顔で返す。
「悲鳴嶼さんに用があってここまで来たの。ほら、見た事あるでしょ?この羽織」
包んでいた風呂敷の結びをひとつだけ解いて、ほら、と胸の位置まで掲げて用事に偽りはないと見せつける。
玄弥くんは見覚えのある羽織と私の顔を交互に見て面倒そうに舌打ちをした。玄弥くんが風呂敷に手を伸ばして掴んだ。
「寄越せよ。俺から渡しといてやる」
「え?いや、直接お礼が言いたいから!大丈夫!何処にいるのかだけ教えてもらえれば…」
「悲鳴嶼さんはテメェに時間を割くほど暇じゃねえんだよ!寄越せって!」
「いやいや、しのぶさんから連絡行ってるはずだし!大丈夫だって!」
「胡蝶さんから…?聞いてねえよ!てか離せよ!力強えな!」
ドン!と肩を押されて掴んでいた風呂敷から手が離れてそのまま後ろによろけてしまった。
しまったと言わんばかりに目を見開く玄弥くんの顔に、転ぶと確信した。
ギュッと目を瞑って衝撃に耐えるため体に力を入れた。
が、いつまで経っても衝撃が来ず、恐る恐る目を開ける。
相変わらず目の前には玄弥くんがいたが、表情が先程よりも強張っていた。音も無く現れた大きな手が私の肩を持ち、倒れないよう体を支えてくれていた。
「…ひ、悲鳴嶼さん…」
少し上擦った声で玄弥くんが私の背後にいる人物に声をかけた。
「玄弥、人様に手荒な言動は慎むよう言っていたはずだ」
「す、すみません…」
玄弥くんの顔色がどんどん青くなっていく。
そんな彼に構わず、悲鳴嶼さんは私に顔を向けた。
「…胡蝶からの連絡は、私が受けていた。羽織を持って来てくれたようだな」
「こんにちは!おかげで転ばずに済みました!」
重々しい空気を変えるように、明るく言ってみる。支えられていた肩をぐっと前に戻してしっかりと体勢を直される。そのまま悲鳴嶼さんの方に向き直し頭を下げた。
「先日はありがとうございました!あの時お借りした羽織をお返しします!」
「礼には及ばない。若い女性をいつまでもあの状態で放ってはおけないからな…。帰りはそこの玄弥に、案内させよう」
振り返ると私から強奪した風呂敷を持って立ちすくむ玄弥くんが、あからさまに嫌そうな顔をしていた。
「い、いや、悲鳴嶼さん、俺…」
「玄弥」
しどろもどろになっている玄弥くんを嗜めるように、厳しい声で一言名前を呼ぶと、諦めた様子で玄弥くんが頷く。
風呂敷を悲鳴嶼さんに手渡し、鋭い目つきで私を睨みつけた。
「…行くぞ。着いて来い」
本当に仕方なくと言いたげに、進む足取りは荒々しく早い。慌てて悲鳴嶼さんに再度頭を下げてお礼を言った。
「悲鳴嶼さん!本当にありがとうございました!」
悲鳴嶼さんは薄く笑って片手を上げると振り返って玄弥くんとは逆の方向へ向かって行った。
慌てて玄弥くんの後を追いかけた。
「ちょっと待って!早すぎるってば!」
こちとら運動に慣れていないというのに、玄弥くんは涼しい顔でどんどん先を行く。
見失わないよう必死で付いていくが距離が縮まらず、静止する声も無視されてしまい、距離が広がってしまっていた。
「くっ、鬼殺隊の体力と一般人の体力が一緒だと思うなよ…!呼び捨てにしてやる!玄弥このヤロウ!!」
悪態を吐いて、先をいく玄弥に文句を言いながら付いて行った。林を抜けた先で喪部沢さんの姿が見えた時安堵で涙が出そうになった。
「ゼェ…玄弥、ゼェ…案内、ありがと…」
ほぼ走りっぱなしで息も絶え絶えだったが、一応お礼を伝える。
「…フン。じゃあな」
そう言うと玄弥は足早に、来た道を戻って行った。
「では私たちも戻りましょうか」
にこりと笑う喪部沢さんと、今度はゆっくり歩いて蝶屋敷に戻って行った。
何はともあれ無事に羽織を返せてよかったなぁ、と額ににじんだ汗を拭った。
ここ数日天気が良かったおかげか、洗濯をした羽織はすぐに乾いてくれた。洋服以外の畳み方が分からず、アオイちゃんに畳み方を教えてもらい、シワが出来無いように注意する。
そう、今日は悲鳴嶼さんにあの日掛けてもらった羽織を返しに行くのだ。先日しのぶさんにはこちらで返しておこうかと聞かれたが、お礼も兼ねて自分で返したかったのでその気持ちに感謝して断った。
そしてアオイちゃんが事前に声を掛けてくれていたのか、畳み終えて10分程すると隠の人が蝶屋敷まで迎えに来てくれ、悲鳴嶼さんの元へと案内してくれた。
それぞれの屋敷同士はそう遠く離れていないようで隠の人と他愛もない話をしていたら、お喋りのお陰か体感では思ったより早く着いたように思えた。
「では、ななしさん、岩柱の悲鳴嶼さんはこの林の先で鍛錬をされていますのでこのまま進んでください。私は後ほどお迎えに来ますので!」
「はい!ありがとうございました!」
すっかり仲良くなった隠の人は喪部沢さんと言うらしい。笑顔で別れ、足場の安定しない林を進んだ。
しばらく進んで行くと、どこからか滝の音が聞こえキョロキョロと辺りを見回した。遠くにある滝が木々の隙間から見えた。もしかしたらそこにいるかもしれないと思い、そちらに足を向け更に奥へと進んでいくと、近づくにつれて自分の足跡に混じって念仏が聞こえてくる。
なんとなく木々が生い茂る林の中に1人では心許なくて、声のする方に早歩きで向かった。
ようやく開けた所に出れたが、そこにいたのはツンツン頭の不死川玄弥だった。
滝に打たれていたからか、髪の毛からはポタポタと雫が落ちている。
「…何だてめえ!見せモンじゃねえぞ!」
髪の毛と同様にツンツンした態度で悪態をつかれる。だがこれしきの圧には負けないので、笑顔で返す。
「悲鳴嶼さんに用があってここまで来たの。ほら、見た事あるでしょ?この羽織」
包んでいた風呂敷の結びをひとつだけ解いて、ほら、と胸の位置まで掲げて用事に偽りはないと見せつける。
玄弥くんは見覚えのある羽織と私の顔を交互に見て面倒そうに舌打ちをした。玄弥くんが風呂敷に手を伸ばして掴んだ。
「寄越せよ。俺から渡しといてやる」
「え?いや、直接お礼が言いたいから!大丈夫!何処にいるのかだけ教えてもらえれば…」
「悲鳴嶼さんはテメェに時間を割くほど暇じゃねえんだよ!寄越せって!」
「いやいや、しのぶさんから連絡行ってるはずだし!大丈夫だって!」
「胡蝶さんから…?聞いてねえよ!てか離せよ!力強えな!」
ドン!と肩を押されて掴んでいた風呂敷から手が離れてそのまま後ろによろけてしまった。
しまったと言わんばかりに目を見開く玄弥くんの顔に、転ぶと確信した。
ギュッと目を瞑って衝撃に耐えるため体に力を入れた。
が、いつまで経っても衝撃が来ず、恐る恐る目を開ける。
相変わらず目の前には玄弥くんがいたが、表情が先程よりも強張っていた。音も無く現れた大きな手が私の肩を持ち、倒れないよう体を支えてくれていた。
「…ひ、悲鳴嶼さん…」
少し上擦った声で玄弥くんが私の背後にいる人物に声をかけた。
「玄弥、人様に手荒な言動は慎むよう言っていたはずだ」
「す、すみません…」
玄弥くんの顔色がどんどん青くなっていく。
そんな彼に構わず、悲鳴嶼さんは私に顔を向けた。
「…胡蝶からの連絡は、私が受けていた。羽織を持って来てくれたようだな」
「こんにちは!おかげで転ばずに済みました!」
重々しい空気を変えるように、明るく言ってみる。支えられていた肩をぐっと前に戻してしっかりと体勢を直される。そのまま悲鳴嶼さんの方に向き直し頭を下げた。
「先日はありがとうございました!あの時お借りした羽織をお返しします!」
「礼には及ばない。若い女性をいつまでもあの状態で放ってはおけないからな…。帰りはそこの玄弥に、案内させよう」
振り返ると私から強奪した風呂敷を持って立ちすくむ玄弥くんが、あからさまに嫌そうな顔をしていた。
「い、いや、悲鳴嶼さん、俺…」
「玄弥」
しどろもどろになっている玄弥くんを嗜めるように、厳しい声で一言名前を呼ぶと、諦めた様子で玄弥くんが頷く。
風呂敷を悲鳴嶼さんに手渡し、鋭い目つきで私を睨みつけた。
「…行くぞ。着いて来い」
本当に仕方なくと言いたげに、進む足取りは荒々しく早い。慌てて悲鳴嶼さんに再度頭を下げてお礼を言った。
「悲鳴嶼さん!本当にありがとうございました!」
悲鳴嶼さんは薄く笑って片手を上げると振り返って玄弥くんとは逆の方向へ向かって行った。
慌てて玄弥くんの後を追いかけた。
「ちょっと待って!早すぎるってば!」
こちとら運動に慣れていないというのに、玄弥くんは涼しい顔でどんどん先を行く。
見失わないよう必死で付いていくが距離が縮まらず、静止する声も無視されてしまい、距離が広がってしまっていた。
「くっ、鬼殺隊の体力と一般人の体力が一緒だと思うなよ…!呼び捨てにしてやる!玄弥このヤロウ!!」
悪態を吐いて、先をいく玄弥に文句を言いながら付いて行った。林を抜けた先で喪部沢さんの姿が見えた時安堵で涙が出そうになった。
「ゼェ…玄弥、ゼェ…案内、ありがと…」
ほぼ走りっぱなしで息も絶え絶えだったが、一応お礼を伝える。
「…フン。じゃあな」
そう言うと玄弥は足早に、来た道を戻って行った。
「では私たちも戻りましょうか」
にこりと笑う喪部沢さんと、今度はゆっくり歩いて蝶屋敷に戻って行った。
何はともあれ無事に羽織を返せてよかったなぁ、と額ににじんだ汗を拭った。