小噺
おつきさま
「ただいま!」
日付が変わるまであと三十分というところで、やっと玄関の戸をあけたわたしは大きな声で挨拶をした。もう少しで帰ることを予め連絡しておいたから、そこには堀川くんが立っていた。
「おかえりなさい、遅かったですね」
わたしは靴を脱がずに堀川くんの腕を掴んで、軽く引いた。彼はきょとんとした顔でわたしを見下ろしている。
「堀川くんきて、そと」
「外ですか?」
「うん、月、見た?」
「……見てないですね」
「食べかけのクッキーみたいな大きい月が下に落ちてるの」
運転中に外でふと横を見たときに文字通りの月が綺麗に輝いていて、堀川くんに見せたいな、もう見たかなと考えていたのだ。堀川くんは本丸共有の外履きを履いてわたしに並んだ。
「あれ、どこだ」
いつもより低い位置にある月は探しにくかったが、ぐるりと辺りを見回すと、黄色く上半分が欠けた月がそこにあった。
「わ、本当だ」
「ね、大きいし、落ちてるでしょ」
「色も濃くて……たくあんみたいですね」
「ええ……クッキーのほうが可愛い……」
堀川くんのほうを見ると、彼は楽しそうにくすくすと笑っていて、それだけで胸がいっぱいになった。
「それだけ、ごめん、寒いのに外引っ張り出しちゃって」
「いいえ」
「堀川くんに見せたいなって思っちゃったの」
わたしがそう言うと、右手がそっと彼の手に包み込まれた。
「嬉しいですよ、共有したいなって思ってくれるのは」
なんだか照れ臭くなって誤魔化すように、えへへと笑う。しばらくの間、ふたりで月を眺めておしゃべりをしていた。
