刀+さに 短編
にゃん太
内番を終えた南泉と縁側で猫の如くのんびりしていた時のことだ。隣にいる南泉から強烈な視線を感じて、審神者は彼の方に顔を向けるもどうにも視線が合わない。少しずれた場所をじいと見つめている。具体的に言えば、審神者の左隣だ。あまりにも真剣な眼差しに、審神者には見えない、何か良くないものでもいるのかと薄気味悪くなって「ねえ」と強めに声をかけた。
「ん?ああ、わりぃ」
「何かいるの」
「そんな怖い顔するほどのもんでもないにゃあ」
先ほどまでの真剣な眼差しが嘘のように柔和な笑みを浮かべると、南泉は以前猫を飼ってはいなかったかと審神者に尋ねた。かつて犬を飼ったことはあったが、猫が家にいたことはなかったので素直にそう答えると、南泉はうにゃ、と顰めっ面をした。
「犬かよ。じゃあ、そいつはなんだァ?」
「そいつ?」
南泉の指差した先を見るも、審神者の目には何も映らない。彼の言分から察するに、そこに猫でもいるのだろうか。
「体格の良い三毛猫だにゃあ。今日だけじゃなくてよぅ、時々主に付いて回ってんだ」
「ピピじゃなくて?」
「ちげえ」
ピピというのは尾の先に鈴をつけたサバトラだ。元は審神者が幼年の頃から大切にしているぬいぐるみなのだが、本丸に持ってきた際にどうやら審神者の力やら環境のせいやらで身体を得たらしく、時折本丸を彷徨いているという。審神者自身は見たことがないのだが、何口かから目撃情報を得ていた。
審神者は三毛猫がいるらしい空間を見つめながら、ふとあることを思い出した。母から聞いた祖母の家にいたという猫の話だ。
「にゃん太かな」
「んあ?」
「おばあちゃんの家にね、三毛猫のにゃん太がいたの」
「……そこにいんのはメスだぜ」
再び〝そこ〟に目を向けたが、やはり審神者の目には何も映らなかった。
「うん。女の子だったけど、にゃん太っていう名前だったんだって」
「ふぅん」
「にゃん太は元々野良猫で、おじいちゃんが拾ってきた子なの。相当可愛がられてたから、太っちょだったってママが言ってた。それでね、わたしが生まれた時の話なんだけど、わたし、産声を上げなかったんだって。つまり息をしていなかったってことなんだけど。でも、今はこうして南泉と話しているからね、無事だったんだよ。そう、でね、にゃん太はわたしが産まれたときに息を引き取ったんだって。だから、わたし、猫ちゃんに助けてもらったのかなあって。お前が逝くなら、アタシが逝くにゃって感じだったのかなあって。ママもにゃん太のこと、すごく可愛がっていたみたいだから」
審神者が辿々しく話すのを南泉は静かに聞いていた。聞き終わると彼は立ち上がり、審神者の左隣に猫一匹分の隙間をあけて腰を下ろした。
「お前、にゃん太か」
そう言うと、南泉は猫を撫でるようにして手を動かした。
「ここにいる?わたしも撫でたい」
南泉は審神者の手を取り、そっと
「そこ、腹」
「えっ、怒ってない?」
「喉鳴らしてるから大丈夫だろ、にゃ」
「じゃあいいか。ありがとね、にゃん太」
礼を伝えたその時、しゃがれた、お世辞にも可愛いとは言えない「にゃあん」という鳴き声が聞こえて顔を上げると、南泉と目が合った。
「聞こえたか」
「うん」
「良かったにゃあ。届いたってよ、お前の声」
一等優しい、慈愛に満ちた表情で南泉はにゃん太に語りかける。
「お前が自分の命と引き換えに繋いだ命だもんにゃ。オレたちがしっかり守るぜ」
そう言うと南泉は、にゃん太を撫でていた審神者の手を力強く握ったのだった。
