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刀さに 短編

三週間


 とある日の八つ時のことだった。

「結婚するんだって」

 手元のスマートフォンを見ながら、審神者が呟く。誰が、あの子が、そりゃめでたいことだな、なんて当たり障りのない会話がその後に続いた。
 大好きな幼馴染からの突然の結婚報告。審神者は驚いたが、素直に嬉しかった。だってあの子は小さい時から今の今まで、将来の夢が誰かのお嫁さんだったのだ。高校の卒業文集にもそんなこと書いて、ちょっとだけ伝説になっていたのを思い出してクスッと笑った。

「ただなあ、ちょっと心配なんだよね」
「心配か。安心じゃあないのかい」
「うん。何せお付き合いの報告を受けてから、本日の結婚報告を受けるまでの期間が、なんと、三週間です」

 所謂スピード結婚というものだろう。審神者は大般若の顔の前に三本の指をぴんと張ってアピールした。一ヶ月にも満たない期間で人生の伴侶を決めてしまうだなんて驚きである。審神者自身は結婚までにそこそこの期間を設けたいと考えているが、あの子のようにそうでない人もいる。勢いが必要だとも聞いたことがあるし、結局人それぞれなのだろうと悟った。

「そうかい。まあ、愛があるなら時間なんて関係ないだろう」

 俺はそう思うがね、と大般若は手元の茶請けを口に運ぶ。今日の茶請けは梅雨の時期にぴったりの、紫陽花を模した和菓子だ。つつくのが勿体無いと思うほど美しい造形をしていた。

「そういうもんか。愛って偉大だなあ」
「はは、他人事だと思ってるだろ」
「他人事だよ。審神者やってたらそうでしょ」

 半ば諦めである。審神者はこの仕事に就いたが最後、婚期を逃すと噂で聞いていたが、あながち間違いではなさそうだとこの頃特に感じていた。多忙に加え出会いがない。中には刀剣男士と添い遂げるものもいるそうだが、己の本丸では……と想像してやめた。審神者は自分が刀剣男士と仲睦まじく寄り添う姿を思い浮かべられなかったのだ。ちなみに今回結婚したあの子は現世で一般職に就いている。

「ちなみに結婚願望は」
「できればしたいかなって、私だって諦めてるわけじゃないよ」

 苦笑いで目の前にいる刀に返すと、とんでもない一言が返ってくる。

「じゃあ、俺はどうだい」
「は」
「愛がありゃ、時間なんて関係ないと証明して見せよう」

 大般若はよっこいせ、とおじさんくさい掛け声と共に立ち上がると、審神者のほうへ向かった。審神者の可愛らしいつむじを少し眺めてから跪き、するりと手を取ると、真摯な眼差しを寄越す。

「あんた、刀剣男士をそういう対象として見てないから、どうしたもんかと考えあぐねていたんだが、丁度良い。俺に落とさせてくれ」

 期限は三週間でどうだい、と笑う付喪神にどう返したものか。今の審神者が幼馴染の記録を塗り替えることになるとは知る由もない。
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