白干し梅(長編)
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あの後、なんとか御館様に取り次ぎが出来たようでとりあえず女性だし、悲鳴嶼さんに羽織を掛けてもらったとは言え素っ裸だった事もあり、怪我の有無を確認するため診察も兼ねて蝶屋敷預かりと処遇が決まった。
物理的に帰る家が無く放り出されたら死ぬ事間違いないので、御館様に泣きながら懇願した甲斐があった。飯炊きでも三助でも按摩でも何でもしますと必死に訴えてよかった。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を用意してくれた冷水で洗えば、少しは気分も晴れる。
「まじで怖かった…死ぬかと思った…」
げっそりと呟いて、縫製担当の前田(ゲスメガネ)という人から受け取った服に袖を通す。着物の着方が分からないと言う私に、驚き?ドン引き?ながらもとりあえず、とブラウスと膝丈スカートを渡された。俗に言う胸空きミニスカートでは無かったのでほっと胸を撫で下ろした。
着慣れない服に加えて下着が一切無いため、やはり着心地は良くないが、わがままも言っていられないため我慢する。
「失礼します。着替えは済んだようですね。ではしのぶ様の所へ案内します。」
丁度着替えが終わり一息付いた頃に、これまた見慣れたツインテールの女の子がテキパキと説明し案内をしてくれる。
「えっと、私はななしと言います。何て呼んだらいいかな?」
「アオイです。神崎アオイと申します。呼び方はご自由にどうぞ。」
「ありがとう、アオイちゃん。よろしくお願いします。」
知っているとはいえ、不信感を持たれたく無いので短く自己紹介をすると、アオイちゃんはこちらを少しだけ振り返りすんなり名前を教えてくれる。やる事がたくさんあるのだろう、アオイちゃんは少し早歩きで前を進む。
蝶屋敷は広いんだなーなんて思いながら後を続けば聞き覚えのあるセリフと賑やかな声が聞こえて来る。
「がんばれ伊之助!がんばれ!」
「お前は頑張ったって!すげえよ!!」
「ゴメンネ…弱クッテ…」
ギャーギャーと騒がしいやり取りに、少しだけ頬を緩んだ。
「もう!あの人たちったらまた!ななしさん少しだけここでお待ちください。」
言い残すと怒った足取りで喧しい室内へ入った。
「静かになさってください!!いい加減にしないと縛りますからね!!」
ヒィィイ!と汚い高音が響き、何度もすみませんと謝る声も聞こえて来る。
好奇心が抑えられず、ひょっこりと顔を覗かせると思った通りの人物がいる。あどけなさが残る3人は思っていたよりも幼く見える。
私の気配に気づいてこちらに視線を向けて来たので本当に鋭いものだ、と感心してしまう。
「こ、こんにちは!ななしと言います…」
視線の多さに耐えられず、少しずつ声が尻すぼみになる。普段こんなに注目を集める機会など無かったので緊張してしまう。が、お構いなしに
「こんにちは!俺は竈門炭治郎です!こっちが善逸、こっちが伊之助です!よろしくお願いします!!」
「キャァァァ!!女性だぁぁ!!初めましてキレイなお姉さん!俺の為に看病してくれるのかな!??ヤッタァァ!!」
善逸の勢いに少し引いていると、またアオイちゃんの怒号が飛ぶ。キリがないやり取りに慣れているのか、アオイちゃんは眉を吊り上げながら、大人しくしていてください!と言い残すと私の腕を引き、今度こそ目的の場所へと連れて行ってくれた。
「しのぶ様失礼します。ななしさんを連れて来ました。」
「ななしさん…?あぁ、あなたのお名前ですね。それでは時間もないので、診察をしていきましょうか。」
にっこりと笑う相手に、釣られて笑顔になる。
めちゃくちゃ可愛い。醸し出すオーラはヒヤリと冷たいものの、小柄で物腰の柔らかい様子には心が開いてしまいそうだ。
「よろしくお願いします。ななしです。」
「はい、胡蝶しのぶと申します。…突然現れたので、とても驚きましたが昼間ですし、鬼ではないようでよかったです。見たところ、怪我は無いようですが痛むところなどありませんか?」
「全く無いです。」
ふむ、と頭の先から足の先まで一瞥するとまた笑顔で大丈夫そうですね、と言われる。
何を聞かれるのかソワソワしている様子に気がついているのかいないのか、しのぶさんは黙ったまま手元の紙に何かを記入している。
沈黙に耐えられず自分から言うことにした。
「あの、胡蝶さん、私なにが起こったのか分からなくて…要領も得ないと思うんですけど」
と、前置きをして自身に起きた事を説明する。
お風呂に入っていた事。そのお風呂でお酒を飲んでいた事。眠くなって寝てしまった事。そして、気がついたら素っ裸であそこにいたのだと。
流石に次元の違う世界からやって来ました!とは、口が裂けても言えなかったので、どこから来たのかだけは記憶があやふやだと誤魔化しておいた。
「御館様にお話ししていた内容そのままですね。…先ほど決まった通り、ひとまずはこちらで過ごしていただきますので、他に何か思い出したら都度伝えてください。」
コクコクと何度も頭を頷く。
「分からない事はそこにいるアオイや、近くにいる子に聞いてください。私は留守にする事が多いので、何かあれば手紙など残しておくように。」
「お世話になります。」
では、と一礼して後ろで待機していたアオイちゃんにまた連れられると、4畳半程の部屋に通された。
「ここがななしさんのお部屋になります。お布団はそこ、机はそこです。急いで準備をしたので足りない物があったら言ってください。」
「アオイちゃんありがとう!早速だけど、私はここで何かできる事はあるかな?」
何でもやるよ!と言うとアオイちゃんは表情を崩さずに言う。
「いえ、今日は色々と疲れたでしょうからこのままゆっくりなさって下さい。しのぶ様もそう言っていました。お夕飯は皆んなで頂きますので、時間になったらまたお声がけをします。」
では、とキビキビと去っていくアオイちゃんの姿が角を曲がって行くまで見つめた。