白干し梅(長編)
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ふっと目を覚ますと昨日と同様にすみ、きよ、なほの3人娘が無言で頭上を囲んでいる。
幼い子特有の澄んだ瞳が朝から眩しい。そして無言は少し怖い。
まだ寝ぼけている頭ではあったが、挨拶をせねばと口を開いた。
「…おはよう。すみちゃん、きよちゃん、なほちゃん」
「おはようございますななしさん」
「寝苦しかったでしょうか?」
「お胸が見えています」
鳥のように、次々と出て来る言葉に関心していたが、最後の一言で完全に目が覚めた。
胸が見えてる!?パッと浴衣の
「ごめんね、ちょっと慣れなくて…着替えるから少し待っててもらえるかな?」
羞恥心からか顔が熱くなってしまった。
その後ブラウスとスカートに着替え、部屋の外で待っていてくれた3人にお礼を言って朝食を取るべく歩き出した。
室内には昨日と変わらない顔ぶれがすでに揃っていて、挨拶をしながら昨日と同じ席に着くと待っていてくれたのかしのぶさんが音頭を取る。
「では、いただきます」
「「「いただきます」」」
カチャカチャと小さく鳴る食器の音以外はとても静かな食卓に、ちらりと周囲の様子を伺う。
しのぶさんがそれに気が付いているのかいないのか、視線を合わさず声を掛けて来た。
「今日ななしさんは食事の後片付けとお洗濯をお願いします。場所などはアオイに聞いてください。ついでに悲鳴嶼さんの羽織も洗っておきましょう。」
急に話しかけられたので少し驚きつつ、返事をする。ノールックで指示を出されるくらいには、不信感を持たれているなぁ、と感じた。
そこは少しずつ仲良くなればいいか、と楽観的に捉え笑顔を浮かべておいた。
その後、食べ終えた食器と病室に出したであろう食器をアオイちゃんの指示の元、3人娘と共に洗って片付け、それが終わったらすぐに洗濯のため外に出た。
今日も天気がよくて洗濯日和です、と言うアオイちゃんに従って慣れない洗濯板を使いながら洗い物をこなしていく。ある程度1人で出来るようになったらアオイちゃんは他にやる事があるからと3人と共に何処かへ行ってしまった。
それにしても怪我人がいるからか、衣類やシーツが多い。
時折茶色く、変色した布も混じっている。
「これは多分、血なんだろうな…」
血液は水でないと落ちにくいため、石鹸を擦り付け何度も板で洗う。数回やれば綺麗に取れて満足感を得られた。無心で同じ作業を繰り返して、終わりが見えたなーと思っていると、影が差した。
ビクッと突然現れた気配に驚いて顔を上げると、傷だらけの彼が立ち塞がっている。
「あ、こんにちは!昨日ぶりですね!」
ニコニコと愛想良く挨拶をしてみる。
が、返事はなく不機嫌そうに見下ろされている。
「えーと、しの…胡蝶さんに用事ですか??多分診察してると思いますが、誰かお呼びしましょうか?」
「…元気そうだなァ。昨日あれだけビィビィ喚いてた癖によォ」
「あれは取り乱していたんです!誰だって全裸で放り込まれたらああなりますよ!」
思い出して恥ずかしくなり、口を尖らせて文句を言う。チッと舌打ちが聞こえた。不死川は大して気にした様子も無く、邪魔するぜィと慣れた足取りで屋敷へ入っていく。
「ちょっと、待ってください不死川さん!」
勝手に進む不死川に手を伸ばして裾を掴んだ瞬間、聞き慣れた声がした。
「あら、不死川さん。遅かったですね。いつもの傷薬と包帯、ご指定通り用意してあります。お待ちしますから少しそちらでお待ちください。」
フン、と鼻を鳴らし慣れた様子で縁側に腰をかけ、胡座をかいて待つ不死川を何処か怪我でもしたのかと見つめる。
そんな不躾な視線に眉を寄せている事に気が付かず、見続けると再度舌打ちが聞こえた。
「チッ、テメェジロジロ見てんじゃねェぞ」
「あ、すみません。何処か怪我でもしているのかな、と思って。…あ!腕!そう言えば昨日腕から血が出てましたよね!?」
近寄って見たら出来たばかりであろう傷が右腕にあった。呼吸のおかげか、傷は塞がりかけていたが、普段見る事は無い痛々しい刀傷に思わず声が大きくなる。
「化膿したら長引きますよ!手当しないと!」
あわあわと騒ぐと心底面倒そうな目で見られる。こちとら破傷風とかの心配しているのに、失礼な…
そんなやりとりをしているとしのぶさんが籠に傷薬と包帯を沢山入れて持って来た。それを不死川より早く手を出して受け取ると薬と包帯を取り出した。
「胡蝶さん、これを使えばいいんですよね?このくらいなら私が手当しておきます!さあ!不死川さん腕を出してください!」
「そうですね。不死川さんには放っておくと傷が化膿するから早く手当をしてくださいと何度も伝えているのですが…中々分かって頂けないようでして。見たところ怪我は腕だけの様ですし、ななしさん後はお願いしますね。」
「胡蝶テメェ…!コイツに任せて大丈夫なのかァ!?」
「私がお渡しした以外の物を使う様子があれば、不死川さんがご自分で止めればいいだけですよ」
ニッコリ、と笑っているはずのしのぶさんの圧に黙った不死川に腕を出すよう言うと、大きなため息と共に腕を突き出してくる。圧に負けたのだろう。そんな様子に大丈夫そうですね、としのぶさんは屋敷の中へ戻って行った。
「では、失礼しますね!」
不死川の正面から横に移動し座る。出された腕を自分の膝に置き、薬を指に取って切り傷へ優しく塗り込んで行く。くすぐったいのかたまに腕に力が入るのが分かった。逞しい腕が包帯に巻かれ始めると、不死川が干してある洗濯物へと視線を向けたようだった。少しだけ、緊張感のあった空気が緩んだ気がした。
手当自体は簡単なもので、5分ほどで終わってしまう。
「…はい、出来ました!もし他にもあればついでにやっておきますか?」
「いや、大丈夫だァ。世話になったなァ」
「お大事にしてくださいね!」
と言葉を返しながら薬の蓋を締めて籠に戻す。それを今度こそ不死川へ渡すとパッと受け取り、もう用事はないとばかりにヒラヒラと手を振りながら蝶屋敷を去って行った。
「さて、お洗濯ももう少しで終わるし、頑張ろうかな!」
太陽が真上付近に上がって来ているから、正午が近いのだろう。早く終わらせようと気合いを入れ直し、残る洗濯物と対峙した。