刀さに 短編
あつい
太陽のジリジリとした熱と鬱陶しい蝉の声、そして嘘みたいな空の青さと白い雲のコントラストが私を苦しめる。夏は嫌いだ。
大暑が過ぎ、暑さはますます酷くなっているというのに、エアコンが壊れてガラクタになった。空調を司っている大本の電気系統がやられたとかで、いま、こんのすけがどうにか頑張っているらしい。刀剣男士はともかく、私の生命を脅かすこの状況に、管狐は金切り声を上げながら政府と連絡をとっていた。誰かが吊り下げた風鈴がねっとりとした風を受けてチリリと鳴った。
縁側の屋根から簾が下がり、床には影が落ちている。そこはいくらか床の板が冷たくて、私は全身を貼り付けるようにして廊下に転がった。足は陽に当たっているが気にしない。もしかしたら、靴下みたいに日焼けするかもしれないが、どうでもいいと力尽きた。
転がりながら微睡んでいると、誰かが近づいてきてちょうど私のところで止まった。
「主、大丈夫か?」
穏やかな波を思わせるゆったりとした声がする。千代金丸だった。返事をするのも面倒で、ウウンと
「これを持っていたからな」
私の目の前に切子細工がほどこされたグラスが置かれる。中には氷がたっぷり入っていて、中の飲み物は炭酸なのか、細かい泡がパチパチと弾けていた。
「俺の飲みかけで悪いが、飲んだ方がいい」
私の顔にかかっていた髪をそっと払った千代金丸は「起き上がれるか」と私を心配そうに覗き込んだ。水面を思わせるかのような彼の垂れ下がった髪が、光を受けて煌めき、それでいて冷たそうで、手を伸ばして触れてみる。さらりと清らかに私の手から滑り落ちて、想像していたような水っぽさとか冷たさとか、そういうのはなかった。
「具合悪いわけじゃないよ」
「ずっと、ここでそうしていたら、悪くなるさー」
たくましい腕に支えられながら、体を起こす。
「ほら」
外気温との差でひどく汗をかいたグラスを受け取り、こくりと一口飲んでみると口の中にシュワシュワと甘さが広がっていった。サイダーだった。
「おいしいってうちなーぐちで、なんて言うの」
千代金丸は「ああ」と言いながら胡座をかいてわたしと向き直る。ちょうど、線で引いたみたいに、居場所が日陰と日向で分かれた。私が日陰で、彼が日向。
「まーさん、だな」
「まーさん」
「うまいか」
「うん」
意識していなかっただけで、大層喉が渇いていたらしい。少しだけもらうつもりが、ごくごくと飲んでしまって、グラスを確認したときには、サイダーはほんの少ししか残っていなかった。
「ごめん、ほとんど飲んじゃった」
「全部飲んだらいいさー。もっと欲しいならもってくるが……」
千代金丸の言葉を聞きながら、残りを飲んでしまおうと思い切りグラスを傾けると、氷に押し出されて残りがどっと口元に押し寄せ、口に入らなかった分が溢れ出る。そのせいで、胸元が幾分か濡れてしまった。下着が少し透けてしまったが、この暑さだ、すぐに乾くだろう。
「こぼれた」
「氷を入れすぎたな。とはいえ、傾けすぎだ」
ははは、と静かに笑う千代金丸の首筋にキンキンに冷えたグラスを当てる。表情は変わらなかったものの、少しは驚いたのか喉仏がひくりと動いたのがわかった。
「そっち、暑くないの?」
「暑いのには、慣れてる」
「……こっちおいでよ」
日陰に誘ったが、首を振ってなぜだかこちらに来たがらない。不思議に思いつつ残った氷のうちひとつを口に入れてガリガリ噛んだ。
「あちさんやー」
「なに?」
千代金丸はポツリと呟いたが、聞き取れない。
「うんじゅんーちょーとぅ、わたぬやーさ」
「だから、なぁに?」
疑問に答えることなく、再びあちらの言葉を私に投げてくる。いつもはヤマトの言葉に合わせてくれている彼だったが、今日ばかりは違うらしい。そして結局言葉の意味を教えてはくれなかった。
ただ、茹だるような暑さと彼の視線が重なって、しばらく千代金丸の目が見られなかったということだけ、ここに記しておく。
